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【小話】寝苦しい夜

 どうやらこの世界も宇宙のどこかに漂う惑星の一つらしい。

 太陽のような恒星があり、月のような衛星があり、夜が明ければ朝となる。


 地球のように少し軸が傾いているようで、季節の移り変わりもある。

 今は火の季節の中盤、夏の真っ盛りである。


 つまり何が言いたいのかというと――ラフィーナは今日も、寝苦しい夜を過ごしていた。


「おやすみ」

「おやすみなさい」


 ベリオンはラフィーナを背中越しに抱き込むように、ぴったりと身を寄せて眠りにつく。

 二度目の結婚式を挙げて以来、ほぼ毎晩これだ。


 見かけによらず筋肉量があるからか、ベリオンは体温が高い。

 涼しい時期は暖かくてよかったが、季節が変わるにつれ、ラフィーナはだんだん寝苦しくなってきたのだった。


(クーラーほしい)


 この世界には冷房器具が存在しない。

 扇風機なら作れないものかと考えたいところだが、しかし、まずは今この瞬間をどうにかしなければ。


「あの、ベリオン」

「ん?」

「暑いので、涼しくなるまで離れて寝たいのですが……」

「…………」


 背中越しに壮絶な悲しみが伝わってきた。

 焦ったラフィーナは、大慌てで腹に回された手を掴む。


「その代わりに手を繋ぎましょう、ね!」


 繋いだ手をぎゅっと握り返されたが、ベリオンはラフィーナから離れない。

 それどころかますます身体をくっつけてくるので、手も背中も熱くて仕方がない。


「……もしかして私のこと、氷のう扱いしてますか?」


 太っているわけではないが、ベリオンに比べたらほんのり皮下脂肪が多い。

 これがひやっとして気持ちがいいのではないだろうか。


 ラフィーナは思わずジト目で背後を振り返るが、ベリオンは淡々と言った。


「してない。確かに私よりは少し体温が低いようだが、言うほど冷たくない。温かいよ」

「うーん、まぁ、そっか。そうですよね」

「うん」


 ベリオンは解決とばかりに、改めてラフィーナをぎゅっと包み込んだ。


 しかし何も解決していない。

 諦めてこのまま眠るしかないのだろうか。

 果たして眠れるのだろうか。


 こんなにくっついて眠るのは実質新婚である今だけかもしれない。

 暑かろうが寒かろうが、今を大切にしておかなければ。


 ……え、そのうち家庭内別居とかするようになるの?

 いやだ、ずっと仲良くしていたい。


「何をブツブツ言っているんだ君は」

「あっ! いいこと思いつきました!」


 ラフィーナは絡みつく腕から抜け出し、隣にあるベリオンの部屋に向かった。

 専用のケースに収められた写真をパキンと割って寝室に戻れば、ベッドの上で不服そうに胡座をかいているバケモノ辺境伯に迎えられる。


「久しぶりですね、この姿は」


 足の上に乗って抱きしめてみれば、薄手の夜着越しにひんやりとした体温が伝わってきた。

 温かすぎず、冷たすぎず、丁度いい。


「君こそ私を氷のう扱いしてないか」

「だって、私もくっつけるならくっついて寝たいというか……」


 暑いのが問題なのであって、くっついて寝ること自体はラフィーナもやぶさかではない。


 前世でも今世でもずっと一人で寝ていたので、誰かと一緒のベッドで寝るなんて寝返りが気になって目が覚めるのではと心配したこともあった。

 意外と安眠できるのはきっと、共寝の相手がベリオンだからだ。


 やがて、頭上から小さなため息が聞こえてきた。


「なら、しかたないな」


 そっと抱きしめ返されて、ベッドに倒れ込む。

 心地よい体温に包まれながら、ラフィーナは目を閉じた。


 ――なお、箱枕では熟睡できないだろうとラフィーナが折れるのは、次の日のことである。

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 義妹ちゃん含むみんなの来世に幸あれ! こう…この夫婦の娘として転生する、みたいなことがあっても良いんですよ(願望)
[一言] 夏場は暑いからくっつかないでと言われた事が有るのでべリオンの悲しみが胸を打ちます…。 でも暑苦しいのが嫌なのも分かります。うん。
[良い点] 今日この作品を見つけて一気読みしました!とても面白かったです!カトリーナが死ぬシーンは泣けました。次の生では幸せになって欲しいです。
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