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悪魔


 じゃあ、ベッドに横になった俺がふと考えるのは、妹の正体である。いや、悪魔だとしてもだ。本人が悪魔だと言っていたとしても、それがどういう悪魔かで危険度が変わってくる。

 といっても、妹とは長年の付き合いで危ない目どころか、何事もなく平凡な時間が通り過ぎたのだから、危険な悪魔じゃないのかもしれない。

 ただ、そういった判断材料があるというだけで確定するのは気が早いというものだ。


「なんだっけ、欲情を煽ってきて精魂枯れ果てさせる悪魔とかいたよな」


「それはサキュバスだねお兄ちゃん」


「ナチュラルに部屋に入ってくるな。そして、布団の中に潜り込んでくるな」


「いいじゃん。今のアタシは甘くて刺激的ないい匂いと、柔らかな感触の持ち主だよ。堪能しなきゃ損だよ。むしろ、味あわせているんだからお礼を言って欲しいね」


「そういうのを押し付けがましいと言うんだぞ」


 天井を見上げて考え事の俺へ、掛け布団の下から潜り込んでくる妹。しかも、俺が動けないように覆い被さってきて。


「てか、お前服着ろよ。風邪ひくぞ」


「人肌が一番の衣装だとアタシは思うわけだよお兄ちゃん」


うるさい(じゃかしい)。鬱陶しいから離れてくれ」


「……これだけやっても反応しないなんて、お兄ちゃんはあれ? なんだっけ、不全というやつかな?」


 失礼なことを言いやがって。ぶっ飛ばす。


「妹に欲情する馬鹿がどこにいる。五秒以内にベッドから降りなきゃ、蹴飛ばす」


「はーい」


 そのまま、ぬるりと横へ転がりながら降りる妹。ぷっくりとした、柔らかく綺麗なお尻をわざとらしく揺らしながら。

 いらんいらん。そういうの。


「で、お兄ちゃん。妹としては心配なわけですよ」


「あー、確かにこのままじゃ俺は警察に捕まって刑務所に行くことだろうな」


「そういうことじゃなくてね。そんなことになっても、アタシも一緒に捕まってあげるから心配しないで」


「やめてくれ、兄妹揃って逮捕歴あるとか親が悲しむ」


「まぁ、アタシの親では無いんだけどね」


 それもそうだが、今やお前だって家族みたいなものだ。そう言えたら、どれだけかっこよかっただろうか。


「お前が勝手に、いつの間にか、家族になっていたなんてホラー映画でもそうそうないぞ」


「これは映画じゃなくて現実だよ」


「屁理屈言うな面倒くさい」


「屁理屈てやっぱり、便秘だと臭いのかな。ここで言う便秘て、あれね。詰まったような理屈のことね。煮詰まったやつとか臭そうじゃない?」


 知らんがな。

 しかし、まぁ、言っていることは理解できる。そもそも、煮詰まった理屈。つまり、言い詰まったものを屁理屈だとすれば、それは聞き苦しいものだろう。そういう意味では便秘によってガスが溜まるということと重ねた。掛けたとすれば、うむ。阿呆らしいというか。


「で、お前が便秘かどうかは興味ないから置いておくとしてだ」


「やだなぁ、快便だよ。毎日朝にはしっかり出てるよ」


 汚いからやめなさいよ。女の子でしょうが。


「問題はお前がなんの悪魔だってことだ。いい加減正体くらい教えてくれてもいいだろう」


 いつの間にか、気づいた時には我が家の妹になっていた。娘になっていた。俺の妹になっていて、家族になっていた。気づいた時、俺は幼稚園の年少だったはず。その頃からポッと現れては、今まで生きている。更には同じ学校に通っていながら、正体がなんなのか分からない。それはそれで兄としてどうなのか。


「そこまで聞きたがるかねお兄ちゃん。アタシが誰であろうと、何者であろうと、お兄ちゃんを愛する妹に変わりないじゃない」


「兄として、妹が何者なのか知っておかないと廃るだろうが。兄の威厳を守るためにも、必要なことだ」


 これを聞いてすんなり教えてくれたら今までの会話で、言ってくれているはず。

 そして、何度も聞いてきたことだ。

 そして、何度も何度も――


「いいよ。お兄ちゃんがアタシを好きになってくれたら教えてあげる」


 そう(ゆう)は、俺の唇へ優しく口付けをしイタズラに笑顔を浮かべる。


「おやすみ、お兄ちゃん。愛してるよ、この世の誰よりも」


「おやすみ。教えてくれない奴を好きになることはないから、不意打ちでキスしたって無駄だぞ」


 ちぇ、と可愛らしくいじけながら、遊は部屋へと帰って行った。

 こうやって、何度も何度も誤魔化されるのだ。

 小悪魔みたいな妹だ。

 常々思う。魔性の女かもしれないと。


「やっぱり、サキュバスじゃないのか?」


 そう言いながら、俺は枕に後頭部を乗せると落ちるよりに眠りへと沈んでいった。

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