表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その失恋は始まりだった  作者: 烏川 ハル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/6

第5話

   

 しかし、実際には『今まで通り』ではなかった。

 まず、雪野さんのお喋りに、田辺先輩の話題が増えた。彼に対する想いを、今さら僕に隠す必要もないからだ。

 それに。

「富田くんだって、男の子だからね。田辺先輩の気持ちになって、話を聞いてね?」

 雪野さんにとっての僕は、恋愛相談ができて男性心理のわかる相手であり、貴重な存在だったのだろう。

 一方、僕にしてみれば……。

 好きな女の子から彼女の好きな男について聞かされるのは、素直につらく感じる部分もあると同時に、魅力的に輝く彼女を見られて嬉しいという一面もあり、なかなか複雑な想いだった。


 変化は他にもあった。

 大学からの帰り道、時々、雪野さんと一緒に歩くようになったのだ。

 今までよりも互いの想いに踏み込んで話せるようになったから、電話だけでなく、もっと語り合いたい……。そんな気持ちが、雪野さんの方にも出てきたのだと思う。

 とはいえ、大学の近くで一人暮らしをする僕と違って、雪野さんは実家からの電車通学。二人一緒なのは、駅までのわずかな距離であり……。

「せっかくだから、もう少し話しましょうか? 駅前の喫茶店でいい?」

「喜んで!」

 こうして、フラれたにもかかわらず『ちゃんと顔を合わせて会話を』という望みは叶ったのだから、なんとも皮肉な話だろう。


 これだけならば、ただ単に僕は都合の良い聞き役だったわけだが……。

「男の人の気持ち、参考にしたいから少し教えて。富田くん、まだ私のこと好きなのよね? 私には好きな人がいる、ってわかった上でも?」

「もちろん!」

 雪野さんに水を向けられて、僕自身の想いを改めて語る機会も増えてきた。

 喫茶店で雪野さんが注文するのは、ほぼ決まってメロンソーダ。そのストローをくわえながら「いかに僕が雪野さんを好きか」という演説を聞く彼女は、少しだけ困ったような表情も見せていた。

 ある時。

 僕の『演説』が終わったところで、

「富田くんって、ちょっとストーカー気質かもね」

 と、雪野さんは軽く笑ってみせた。

「ストーカー……?」

「そう、ストーカー。ただ諦めきれない、というより、ちょっと想いがしつこい感じ」

 それまで考えたこともなかったが。

 当事者である彼女が、敢えて『ストーカー』という言葉を使ったのだから……。

 雪野さんの中には、僕を気持ち悪く思う部分も結構あったに違いない。

 それでも親しい友達という関係を続けてくれたのは、彼女の優しさだったのではないだろうか。その優しさにこそ、僕は惹かれていったのではないだろうか。

 ならば、最初の刷り込み(インプリンティング)のような一目惚れは終わり、ようやく本当の雪野さんを好きになった、と言えるのだろう。

   

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ