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不穏な空気

「いーやーだぁ!俺は行かないからな!?」

「いいから来いって」

「助けて透ぅ…玲に連行されちゃうよぉ」


玲に服を引っ張れながらも、頑なに後ろのロッカーを掴んで離さない琉々は1番近くに座っている真斗…ではなくその隣に座っている透に助けを求めている。

長いホームルームが終わり自由時間となったクラス内はいつになく盛り上がりを見せていた。教師の二人と教頭は出張という事で出掛けており授業は明日からだ。生徒達は親交を深めようと教室に残っているのである。


「毎回思うけど何やってんのお前らは…」

「いいぞー玲、やっちゃえやっちゃえ」


呆れた表情を浮べる透と何故かノリ気な真斗。やはりルームメイトという事もあり自然とこの四人で集まる様だ。そんな彼らの元に近付く影が一つ。


「いつも三階まで聞こえてくる楽しそうな声は~君達だったんだね~」


ふわふわとした話し方が特徴的な彼女の名前は薮坂 青奈。クラスで唯一のメガネっ子である。黒髪でツインテールなのも彼女のみだ。ふわっとした黄色のワンピースには熊のアップリゲが二つ着いている。


「うるさいよな…ごめん」

「全然大丈夫だよ~。たまに隣の部屋で風香ちゃんが怒ってるけど~」


苦笑を浮べる青奈は視線を風香に向けた。釣られて真斗と透の二人も同じ方向を見る。彼女は三人部屋の当番を決めている様だ。


「騒ぐのも程々にした方がいいよー?風香にしばかれたくなければね」

「志羅ちゃん~!どこ行ってたの~?探してたんだよ~」


三人の元へ青奈のルームメイトである志羅が姿を現した。この高校では男女共に二部屋ずつ大部屋が用意されており、男子は四人ずつで二部屋。女子は三人部屋と二人部屋なのだ。探していた、と言う辺り彼女らもルームメイトで行動する事が多いと見て間違えないだろう。


「ごめんごめん、ちょっと校長先生の所行こうと思ったんだけどね。なんか今日居ないみたいでさ」

「え、今日居ねぇの?」


志羅の何気ない言葉に食いついたのは他でもない玲だ。皆が忘れている間に戸の近くまで引き摺られた琉々も驚いた表情を浮べる。


「今日不在だって。さっきの魔物の話詳しく聞きたかったのに」


ミステリーや興味がある志羅はホームルーム後真っ先に校内を探し回った。しかし見つける事が出来ずに肩を落とす。するといつの間にか近くに移動していた琉々が思い出した様に言葉を並べた。


「校長先生…さっき居たよ?入学式の後」

「嘘!?どこでどこで!?」

「校舎の裏。あっちの方ね」


琉々は窓から見える右の中庭の方を指差した。彼らの居る二階の教室からは下の様子がよく見える。どれだけ目を凝らしても草とグラウンド以外が見つかる事は無い。隣で見ていた志羅も難しい顔をする。


「おっかしいなぁ。あそこも含めて全部探したんだけど」

「きっと~志羅ちゃんすれ違いになっちゃったんだよ~」

「かもね…。…あ、そうだ狩ノ瀬」


考える事を放棄した彼女は不意に琉々の名を呼んだ。あまり苗字で呼ばれる事の無い彼は少し反応に遅れてしまう。


「…ん?俺?」

「そそ、今度校長先生見つけたら聞いといてくれる?その魔物の事」

「あー…うん、良いよ」


ほぼ二つ返事で返答する彼に笑顔を見せる志羅。男子と女子は今日が初対面なのだが、皆がまるでずっと同じクラスだったかの様に打ち解けていた。これもきっと長閑な景色がそうさせているのだろうか。


「さっきはあんなに拒んでたのに?」

「玲以外とならいいんだけどねぇ」

「お、珍しく喧嘩っすか?」


二人の会話に割り込んだのは珍しく真斗だ。珍しくないだろ!とまたも二人の声が被る。その様子を見ている四人が笑い、別のクラスメイト達もそれぞれ気の合う仲間達と楽しげに話をしていた。そんな平和な一時が刻一刻と過ぎていく。


「いつもは時間自由やけど、今日の昼飯はみんなで食べよな!」


弘也の提案に皆が賛同し、一致団結した時の事だった。バタバタと足音を立てて一人の生徒が教室に駆け込んでくる。一斉に視線を向けられた彼は、息を切らしており顔は真っ青だ。


「やばい、僕見ちゃったよ!!一階のとこに変な生物がいたんだ!」


ただならぬ気迫で言い放った後、戸を閉めて鍵をもかける始末だ。その様子はまるで何かに怯える子犬の様である。彼は丘田 蒼介というクラス一の運動神経を誇る生徒だ。


「変な生物?」

「本当~?」

「魔物だよ!!絶対間違えない…ゲームに出てくるスライムみたいなやつなんだって!」


首を傾げる志羅と青奈。その隣で真斗は呑気に欠伸をしている。クラス全体が彼が嘘を吐いていないと確信するまでにそう時間はかからなかった。走りなら誰にも負けない程の彼がフラつくまでに体力を消耗している事が何よりもの証拠である。


「何があったんだ?」

「だから今言った通りだよ!玄関のところに変な生物が…」


真っ先に彼を支えに行ったのは透だった。肩を貸しながら改めて事情を聞こうと試みるも蒼介から返ってくる言葉は変な生物が居た、の一択である。一気にその場に不穏な空気が立ち込める中、玲は教室を飛び出して階段を駆け下りた。


「玄関ってここか…」


人の気配が全くしない広々とした玄関は不気味ではあるものの、太陽光のおかげで夜間よりは随分マシだ。もしもロゾル・ガーティオから来た魔物なのであれば彼らが飛ばされた際に巻き込まれたのであろう。ならば災厄を起こす程強い魔物である可能性はかなり低い。


「俺が相手になってやっから出て来いよ」


口角を上げてニタリと笑う表情だけは悪魔の面影がある。いざと言う時の為に羽を出すべきかと考えていた…その時。


「何よ。変な生物なんて居ないじゃない」


飛び出した玲を追ってきたらしい風香がホウキを持ちながら階段から降りてきた。咄嗟に彼は出し掛けた羽を仕舞う。


「ふーちゃん…帰ろうよ…。何かあったら危ないし…」


彼女の数歩後ろで怯えているのは風香とやたら仲良しな女子、獅子戸 舞だ。無地のベージュのシャツに膝下スカートという比較的地味な格好をしている。結果として玄関には三人が集まる事なった。


「あ…黒野くんだ…」

「そっち何か居た?」

「んや、何も居ねぇな」


特に対象を見つける事も無く、物的証拠がある訳でもない。一通り調べ終えた三人は念の為付近の階段も入念に調べる。しかし案の定何も見つからないのだ。


「やっぱり丘田の見間違えだったのかな」

「そうじゃね?だって何もねぇし」

「じゃあ…戻ろう…?」


舞の言葉に頷いた二人は報告し合いながら来た道を戻る事にする。互いに特に気になる節も無く、教室に戻ったらもう一度話を聞いてみようという意見で合意したのだった。

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