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登校


 さて、そんな昔話は数話先に持ち越すとすればいいとして、現代に戻ってしまえばありきたりな世界そのものだ。隣をべったりと歩こうとしては、すげなく躱される妹の姿が少々異質に思えるだけで、華やかなスクールロードは綺麗なものだ。


「お兄ちゃん。ここら辺そんな綺麗な街並みでもないよ。むしろ寂れてはいるよ」


「うるさい。今はノベルゲームにおける主人公の最初の一言みたいなものだ。事実を突きつけるな」


「最初って、今は中盤でもあるでしょ。それなのに自分が主人公だと思っているなんて、お兄ちゃんも可愛いね」


 黙れ、と言ってやりたいがそもそも人生というやつは常に自分が主人公でしかない。それを可愛いというのは、コイツが人生という尺度で語れないほど長生きしている証拠でもある。一体どれだけ長生きしているのか聞いてみたことがあったが、必ず「女性に年齢聞かないようにね。デリカシーないからモテないよ」とテンプレートにテンプレートを貼り付けて、更にテンプレートとデリカシーと社会通念を重ねた言葉で返されるのだから、無意味だと悟ってしまうわけだ。

 まぁ、だとしても生き方は変えられないし、言い方なんて変えられるだけの手札なんてない。例え、デリカシーがないだの。コンプライアンスがどうだの。関係ないくらいには、人間とやらはすぐに変えられる生き物ではない。



 ◆



「君達にとって、常識があってなんになると思う。常識なんて、社会性のある動物が勝手に決めたものでしかなく、ただただ、生きにくくなるような都合の悪いものに蓋をするものでしかない」

「常識はいらない。信号は赤になったら渡らない、青になったら渡りなさい。相手の目を見て話をしなさい。挨拶はハキハキと元気よくしなさい。飲酒してから車を運転してはいけません。人を馬鹿にしていけません。傷つけてもいけません。殺してもいけません。男は女を守るべき。そんな常識に縛られていて、本当にいいのでしょうか。例えば、殺人にしても殺さなければいけない理由があったとすれば、それは仕方の無いことだと思いませんか? 信号だって急いでいる時に赤信号だったら、イラつく。だったら、そもそも無ければいい。相手の目なんて見なくても話せる。挨拶はしなくても支障はない。

 じゃあ、ついでに暗黙の了解と呼ばれるものもいらない。更には、倫理観も邪魔をするからいらない。そうやって、あらゆるものを排除してしまえば普通ではなくなってしまう」

「そうなると、人間社会は酷く荒んだものとなるでしょう。そのことに危機感を抱いたのなら、常識とやらは意外と必要だということ。そして、決して他者に押し付けていいものではない。ということです」

「雨が降っているから傘をさす人もいれば、面倒だからと傘をささない人もいるでしょうし、雨に濡れる感覚が好きな人だっているわけです。相手に自身の常識を押し付けることは、人を殺すことと同義だと思うようにしてください」

「――さて、これで皆さんが事前に暗記したものは吹き飛びましたでしょう。小テストを始めます」


「「「…………」」」


 うわぁ、と言いたげな重く、呆れた嘆息があちらこちらから聞こえてくる。中には必死に勉強していただろうに、先生の講義に集中したせいでしっかりと吹き飛んだ人もいる。落ち込んでます。

 かといって、そんなことを教壇に立つ先生が気にしているわけもなく、むしろ気持ちいいくらいの笑顔を浮かべているのだから、相当に性格が悪いのだろう。

 この先生は大体こんな感じで生徒をおもちゃみたいに扱う。それでも講義の内容自体は、そこそこ興味を惹かれるものだから、余計にタチが悪い。

 かくいう、俺だってしっかりと暗記していた内容が一部分思い出せないわけだが。チラッと、妹の様子を見ると何食わぬ顔をしていながら、思うところがあったのか暗い顔をしていた。

 惑わされるなんて悪魔らしくない。

 そう思っていたのだが、俺は見事平均点。妹は満点という、思った以上にしっかりとちゃっかりとしていた妹であった。

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