表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

学園


「よぉ、今日は朝から元気がないみたいだな」


「……酷いもんだ」


 学園について即行、自分の机に突っ伏していた。朝から疲れたものだ。いや、恐ろしいことを体験したのだから疲れたなんてものじゃない。

 もう感情なんてぐちゃぐちゃだ。怒りと悲しみとでぐっちゃぐちゃ。その後に食べた朝ごはんなんて味がしないなんてものじゃなかった。


「朝からそんな疲れるようなことがあるもんかね。部活に入っているわけでもあるまいし」


「朝練に参加できるほど、朝に強かったらどれだけ良かったか……」


「そんなにかよ……。まぁ、なんだ。どんまい」


 顔を上げ、無責任な言葉を投げてくる人物を瞳に捉える。けっ、イケメンがよ。


「なんで起きるなり舌打ちするんだよ」


「理由なんか鏡でも見てこい」


「よく分からん。まぁ、憎まれ口を叩くくらいは元気があるならいい」


 そう快活な笑顔を浮かべる男。美男子だな相変わらず。

 唯一の友人としてこれほど惨めなことはないかもしれない。


勇刀(ゆうと)は元気そうだな」


「俺はいつだって元気だぞ。活発男子そのものだ。人生なんて楽しいことなんて数少ないんだし、今この瞬間でも楽しんで、元気にいなきゃ損だろ」


「高校二年生でそんな達観してんなよ、ジジくさい」


 浜風(はまかぜ)勇刀(ゆうと)。美少年。美男子と言っても遜色ないどころか、虚飾にすらならないほどのイケメン。むしろ、美男子という言葉の方が虚飾だというくらいの過激派だって存在するような男。最もらしい。彼を表現する言葉は美少年だと難しい。だから、もっといい言葉を作ってくれとさえ懇願するような熱狂的ファンだっている奴。

 俺とは真逆でもある。

 こいつもおかしな連中の一部分ではある。

 しかし、こんな俺にも優しく接してくれているのだから、そう邪険に扱うのも失礼だろう。なにより、ファンクラブの人達に殺されかねない。


「ところで、君。クラス中で噂になっていたけど、何をしたんだい?」


「何もしてねぇよ。()()


 勇刀がクラスを見渡し、それでも原因が判明せず首を傾げる。いい。お前は分からなくていい。分かってもらったら俺が困る。それこそ、腫れ物扱いの俺がこうして教室にいられるのはお前のお陰なんだから、お前がいなくなったら居場所が無くなるなんてものじゃない。


「……このままじゃ社会的死が待っている」


「本当に何をしたんだい!?」


「聞くな」


 それでも聞きたい。けど無理に聞くのも嫌だろうという気遣いが垣間見える。

 いい男だ。俺もそうでありたかったよ。


「お前がもし、その話を聞いてしまった時。俺はお前をどうするか分からない」


「え……困るよ……そういうのは二人きりの時だけにしておいてくれ……」


「おい。お前までおかしなことを言うんじゃない」


 顔まで赤らめないでくれ。モジモジするな。その行動一つ一つで俺への注目が集まるんだから。今は隠れていたいんだ。お前の美貌でどうにかしてくれ。


「なになに? お兄ちゃん。いやらしいことでもしようとしているの」


「………………」


 よりにもよって、一番来て欲しくない人間が来やがった。


「ちょっと、妹ちゃんが来たのにそんな怖い顔しないでよ。あの時の夜みたいじゃん」


「あの時の夜!? 君、一体何をしたんだ!?」


「何もしてねぇ! 遊も顔を赤らめるな!」


 あー……。どうにもならない空気になってしまった。

 こう、平凡に。教室の隅では目立つから、人の死角で生きていきたかったのに、こうも目立ってしまっては難しいだろう。

 なにより、悪目立ちの時点でとんでもない分岐点に来ているのだ。


「遊ちゃん。後で詳しく」


「はーい。でも、二人きりだとお兄ちゃん嫉妬しちゃうから、お兄ちゃんも一緒じゃないと、ね」


「嫉妬するわけねぇだろうが。ぶっ飛ばすぞ」


 どうやれば妹の減らず口と、イケメンとクラスメイトの記憶を消せるか必死に考えそうになるからやめてくれ。俺はまだ平凡でいたい。


「昨日も大変だったんだよ? お兄ちゃんたら、他の男と話していたところを見るなり、いきなり走ってきて手を引っ張ってきたんだよ?」


「あれはナンパ野郎から引き離すためだろうが。というか、あれはお前から逆ナンして行ったんじゃないか」


「そりゃまた、嫉妬深い――いや、ヤキモチ妬きとしては可愛いと言うべきか」


「お前もぶっ飛ばすぞ」


 そんなクラスメイトから白い目で見られながら、やいのやいの言い合っていると、担任がやってくることで中断された。

 助かったと、胸を撫で下ろす。しかし、どうやってクラスメイトの誤解を解くべきだろうか。


「……手っ取り早く脳みそをぶん殴れば、いいか……? それとも、薬があるんだろうか。いや、それよりも強い印象をぶつければいいから、監禁して拷問すれば忘れるか……」


「ぶつくさ怖いこと言うな(かい)。先生、お前がそんな物騒な人間になってしまって悲しいぞ」


 おや、声に出てしまっていたようだ。


「先生、真剣なんです。本気と書いてマジというやつです」


「お前の場合は殺すと書いてマジになりそうだな」


 心外だ。俺がそんなことをするような奴に見えるのだろうか。人畜無害な人間だぞ。


「お前みたいなのは武力行使される前に暴力で片付ける暴君と呼ぶんだよ。どうせ、自分を人畜無害だと思っているんだろうが、お前の場合は害を与えられるよりも先に害を与えてしまうパワープレイなだけだぞ」


「それが一番手っ取り早いですから」


「…………そんなお前に朗報だ。後で職員室に来なさい」


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ