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 沈痛な面持ちで聖女は魔王に告げた。


「面白い話をしてもよろしいでしょうか」

「とても面白そうな話をする顔ではないが」

「怨敵勇者が転生したようです」


 すっと真顔になった聖女はまるで天気の話をするかのような軽快な口ぶりだ。なので一瞬、魔王は聖女の言葉を流してしまいそうになったけれど、よくよく噛み砕いたその内容にぎょっとする。


「なんだと!?」

「勇者パーティ時代に便利に使っていた念話が飛んできました。念話の気配を探ったら、そこそこ近場にいるようです」

「まて、念話を返したのか」

「いいえ? ガン無視でございます!」


 誰があのクソ野郎に返信なんてするものですか、と元仲間に対してなかなか冷たいことを言う聖女に、魔王はちょっと微妙な気持ちになる。本来は聖女は勇者側の人間なのだから。


「魔王の封印がひとつ、ほどかれているのはバレているようです。まっすぐこちらに向かっているそうです」

「そうか……」


 つかの間の休息だったと魔王は苦笑した。

 勇者が来るの出れば、自分の首に封印がかけられるのも時間の問題だろう。首だけの自分に逃げる手段はないので、あっさり捕まってふうじられるに違いない。

 そう思っていたら。


「なのでこれから逃げようと思います」

「は?」


 聖女がすっと魔王の首を抱き上げた。それから鳥籠のような物の中に魔王の首を丁寧に入れた。まさに囚われの首。魔王は顔を引き攣らせた。


「待て、どこににげるというのだ」

「この際ですし、魔王様の身体を全て復活させようかと思いまして!」

「余計なことはしなくていい!」

「でもこのままだと子作りできませんし!」

「この聖女、諦め悪い!」


 顔を赤らめて元気に主張する聖女に、魔王は嘆いた。


「そこまでそなたに負担をかけるわけにはいかない」

「負担なんかではございません。私がやりたくてすることでございます」

「だが、そなたの生活が……」

「私を育ててくれた両親たちには駆け落ちしてきますと、すでに伝えてまいりました!」

「用意周到!」


 聖女の手際のよさに魔王はくっ、と唸った。もうこうなった聖女は止められないことは、短い付き合いでもよく知っている。


「……そなたがそれでよいのであれば」

「もちろんでございます」


 ふふふ、と嬉しそうにする微笑む聖女に、魔王は鳥籠の中で成るように成れと思うことした。

 どうせ暇なのだから、聖女の逃亡劇に付き合うのもまた一興だ。


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