scene4−3ボクと胃管
サンプチューブの仕組みを描くために、三山さんのメモを借りた。
「サンプチューブっていうのは、だいたい術後とか排液目的で入るチューブ。あの青いラインついてるチューブ。」
「あー。あれ毎回じゃないですけど、なぜか青いところからも排液出てきてシーツ汚れちゃって嫌な時ありません?縛られてる時もありますよね?」
「いやそれね。弁ついてると垂れないんだけど…んー。まぁ、結論から言っちゃうと縛るのは良くないんだよ」
「え…知らなかったです。時々縛るの見てたので、よく知らないですけど多分、液が垂れてくる人は縛ってるんだろうなぁとばかり思ってました」
「あのチューブ自体がね、こう…チューブが、こう、あるじゃん?」
「はい」
借りたメモ帳に3色ボールペンを使って描いてみた。
「お?これ上手く描けてる?!分かる?」
「わ、分かりやすいです!」
若干、分かりやすいと言わせた気がするが…話を続けよう。
「で、さっき排液目的って話したじゃん?この排液するときにチューブ先端の穴から排液ひきこむ時に圧がかかるんだよ。その圧調整にこのブルーラインが開いてないと空気引き込んでくれない…だから、ここ縛っちゃうと圧が高くなるんだよ。そうなると粘膜損傷のリスクがあるんだよね」
「へー…、知らなかったです!」
僕は説明しながら青色でブルーラインのところを線で色塗りしていた。
「あとは、サンプチューブは太いし、硬くなっちゃうし。潰瘍のリスクや違和感も強いしね。昔さ、HCUにいた時に。ICUからサンプチューブ入ってきた方がいて。たしか詰まるまでそのままって指示で、そこから経管栄養やってたんだよ。で、患者さん暴れちゃって自分でサンプチューブ抜いちゃって。チューブ硬くなってて、ちょっと食道傷つけちゃって。しばらく絶食ってことがあってねー。」
「怖いですね」
「そう、だから経管栄養続けなきゃならない場合は、経管栄養のできるチューブに入れ替えね」
「はー。なるほどです」
僕の自画自賛した絵の横に三山さんは追記していた。色々なスタッフがいるが、三山さんは比較的いつもメモをしっかりとるタイプに見える。
反面で僕はいつも、これくらいなら覚えていられそうと思い、メモを取らずに結局忘れてしまうタイプだがら見習いたい。でも僕はメモをとっても単語でしか書いてなくて、やっぱり何が大事なのか分からないから、意味がなくなってしまう。
「それからICUからHCUにサンプチューブで来た時は、いつから入ってるやら抜く目処やら入れ替えの目処をすごい気にするようになったよ。今はICUにいるから、そういう目処たててHCUに退室させるようにしてる」
「私も勉強になりました。気をつけます」
「僕らはね、患者さんここ出ればそれっきりかもしれないけどさ。患者さんはまだ療養続いていくしね。場所が変わっても大事なこととか継続していかなきゃだからね」
「そういう話、もっと聞きたいです。どうしても私はここのことしかわからなくて。ICUにいるうちからできることとか知りたいです」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
そういえば、看護部の教育部門から前に話があった。最近の新人さんは自分にない経験や知識を話として聞きたい人も多いと。聞いた上で、自分が体験していけた方が初めてトライする事柄に対してハードルが下がるのだと。
たしかにそれもそうだ。昔は、なんでもまずやってみよう・やらせてみようだったが、まず説明を聞いたり、やっている人の姿を見たりと前提の知識や既視感があってからの方が怖さは減る気がする。かと言って、もしかしたら先輩の説明なんかいらねぇ!みたいなタイプもいるかもしれないから、気をつけよう。
「三山さん、藤原さん。今日HCU転棟、10時半だって。お願いしまーす」
胃管の話をしていると、リーダーから転棟時間の報告があった。
「藤原さん、私患者さんに伝えて転棟の準備始めます」
「はーい」