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ドキドキ?クラス発表

商業の街シンジュクに存在にはまるで幻想の様に自然豊かな一角があった。樹齢100年は超えているであろう、巨大な桜の木が目印のそこには四階建ての木造校舎が聳え立つ。紅白の垂れ幕が今日の催しを引き立てている様だ。チャイムと共に木造校舎とは離れの関係にあるホールの灯りが灯された。


「えー、これより国立楽単高等学校の入学式を始めます。一同起立!」


教頭先生と思わしき人物の声に合わせ、13名の新入生達が立ち上がる。教員を含めても全体として20名に満たない程の小規模で行われているのは楽単高校の入学式だ。玲と琉々もパイプ椅子から離れ指示に従う。


「礼!!」

「はー…」

「お前じゃないから…!」


名前を呼ばれたと勘違いした玲が返事をする前に琉々が小声で止めに入る。周辺の生徒からの視線は受けたものの、特に何事もなく入学式が始まった。流石の怜も羽と尻尾は潔く仕舞っている様で見受けられない。


「絶対変な事すなよぉ?」

「へいへい、わかってらぁ」


着席の合図と共にもう一度腰を下ろす。名前順で座るしきたりのお陰で琉々の右隣が玲であった。その為、釘を刺せるのは不幸中の幸いだが…逆に琉々にとっては一瞬たりとも気の抜けない時間を過ごす事を強いられるという地獄でもある。羽を仕舞う事に慣れていない怜がいつ、どのタイミングで羽を表に出してしまうか分からないのだ。

気が気で無い時間が小一時間程過ぎて行き、どの世界でも長い教頭のスピーチも幕を閉じた。そしてようやく彼の気苦労も終わりを迎える。


「…これをもって国立楽単高等学校入学式を終了とする。一同起立!」


玲は勿論の事、その他数名も眠っていた様だ。号令で目覚めると慌てて立ち上がり何事も無かったフリをする。


「新入生退場!」


式典ホールの隅に置かれたラジカセからは入学式定番ソングが流れ始め、在校生の拍手に包まれながらその場を後にする。長廊下を渡り校庭へ出ると休憩時間となった。その間先生達は皆さんお楽しみクラス発表の準備をしている様だ。


「やっっっと終わったぁぁー…」


皆の集まる場所から少し離れた校舎の裏側で琉々は大きく伸びをする。対する玲はと言えば眠たそうに欠伸を一つ。気だるそうに揺れる羽や尾はもう仕舞われていない。


「琉々」

「はいー?」


玲は尻尾で軽く彼の肩をつつく。つつかれた彼はイマイチ張りのない返答と共に不思議そうに首を傾げた。


「全然話聞いてねぇんだけど俺、やべぇかな」

「でしょうねぇ…玲爆睡してたもん。まぁ大丈夫じゃない?」


着席合図の直後から夢の世界に入っていた彼は頬を掻きながら苦笑を浮べる。曖昧な答えを琉々が述べていると、二人の背後から再びあの声が聞こえた。


「入学式はどうだったかしら」

「あ、校長先生」


周りの事も気遣ってかチヅルを総称で呼ぶ琉々に柔らかい笑みを浮かべた彼女は、今日も愛犬と一緒だ。チヅルの愛犬、リオは二人を見るなり尻尾をぶんぶんと振り回す。玲がしゃがみ込み腕を広げると一直線にダッシュし腕の中に収まった。


「よーしよし、元気だなお前」

「すっかり仲良しになったわね」

「ですねぇ。まぁ…怜の尻尾目当てみたいですけど」


時に丸を描いたりハートを描けたりと予測不能な動きをするその尻尾は、動物にとって下手なおもちゃより楽しいらしい。前足や口を使って捕まえようと夢中だ。

そうこうしている間にクラス分けが決まった様で校庭は一気に騒がしくなった。彼らも遠目にその様子を注視する。


「見に行く?」

「んや、俺遊んでるから見てきて」

「…はぁ」


相変わらず人任せが平常運転の彼に呆れた琉々はツッコミを入れる気力も無く、出入口に掲載されたクラス表へと足を向ける。すると彼が向かおうとした方向から青年がこちらに向かって走って来るのが見えた。


「おーい、玲!琉々!二人とも俺と同じクラスだよ」


全寮制のこの学校では五日前から衣食住を共有し始めた為、男女共にほぼ顔見知りとなっている。声を掛けてきた彼の名は吹屋 透。黒髪に立つ一本のアホ毛が特徴的で、青色の半袖ポロシャツにサスペンダー付きで灰色の半ズボン姿の爽やかイケメンだ。誰にでも隔てなく接する心の広い彼は既に琉々達とも普通に話す仲となっていた。


「ってかクラス発表とか言って一クラスしかないっすけど」


透の後ろに着いて回るのは山内 真斗と言う小柄な青年。身長は160センチといったところだろう。お気に入りの桃色キャップを被り、黒の半袖インナーの上に大きめな藤色のパーカーをチャックせずに羽織っている。長めの裾から覗く黒のスキニージーンズが彼の足の細さを強調しておりスタイルは抜群だ。


「一クラスなの!?」

「うん。あそこ見てみ?」


真斗が指を差す方向には大きな貼り紙に対し、書かれている事は少なく空白が目立つクラス表が貼り付けられていた。一クラスのみで新入生は15名である。


「少なっ…」

「楽しみも何も無いわな」

「まぁしょうがないだろ、特殊だしこの学校」


クラス表を見て唖然とする琉々に賛同する真斗。そして配られた校内地図を手に、辺りを見渡す透が言葉を付け加える。この高校が特殊と言われる所以は大きく分けて四つだ。一つ目は入試も無く面接も無い、入学試験と呼ばれるものが存在しない事。もう二つ目は二年制である事。そして三つ目は二年間の間、行事以外で敷地内から出てはいけないという事。最後は二年に一度しか生徒を募集しない事である。


「なぁなぁ、部屋割りはどーなったん?」

「わっ!?」


親しげに話す三人の元へいつの間にか合流した玲は人として成り立つ姿で顔を出す。犬と遊んでいると思っていた琉々は突然の登場に驚いた様だ。


「よっ、玲。ってかさっきから琉々の背後に居たよな」

「え!?いつから!?」

「ちょい前ぐらいっすよ」

「気付いてねぇの琉々だけじゃん」

「それなら教えてよぉ…心臓止まるかと…」


元より驚かす予定だった玲の満足そうな高笑いに釣られ真斗と透も笑い出す。透と真斗は彼の存在に気付いていたらしい。

仮メンツだったのだが、五日前から同じ部屋で共に過ごしていた四人はすっかり仲良しになっていた。まとめ役で室長候補の透、観察眼は鋭いが気付いた事を口に出さない困り者の真斗、遊び好きでお調子者な玲、天然と言うより間抜けな琉々と一見バラバラだが彼らなりにバランスは取れているのだ。


「部屋割りは…仮のやつが確定なんじゃないかな」

「じゃあ俺ら四人じゃん!」


特に発表もされていない為、透の意見で納得した四人はグータッチを交わす。そして二年の間、我が家となる木造校舎を見上げたのだった。

賑わいを見せていた校庭も次第に静けさを取り戻していく。気付けば時計の針は8時55分を差していた。五分後に始まるホームルームに参加すべく四人は一斉に走り出す。誰が一番に辿り着けるかと競い合っている様だ。新生活に心踊らす新入生達を歓迎するかの様に桜が舞い落ちる。それが校舎の裏で蠢く怪しい影をも歓迎している事等、この時は誰も知る由もない。

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