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ボクと看護  作者: 窪田 雪花
6/8

scene4−1ボクと胃管

今日の担当患者さんは、呼吸器外科の術後の方で、HCUに転棟する予定になっている。


 普段なら、呼吸器外科の患者さんの術後はHCUや病棟で管理されている。しかし、今回は術中出血が多かったこと・元々低心機能だったことを踏まえ、ICUに入室したのだ。

 その判断は間違っておらず、術直後は低心機能から水分バランスや血圧管理に難渋していたが、そんな状況も改善し、やっとICUから出られる状況となったのだ。


 遠くから青いスクラブを着た呼吸器外科の篠崎医師がこちらに歩いてくるのが見えた。実は割と偉いらしいが、よれっとした髪型で、なぜかいつもにやにやしている。僕が初めて会ったのが病棟にいた頃だから、もう40代後半になるだろうか。しかし、篠崎先生の胸腔ドレーンを入れる様子は本当に素晴らしく早く丁寧で、見惚れるくらいだったことを覚えている。


「お、ふーじーわーらー。今日、担当?元気?んっ?んー?」


 歩いて向かってきている時点でにやにやしていたが、隣にきてからもさらににやにやしている。口癖なのか、いつも『んっ?』と言いつつ問いかけてくる。

 篠崎先生にはHCUにいる時によく飲みに連れていってもらった。僕が当時彼女に振られたくらいの時期で、馬鹿にしながらも励ましてくれたことが懐かしい。


 割と上の世代であるのにも関わらず、どのスタッフにも同じ態度で接してくれるからありがたい。人によっては横柄な態度が通常運用な場合もあるから、普通に大人として当たり前のコミュニケーションが取れるだけで驚くことすらあるのだ。


「そうでーす。僕と三山さんです。」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「おっ、よろしくー」


 1年目の三山さんは、呼吸器外科のHCU転棟は今日が初めてだった。僕がフォローで一緒に担当している。三山さんは心なしか緊張しているように見えた。


「藤原、最近、どう?」

「ぼちぼちですよー」


 篠崎先生は僕の近況を挨拶がわりに聞きながら、患者さんの朝の採血データやバイタルの一覧を見ている。


「おまえはいつもぼちぼちじゃないかよ」

「へへっ」

「ははは、また飲みいこうな」

「ぜひ、行きましょう!」

「…おー?昨日眠れなかったの?」


 雑談をしながらも引き続きカルテを見ていたようで、看護記録を見ながら僕に聞いてきた。看護記録には『中途覚醒頻回』という文字が並んでいた。篠崎先生は昔から看護記録も読んでいるのだ。看護記録を読む医師は、どの程度いるのだろうか。全く読まない医師がいるのは知っている。


 昔、ふいに飲み会の席で聞いてみたことがあった。なぜ看護記録を読むのかと。その時の篠崎先生は僕を小馬鹿にしたように言っていた。

『おまえ、何言ってんのー?看護師さん達だって俺らのカルテ読んでるんでしょ?一緒。必要だから俺も読んでんの!ははは』篠崎先生はこういう人なのだ。


「なんで眠れなかったの?んっ?」

「昨日は夜隣の患者さんがちょっと声大きかったり、夜中にOPE帰ってきちゃったりで、環境よくなかったですかね」

「じゃ、まだ眠剤とかいらない?」


 内服の処方一覧が分かる画面を見ながら話していた。


「んーどうでしょう、今日HCU出ます?環境変われば違うかもしれないですけど。申し送っておきますね。」

「よろしくー。じゃ、HCUで。俺の方からHCUには言ってあるから、OKだって。時間そっちで決めて連絡もらっていい?」

「分かりましたー」


 カルテを閉じて、次の患者さんのところへ行こうとする先生を僕は小走りに追いかけた。

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