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Silver Sisters 1 ~メイド狩りの魔法少女~  作者: 瑞城弥生
第一章 王家のメイド
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「アイタタタ」


 麻布は南郷に踏みつけられた右肩を擦りながら立ち上がる。少女に、魔法少女に踏みつけられる趣味などない。不快感がふつふつとこみ上げてくる。


「南郷のやつ。覚えてやがれ」


 そうつぶやきながら、麻布は窓際に歩み寄る。割れた窓ガラスから吹き込む風はまだ冷たかった。隙間から窓の下を覗き込むが、南郷の姿はもう見えない。十四階から地面に落ちれば助かるまい。


「生きてるかな」


 それでも麻布は、一度は部下となった南郷を心配していた。それは性分である。


「魔法少女は、ここから落ちたくらいじゃ死ないですから大丈夫ですよ。頑丈なのが一番の取り柄ですから」


 榛名桜子は既に変身を解いて元のメイド服に戻っていた。


「逃しても良かったのか」


 連邦のスパイだというなら捕まえるべきだと麻布は思った。こんな情報を持っていかられたら、麻布の身もただではすまない。


「あの程度の雑魚なら問題ないですよ。それと、あなたに被害はおよびません」


 社員にスパイが居て本社で銃撃騒ぎを起こすなど警備会社にあるまじき失態だ。採用の際に身辺調査はやっていが、それを見落とすなど最悪だった。けれど相手は連邦の諜報部だ相手が悪いと割り切るしか無いだろう。


「この不始末はこちらで処理します。ほぼ想定内ですから忘れてください」


 そう言えば、これだけ大騒ぎしたのに、他の社員は、秘書の宮沢でさえ現れない。何か結界的なものでも張っていたのだろうか。このメイドならそれくらいの事はやってのけそうだった。


「では話の続きを」


 麻布はいまここで起こった事について、もう少し詳しく説明を求めようとしたが、榛名は何事もなかったかのように話を続ける。その強い口調に、有無を言わせぬ迫力に、麻布は何も聞けなかった。


「近いうちに女王陛下が復活します。それに先立って駐屯地を連邦から奪回します」


 思ったと通り面倒事には違いない。それもとびっきりに面倒だった。

 けれどそれは、麻布にとって待ち望んたことである。

 元王国民が待ちに待ったことである。


「それはいつですか」

「半年後の予定です」


 それならもう時間はあまりない。いろいろ準備が必要だろう。


「で、私は何をすれば」


 麻布にできる事はなんだろう。一介の警備会社に何ができると言うのだろう。


「治安維持は今回の計画の要です。ですから協力をお願いします。あなた達の能力なら可能だと思います。それだけの実績がありますから」


 確かに必要なことである。麻布の会社のこれまでの実績があれば、そのぐらいは容易だろう。高く評価してもらったのは素直に嬉しかった。

 榛名は頼みだと言っていたが、この話に断るという選択肢などあるはずもない。王家のメイドの頼みと言えば命令に等しかった。いや命令そのものだ。だから麻布は覚悟を決めた。恩を売っておけば、独立後の利権も得られるという打算を見込む程度に、麻布は落ち着きを取り戻していた。


「分かりました。最善を尽くします」

「ありがとう。よろしく頼みます。詳しくはこの子に」


 榛名は指を鳴らす。

 地面から霧のような、花びらのようなものが舞い上がり、それが新たなメイドへと姿を変えた。タイプ・ゼロのメイド服に雪の紋章。新たに現れたメイドも間違いなく王家に仕えるメイドだった。背は榛名よりやや高く、黒い長髪をポニーテールにまとめている。一般的に知られているメイドの容姿そのものだった。メイドオブメイドと言えるだろう。顔立ちも美しくまさにフェアリーズと呼ぶに等しかった。


「第十四席を拝命しております。後星あとほしアイカと申します。これから先はこのわたくしが連絡と、社長の護衛を担当させていただきます。どうかお見知りおきを」


 そして彼女は深々と礼をした。とても美しい姿勢だった。選ばれし十六人。そのうちの一人なのだろう。襟元に雪の結晶、そして襟には十四のナンバー章をつけている。

 最強の護衛である。

 いやそんなはずはない、彼女は監視役である。護衛という名の監視役だ。何かやらかせばすぐに消される。麻布の代わりなど、世の中にいくらでもいるのだから。

 麻布は大きくため息を付いた。そして深く頭を下げた。


「よろしくお願いします。後星さん」


 アイカはもう一度頭を下げた。

次回更新は 3/6 です。

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