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第15話 文月の私服

 週末の昼下がり、駅から少し離れたところにあるカフェの前。

 文月を待つ奏太の前に「あの……」と声がかかった。


「おっ、やっほ文月さ……かっ……」

 

 可愛い、と言葉にする前に私服姿の文月に目が釘付けになった。


「……目が犯罪者のそれになっているのは気のせいでしょうか」

「あっ、ああ、ごめん」


 ついまじまじと見過ぎていたようだ。見惚れていた、の方が正しいかもしれないが。


「それで、どう、でしょうか?」

「……どう、とは?」

「一応私も年相応の女の子なので、自分の選んだ私服が男性から見てどう映るのか、気になりはします」

「ああ、そういう……」


 改めて、文月の本日のコーデを見渡してみる。

 ブラウン色のケーブルキーネックセーターに、肩には本が何冊か入りそうな大きさのショルダーバッグ。

 チェック柄の白いミニスカートからはデニール高めのタイツが伸びており、足元は焦茶色のレースアップブーツを履いている。


 十一月上旬にしては今日の気温は低く、文月自身も寒がりなのか首元にはマフラーを巻いていて、頭の上にはちょこんと臙脂色のベレー帽が乗っていた。

 読書家の文月のことだ。おそらくファッションについてしっかりと勉強したのだろう。


 落ち着いた性格の文月と全体的に控えめな色味が見事にマッチしておりかつ、可愛さとフェミニンさがバランス良く配合されたコーデだった。


「うん、可愛いよ。似合ってる」

「……そういう事をさらっと言えてしまうところ、腹が立ちますね」

「ええっなんで!? 怒られる要素あった?」

「陽キャさんには私の気持ちはわからないのです、でも……」

 

 僅かに目を伏せ、ほのかに頬をいちご色に染めて。


「変じゃないようでしたら、何よりです」


 心なしかホッとしたように、文月は呟いた。


(なにこの可愛い生き物……)


 普段は全く表情を動かさないのに、年相応の女の子らしく恥じらいを浮かべる文月は思わず守ってあげたくなるような、庇護欲を掻き立てられる愛らしさがあった。

 そして頭に浮かんだ言葉を奏太はそのまま口にする。


「前髪、ばっさり切って目元出した方がいいと思うよ。その方が絶対に可愛い」

「ま、またさらりと言う……前髪は切りません。これは世界から自分を守るために育てた防御壁なので」

「え、どゆ意味?」


 尋ねるも、文月は話したくないとばかりにふいっと横を向いて言った。


「寒いです、早く入りましょう」


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