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緊急開催!?犬ごっこ

気が付くと真っ暗な場所にレイルは立っていた。まるで地下倉庫に閉じ込められたかの様な息苦しさを感じるその空間を把握しようと彼は辺りを見渡す。しかしいくら目を凝らしても葉っぱ一枚すら見当たらない。


「ここはどこだ…?おーい!誰かいねぇのー?」


自分の声も真っ暗な空間に吸い込まれ、虚しく消えてしまった。言葉に表しずらい恐怖心と虚無感が全身を駆け巡る。暫く彼が動けないでいると目の前にうっすらと白く淡い光が現れた。


「なんだこれ」

「……よう……やく…」

「ん?」


レイルが光に触れるとノイズ混じりの聞き取りにくい声が辺り一帯に響き渡った。電波の悪い通話の様にガサガサと雑音ばかりが聞こえてくる。


「よ…うやく……て……た…」

「もっかい言って?よく聞こえねぇ」


不思議な声を何とか聞き取ろうと耳を近付けた瞬間まばゆい光が彼を包み込む。出そうとした声は喉に詰まり、視界はぼやけ意識が遠のいていった。


大きな桜の木の元で寄り掛かりながら眠る青年の姿がある。近くでは蝶が花の蜜を絶賛お楽しみ中だ。ひらりと手に甲に舞い落ちる花びらが彼の意識を呼び戻す。木漏れ日が差し込みほのかな光が頬を照らし、破れた毛皮のコートからは布製の簡易な服が顔を覗かせていた。

彼が薄らと目を開けるとそこには先程の世界とは違い、緑に囲まれた美しい景色が広がっている。レイルは故郷に似た懐かしさを感じ、無意識に緩む口角を隠そうと涎を拭うフリをした。そして心地よい風に吹かれ呑気にもう一眠りしようと思っていた矢先、和やかなムードは壊れる事となる。


「あ"ぁぁぁぁぁ!!い"や"ぁぁぁぁ!助けてぇ!!誰かぁぁ!!」


サイレンか!と思わずツッコミを入れてしまいそうな断末魔が静寂を切り裂いた。跳ね起きたレイルが声のする方向を見ると何やら小さな人影が猛スピードで此方へ向かってくるのだ。


「なんで俺なのさぁぁぁぁぁ!!美味しくないよぉぉぉぉ!!」


どうやらその人影は大きな犬に追い回されている様だった。発される間抜けな叫び声に聞き覚えのあった彼はふわりと中に浮き、安全な高さから観察を目論む。すると案の定レイルの予感は的中した。と同時に一気に笑いが込み上げてくる。


「んはははっ、やっぱお前かルラク!」

「え!?えぇ!?誰!今名前呼んだの誰ぇ!?」

「俺俺!!レイルだよ!やっほー」


安全地帯からにこやかに手を振り、楽しげに尾を揺らすレイルの姿はルラクからすればさぞ憎たらしいだろう。気を取られながらも走るスピードを全く落とさずに逃げ続ける彼の姿は最早陸上選手の様だ。重たいコートは何処かに脱ぎ捨てたのだろうか。彼にとって裾の長い布製の服を絞る為のベルトが上下に揺れている。


「やっほーじゃねーわ!たぁすけてぇ!!」

「さぁてルラク選手、今第三コーナー回りましたー!わんこ選手も追い上げております!」

「実況すな!!」


某定番BGMが似合いそうな追いかけっこが続きルラクの体力は次第に限界へと近付いてきた。それに比べ犬の体力は底知れずだ。確実に距離を縮められて行く。


「俺もう死ぬぅ!!死んじゃうからぁ!!!」

「しゃーない。助けてやんよ」


レイルが目の前に尻尾を垂らすと、犬はすぐに夢中になった様だ。長い追いかけっこはようやく幕を閉じる。へなへなと地べたに座り込んだルラクは息を整えて天を仰いだ。

暫くすると犬と仲良く遊んでいたレイルが不敵に笑いながらルラクの元へと向かって来る。


「えー、これより第二部を…」

「ちょちょちょ!!本気!?ガチ!?」

「んふ、冗談だって!うっせぇなお前」


既に逃げる準備をしていたルラクは冗談という言葉にホッと胸を撫で下ろす。しかしそれも束の間、レイルの顔を見た途端に血の気が引くのを感じた。彼は口角を上げてニタリと笑っていたのだ。


「え、冗談なんだよね?ねぇ!?」

「うっそー!行っけー俺のわんこ!」


レイルが真っ直ぐにルラクを指差すと瞳を光らせた犬が一直線に向かっていく。


「い"や"ぁぁぁぁ!!…って、え?ちょっ、擽ったいってぇ!」


覚悟を決めて固く目を瞑ったルラクの気持ちとは裏腹に、馬乗りになった犬は彼を食らうどころかぺろぺろと頬を舐め始める。


「なんか遊んで欲しかったっぽいよ?」

「そうなの?!なら最初からそう言ってよぉ、ねぇねぇ」


まるで子供の用に犬とじゃれ合うルラクはすっかりいつも通りに戻っていた。彼は恐怖心に駆られると暴走し普段の何倍も騒がしくなる。それには悩ませられつつも見ていて面白いので敢えて触れて来なかったのだが…。


「ルラクさぁ、ビビるとサイレン鳴らすの何とかなんねーの?」

「サイレン鳴らしてないわ!」

「まじでうるさかったぞお前」

「レイルがもっと早く助けてくれればあんな叫ばないで済んだのにさぁ!」


頬を膨らませ、怒ってますよアピールをするルラクを見ているとレイルの煽りたい精神が我慢の限界を超えた。しかしルラクも何らかに気付いた様で同時に息を吸う。


「怒るの下手かよお前」

「髪めっちゃ黒いよお前!」


案の定綺麗に声が被る。片方の語尾は笑っており、もう片方は真剣そのものだ。レイルが自ら一本抜いた毛を見ると綺麗な黒色に変わっている。しかし彼は特に気にする様子もない。


「下手ってなんだよ!俺は割と真剣に…」

「ってかそれ言ったらめっちゃ茶髪だぞお前」

「え、茶…?茶髪!?」


下手と言われた事に対するご立腹は何処へやら。直ぐにゴムを解き髪色を確認する。若干長髪な為出来る事なのだが、彼にとっては知らぬが仏だったのかもしれない。唯一の自慢だった特徴的な金髪を失ったルラクは生気も共に失った様だ。口から魂が抜け空に昇っていく。


「おーい?大丈夫?死んでる?」

「終わった……俺の自慢の金髪がぁ…あぁ…」


何かを感じ取った犬に慰められる結果となったルラクを横目に見ていたレイルは、ようやく意識が途絶える前の事を思い出す。最後にマスターが言った威世界留学という謎の言葉は一体何なのか。ここは一体何処なのか。そして髪色の変わった意味とは。考えれば考える程、何かが起きたのだとレイルの勘が警鐘を鳴らす。


「おいルラク!そんな事してる場合じゃ…」

「ようやく見つけましたわ。クロア・レイルさん、カーセル・ルラクさん」


犬に抱き着いて泣きじゃくるルラクを連れ、逃げようとしたレイルは背後から恐ろしい程の圧力を感じる。そこには居たのは森の方向から足音も立てずに近付いてくる一人の老婆だった。

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