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【小話】ベリオン、風邪を引く(コミックス③発売記念)

※ベリオンの体調不良(嘘)については「【小話】美肌の秘密」参照

 額にひんやりとした手が触れる。少しして手を離したラフィーナが、困ったように眉を下げた。


「本当に熱があるみたいですね」

「……だから部屋に入るなと」


 ベッドにぐったりと横たわるベリオンは掠れた声で言った。

 朝は何ともなかった。仕事を始めてだんだんと違和感を覚え始め、昼食がほとんど喉を通らず、午後には身体が使いものにならなくなっていた。

 ビクター曰く、約二十年ぶりの風邪だ。大人しく部屋で休んでいたところ、レモン農園に行っていたはずのラフィーナがやって来た。

 うつるからやめろと言っても聞く耳を持たなかった。以前、脱皮の際に体調不良と嘘をついたのがいけなかったらしい。


「熱があるし、喉も辛そう。寒くないですか? 吐き気とかは?」

「平気だ。それより、君にうつるといけないから」

「私なら大丈夫ですよ」


 その自信はどこから来るのか。ベリオンは半目で妻を見つめる。


 ベリオンは健康優良児だ。有事以外には規則正しく早寝早起きで、好き嫌いもない健啖家。日常的に運動をしているし、領主としての仕事にも日々精を出している。

 そんなベリオンから見ると、ラフィーナはその真逆である。何かに夢中になっているときには平気でベリオンをほったらかして夜更かしをする。それでも頑張って朝早く起きるものだから、寝不足のこともしばしばだ。食べる量も大して多くはないし、外出はしていても運動というほどのものはしていない。


「はぁ……なぜこの私が風邪など……」

「毎日頑張ってるから、疲れが溜まってるんですよ。って……な、なんで笑ってるんですか?」


 思わずため息が出た。ラフィーナが元気で何よりなはずなのに、何となく釈然としない気持ちもある。

 しかし、それ以上に胸を占める感情が顔に出ていたらしい。


「君にうつるのが心配なはずなのに、君に看病してもらえるのが嬉しいんだ」

「んなっ!?」


 素直に口にすると、ラフィーナの顔が真っ赤に染まった。きっと熱のあるベリオンよりも赤い。

 ラフィーナはおぼつかない手つきで額の布を新しいものに取り替えると、濡れた手も拭かないまま「はちみつレモンを作ってきます!」と言って部屋を出てしまった。が、すぐに戻ってきた。

 はちみつレモンを持って来たわけではないようだ。なぜか外出着から寝間着に着替え、まとめていた髪も下ろしている。何事かと思っているうちに、ラフィーナがベリオンの隣に潜り込んできた。


「ラフィーナ?」

「今日は一緒に過ごします。寝ましょう」

「同じベッドは駄目だ」

「大丈夫です、うつらないから。それに、ベリオンの風邪ならうつってもいい……」


 耳まで真っ赤にしたラフィーナが消え入るように呟いた。二度目の結婚式以来、ほとんど毎晩一緒に眠っているはずなのに、なぜかラフィーナは盛大に照れてる。まともに目も合わせてくれないまま、ベリオンの腕に顔を埋めてしまった。


(妻がかわいすぎる……)


 生まれて初めて、風邪を引いてよかったと思った。



 翌日、ベリオンの風邪はすっかり治っていた。そして宣言通り、本当にラフィーナにはうつっていなかった。

 今日も元気な妻を見て安堵すると同時に、やっぱり何となく納得のいかない気持ちを抱いてしまうベリオンだった。

最終巻であるコミックス3巻が発売されました!

とうとうコミカライズが終わってしまいました。すゝめは私の夢を叶えてくれた作品でした。

読んでくださった方、関わってくださったすべての方、これまで本当に本当にありがとうございました。

これからも精進しますので、またどこかでお会いしましょう!

(現代IFも忘れた頃に投稿する……かもしれませんのでよかったら読んでね……!!)

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