天国は工事中です
「あっ! てめぇは山上組の!」
「てめぇこそ川下組の!」
「殺してやる!」「殺してやる!」
「……いや、もう殺し合ったんだったな俺ら」
「あぁ、そうだった。つまりここは……」
二人の男は辺りを見回した。
後ろと横には雲のような地面が果てが見えないほど続いており、目の前には荘厳で巨大な門。
そして周りには自分らと同じように、何が何やらと辺りを見回す者たち。
ここはあの世。二人はそう結論付けた。
「しかし、でけぇな」
「ああ、どうみても天国への入り口だろう。地獄って感じじゃねぇ」
「じゃあ、俺らは天国行きか? そんな馬鹿な」
「ま、お前は確実に地獄だろうがな」
「お前もだろ! ヤクザ者が!」
またも殺してやる! と睨み合う二人。その時、上から天使が舞い降りた。
それは美しい女の姿をしていたが、まるっきり情欲が湧かなかったことから、二人は死んだことを再認識し、すこし落ち込んだ。
「はいはーい! 今から皆さんには、こちらの門の横のドアから中に入って頂きまーす!」
「て、ことは姉ちゃん。俺らは天国行きってことか?」
「ある意味ではそうでーす! さ、さ、どうぞどうぞ」
含みのある言い方が気にはなったが、このままここにいても仕方ないので全員、ゾロゾロと並んでドアに入った。
「こいつは……」「こいつは……」
そこで目にしたのは一言でいうなら工事現場。大勢の人間がせっせと働いているではないか。
「はい! 見ての通り、天国は建設中です! みなさーん! しっかりと働いてくださいねー!」
成程、これまで死んだ人間はみんなここで働かされていたわけか。それでまず門は完成させたが、中身はまだまだだと。二人はそう解釈した。
「なぁ、姉ちゃん! しっかり働いたら俺みたいな生前、悪人だった奴も天国行きは保障されんのかい?」
「はい! 全てが完成次第、入居可でーす!」
入居。俗っぽい言い方に男たちは笑った。
しかしこれは幸運だと考えた。完成したあとから働かずに天国に入ってくる奴のことは気に入らないが、地獄行きが免除になるのはありがたい。
「はい、あんたたちは造園ね」
二人は現場監督の指示通りに作業を始めた。
真面目に、真面目に。いずれ自分が暮らす天国だ。自分の家を自分で建てるようで、そう悪い気はしない。
しばらくの間、と言っても時間の感覚がないからわからないが、大人しく働く二人。が、ふと思ったことが。それはやがて沸々と……。
「……なぁ」
「あ?」
「完成はいつごろなんだ?」
「何?」
「だってよ。これまで死んだ人間、善悪関係なくここで働いてるんだろう? それなのにまだ完成してないってなぁ」
「ここは馬鹿みてえに広いからな。だが、地獄に落ちたら何千年だか何万年だか苦しめられるんだろう? それに比べたらマシじゃねぇか。死んでるからか全然疲れねえしな」
「まあ……な」
それきり会話は途絶えた。
しかし、二人には更にある疑問が浮かび上がっていた。
そしてそれを口に出すか出さないか悩んでいた。
もし、地獄がまだできてないとしたら?
そして天国完成のあと、その工事も俺たちが……。