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明るさの中に潜む小さな闇

鳥のさえずりと共に昇った朝日が校舎を明るく照らす午前6時。次第に校舎内が賑やかになり始めた。南東にある食堂からは張りのいい声が聞こえてくる。


「女子ー!点呼取るよ。はいいーち!」

「にー…」

「さん」

「よん!」

「ご~」

「ろーく!」

「こら逢崎!男子は入ってくんな!」


女子達の点呼にしれっと紛れた彼の影響で朝から笑いが絶えない様だ。風香に手で追いやられても鋼メンタルの俊はその場に居座り続ける。


「逢崎ってほんまメンタル鋼やな」

「中学の頃あっち系の本学校に何度も持ち込んで出席停止食らったことあるらしいね」

「そうなん!?絶対将来犯罪者やんか」

「あれは確定っすわ」


その様子を見ていた弘也、蒼介、真斗の三人も席に着きながら盛り上がっていた。それは俊に聞こえていた様で話の矛先が三人に向かう事となる。

そんな中、誰も居ない校舎裏に玲の姿があった。じっと自分の手を見つめ何かをボソリと呟く。


「あ、居た居た!何してるの?玲」

「んぉ、透か」


玲は駆け寄って来た彼に視線を向けた。少し走っただけなのだろうが軽く息が上がっている様だ。透の体力の無さはお墨付きである。


「なんかあった?」

「何もねぇよ。ただ昨日の事が気になってな」

「あぁ、それは俺も気になるけど…。でも放課後説明してくれるって言ってたし」


待つしかないんじゃない?と付け加え、笑みを浮かべる透は全く怖がる素振りを見せていなかった。


「透は怖くねぇの?」

「怖くないって言ったら嘘になるけど…死ぬなら死ぬで仕方ないかなって」


玲がこの世界に来てから読んだ本と透の様子は正反対だった。その本には人が唯一恐れるものは死であり最先端の時代に生まれた現代の人々はやたらと死を恐れている、と書かれていた為だ。現に玲は死ぬことを怖く感じる。自分達の正体やロゾル・ガーティオの事を知っている謎の校長と突如現れた魔物、自分とは違う考えを持つ友達。そして何より謎なこの世界。


「どうなってんだよここ…」


彼が頭を悩ませていると7時を知らせるチャイムが鳴った。透は少し離れた所から手招きをしている。


「飯行かないとまた怒られるぞー!」


玲は脳内に浮かぶ疑問を振り払い小走りで走る透を追いかけて食堂へと向かったのだった。


「遅いっすよ隊長」


食堂に着くと律儀に二人を待っていた真斗が言葉を投げかける。周りは既に食べ始めている様で食欲を掻き立てる匂いが充満していた。


「ごめん玲を探してたんだよ。ってかすっかり俺隊長呼びになってない!?」

「たいちょぉー!透隊長!」

「琉々まで…」


そんな大役やれる自身なんて無い、と嘆きながら透は席に腰を下ろす。そして玲も隣に座った。なあなあで決まったルーム名の遊楽隊。四人の中で一番しっかりとしているのが彼である為、次第に隊長へと任命されたのだ。


「ってか二人ともどこ行ってたのさ」


余程お腹を空かしていたらしい琉々は白米を頬張りながらふと二人に尋ねる。


「俺は玲を探しに」

「玲は?」

「ちょっくら考え事」

「珍し。今日雨降るね」


平然とした表情で惣菜物をつつきながら述べる真斗の言葉に聞いていた二人が小さく笑い出す。


「後で覚えとけよお前ら」


半笑いながら言う玲の言葉など彼らがまともに捉えるはずもない。今日は洗濯物を室内に干そうと決まり、食事時は幕を閉じた。

一時限目が始まり教壇には淵谷がチョークと教科書を手に淡々と授業を進めている様だ。この日の一時限目は生物である。


「最低限覚えなきゃいけない勉強だからしっかりと学ぶようにな。えー、教科書の3ページから…」


教科書の説明分を読み上げながら黒板に説明を書いていく一般的なスタイルだ。生徒達は真面目にノートを取っている者が多い。あくまで一部除き、ではあるが。


「なぁ琉々」

「んー?」


淵谷の目を盗み玲は小声で彼に声を掛けた。生徒に背を向けている隙に琉々も後ろを振り向く。


「後で話があんだけど」

「話?」

「おぅ、ルラクに話があんの」

「ルラ…?……あ、俺か」

「そこ!授業中に話しちゃダメだろ」


すっかり狩ノ瀬琉々として生活していた彼は一瞬疑問符浮かべる。わざわざその名で呼んだ理由を聞こうとした矢先、教壇から注意が飛んできた。その後は特に何も起きることが無く、室内には淵谷の声だけが響き渡っていた。


「話ってなんだよぉ?」


45分の授業を終えてだべるクラスメイト達に気付かれない様、忍び足で廊下に出た二人は青階段と壁との間にある静かな空間へと向かっていた。角度的に教室からは全く見えない為内緒話をするには向いているのだ。


「いい加減俺ら、動かなきゃじゃね?」

「へ?動くって何を?」


壁によりかかる玲に対し元々人間の琉々は不思議そうに首を傾げる。


「お前…前より間抜けになったんじゃねーの?さっき名前忘れてたみてぇだし」

「間抜けじゃないし!暫く呼ばれてなかったら忘れるじゃん!」

「馬鹿!静かにしろって」


ムキになる琉々にデコピンを食らわし黙らせる。幸いにも教室から出てくる者は居ない様だ。そして玲はブツブツと不満そうに呟く彼に向き直る。


「昨日の魔物、あれは多分俺らの知ってる世界から来てんだよ」

「そうなの!?でもマスターは魔物いないって…」

「後、リーチェとシュアナの事も気になんねぇの?」


かつて共にパーティを組み共に魔法陣に吸い込まれた仲間の事を話題に出されると、流石の琉々も事の重大さを理解した様だ。十日以上経っても彼女達からは全く連絡が無い。連絡手段すら無いというのが現実なのだが。


「…じゃあ誰か来ないか見てて?」

「見てっからはよ」


壁に向かって琉々は手をかざし意識を集中させる。そして久々にステータスメニューを表示させた。体力やMPに加え四人分の状態がそれには記されている。


「リーチェもシュアナも無事みたいだよ。体力も減ってないし。ただ名前変わってるからなぁ…多分この世界に飛ばされてる」

「名前何になってんの?」

「えっとねぇ…き、きばり?りさ…?と…シュアナの名前はこれなんて読むんだろ」


並べられた難しい漢字に困惑した琉々は言葉に詰まる。到底玲が見ても分かるものでは無い。諦めた彼はステータスメニューを閉じた。次第に話し声が少なくなる教室からはそろそろ二時限目が始まる事を伺える。


「まぁ無事ならまだいいけどよ。あっちに帰る為の特別単位ってやつも含めて聞かなきゃなんねぇ」

「校長先生に?」

「おぅ。放課後に昨日の説明あるみてぇだからその後とっ捕まえんぞ」


すっかりこの世界に馴染んだ琉々はあまり乗り気では無いのだが、下手に一人で動かれてヘマされる方が状況的には不利になる。渋々了承した琉々は、何かあれば一戦交える気満々の玲を横目に溜息を着くのだった。

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