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マリーゴールドの花を添えて  作者: 鬼多見 林檎
第一章 見知らぬ世界
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見知らぬ料理

 家は簡素な造りとなっていて、その中で各々が好きな場所に腰掛けていた。カトは疲れているのか、カイヤに寄りかかり目を瞑っている。


 いや、周りをよく見る余裕なんてなかったから気がつかなかったけれど、皆疲労しているようだ。それに、服もところどころ汚れたり破けたりしている。体だって、傷だらけだ。



 無論、俺もそのうちの一人だ。



 家の中という場所において何だか気が抜けたのか、一気に疲労の波が押し寄せてきた。傷口は塞がっているものの、最近できたような真新しい傷跡があちこちにあり、ジクジクと痛む。今まで何をしていたのだろう。


 そんな中でもトイラーだけは一人テキパキと動いている。腰につけている鞄から、次々と食料品やあの瓢箪みたいなものを出しているが、どうみてもその鞄に収まる量ではない。どういう仕組みなのか。


「ガネット君、お願い、できますかぁ」

 沢山の食べ物を前に、トイラーがガネットに伺うと、ガネットは大きく頷いた。心なしか嬉しそうに見える。


「任せて」

 家の中にあった麻袋のようなものに、持てるだけの食料を持つとガネットはどこかに消えていく。


「ふわあ、さて、おやすみ、なさい」

 やはり彼も疲れていたらしい。ガネットを見送るとトイラーも横になった。 

 釣られるように、俺も壁に背中を預け目を瞑る。誰一人動く気配はなく静かな深い森の中、ひっそりと響き合う、小さな寝息の子守唄を聞きながら。




 食欲を唆る香りが鼻をくすぐり目を覚ました。どのくらい眠っていたのだろうか、灯りも何もない森の中は一寸先も見えないほど暗く、まるでぽっかりと暗闇に家が浮かんでいるかのようだった。


 壁の四隅と中央に燭台があり、そこに火が灯されている。一瞥しただけでは何を使っているのか分からないけれど、蝋燭とは少し違うようだ。


「お目覚めですか?」俺に気がついたカトが、両手で抱えるほどの木製の器を俺の目の間に置いた「食欲はおありでしょうか」


 これがあの香りの正体だったのか。

 様々な具材を煮込んだスープのようで、白い湯気がもくもくと立ち込める。誘い込まれるように器をもち、一口。

 少し熱めのスープが、喉を、食道を通り、胃へ。火傷する一歩手前の熱が、中心から全体へじんわりと広がる。思わず、ほうとため息が出る。

 香辛料を惜し気もなく使い、酸味、辛味、苦味、甘味、青臭い何か、胃腸薬みたいな何か、様々な風味が押し寄せて来るのだが、喧嘩することもなく見事に全て調和している。


「美味しい」

「あとは、これもどうぞ」


 微笑みながら大きな葉っぱを器の隣に置いた。その上には木製のスプーンと、パンと思われる丸い小麦色の何かが置いてある。恐る恐る一口かじってみると、想像しているものよりずっと硬くパサパサしていて、わずかな酸味まである。そのままではとても美味しいとは言えない。


 これが主食なのかとげんなりし、よくこんな物を文句も言わず食べているよなと思い他の人たちを見渡すと、どうやらそのままで食べているのは俺だけのようだ。皆、ちぎってスープに浸して食べている。

 皆に倣ってパンをちぎり、スープに浸して一口。



 美味い。



 スープを吸ったパンは表面は硬いものの、中は柔らかくなり、ザクッとした歯応えの後にジュワッとスープが滲み出る。不味いと思っていた味も、スープと共に食べるとほんのり甘味を感じる。

 そのまま止まらなくなり、無言で食べ続けた。

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