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Silver Sisters 1 ~メイド狩りの魔法少女~  作者: 瑞城弥生
第一章 王家のメイド
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 朝八時丁度に、本社正面の自動ドアをくぐり抜けるのが日課だった。


 社長に就任してからも、その習慣は一日だってたがえた事はない。始業時間は八時四十五分だけれど、入社当時からずっと八時前には出社していた。これと言った信条があるわけでもない。ただの習慣だ。ただ、社長がはやく出社すると、社員もそれに合わせなければならないらしく、それは少し可愛そうだと思ったことはある。


 民間の警備会社として、長年実績を積み重ねてきたフィックス・スター株式会社の代表取締役社長である麻布啓太は、そんなことを考えながら受付へと向かった。前任の社長は重役出勤だったため、受付の準備もそれなりの時間でよかったが、麻布が就任してからはそうも行かなくなったらしい。以前のままでよいと、麻布は何度も言ったのだが、素直に聞いてはくれなかった。麻布が遅く出勤すれば問題ないのだが、習慣というものは、そう簡単に変えることは出来ないのだ。


 三階まで吹き抜けとなっているエントランスホールの正面の高い位置には、アルミ製の大きな文字で社名が掲げられており、その真下には高価な石材をふんだんにんに使用した特注のカウンターがある。受付としてはかなり豪華な部類であろう。会社の顔としては申し分ないデザインだと自負していた。


 受付を担当してる女性社員が二人、出社した麻布に気づいて立ち上がり頭を下げた。白のワイシャツに紺色のワンピースというシンプルなデザインの制服は、先代社長の要望で作られたものだったが、麻布も案外と気に入っている。誰にでもよく似合い、それでいてかわいいというところが社員にも人気だった。


 かわいいは正義。

 それは何時の時代にあっても、万国共通の認識だった。


「おはようございます。麻布社長」


 今日の受付当番は白石環まことと南郷菜々子だ。

 二十八歳の白石は、受付係ではベテランだった。整った顔立ちは社内でも指折りで、それ以上に笑顔が素敵である。まさに我が社の顔とも言うべき存在だ。言うまでもなく仕事もできた。しかも百九十センチを超える身長を活かし、高校時代はバスケットの選手として全国大会で活躍までした有名人だった。しかし高すぎる身長は、無意識ながら来客に圧力をかけてしまう。それが彼女の唯一の欠点だった


「お、おはようございます」


 白石の右隣でやや噛みがちに挨拶をする南郷は、今年十八歳になる新入社員だ。試用期間が終わり、今週からOJTとして受付に立っている。南郷は両親の顔も知らない孤児として幼少時代を過ごしたが、ひねくれたりはせず立派に成長していた。その憎めない可愛さは受付にぴったりである。

 完璧なまでの笑顔を振りまく白石に比べ、南郷はまだ緊張しているのだろう。笑顔もどこかぎこちなかった。でもそれが新人の良さであると麻布は思っていたから、その事を責めたりしない。寛大な心で見守っていた。


「ああ、おはよう。もう仕事は慣れたかな、南郷さん」


 新人特有の危うさは誰もが通る道なのだ。今は完璧な白石だって入社当時は似たようなものだった。その頃の彼女を思い出し、麻布は思わず微笑んだ。


「あ、はい、なんとか」

「その調子でよろしく頼むよ」

「あ、はい、頑張りますぅ」


 受付は可愛いだけでは務まらない。南郷の言葉遣いに、麻布は少しばかり不安を感じたが、それを指導するのは上司である白石の仕事だと割り切って、南郷の言葉に軽く頷くと受付を後にした。

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