太陽が真上に見える時にー⑫
「眼帯サーン!!危ないデース!!!」
いきなり現れたメイは、破炎撃と呼ばれる、燃焼する女子力の気を織女に打ち放ち、突進の勢いを削いでいく。
そして、友江を抱え込むようにし、一足飛びではねて、織女の突進を回避する。
「アンタっ!『悪魔』ちゃんの友人Aじゃん。ほんと、邪魔するよねぇ。サイアク」
突進により、道の端にあるブロック堀に貫通している片腕を引き抜きながら、織女は睨み付け、憎々しく吐き捨てる。
彼女にとってそれは、メイの存在はうっとうしいという意思表示の表れだった。
女子力が包み込む『悪魔の鎧』は、そのまま、2人に対して構える。
友江は、小さな声でメイに問いただす。
「いけるか?」
「もちろんデース。……ちょっと、借りがあるからね。あの娘には」
「私は、いま、トモエに用があるんだけどっ!あんたには、用はないのっ!!流田!!」
「はっ……」
と、どこからともなく、男装の麗人が既にそこにいたかと思えたかのように、音もなく現われる。かしずくように恭しく。服装は執事のような、カフェのウェイターのような服装であった。そして、スレンダーな体形には、また人知れぬ努力が垣間見させられる。
表情は、乏しく、何を考えているかは読み取れなかった。しかし、一つだけわかることは、織女に対して、眉を顰めることなくロボットのように忠実に命令を従うであろうということ。
「あの、金髪ガイジンのお邪魔虫、アンタが相手しててよ。私は、トモエをヤるから」
「仰せのままに」
と、流田と呼ばれた人物は、メイに対して優雅に構える。そして、右の手の平を広げ、指を真っすぐにし、一本一本を隙間なくくっつける。とたん、右手から、青白く光り出し、手の平を包み込む。あれは、間違いなく女子力のオーラ。まるで一振りの剣のように形作られる。彼女はその右手を前に突き出すように構える。右手は剣、左手は握り拳、それは非対称となる構え。
メイは、いつもの、慣れた構えをとる。全身の女子力の流れを循環させるように、ゆっくりと空気を吸い、吐く。自分が、よいと思えるリズムで。いつでも、最大のポテンシャルを。
しかし、ここらへんの地域は化け物の集まりか?メイと思う。先ほど、蹴散らした襲撃者たちも、多かれ少なかれ女子力のような気を使って戦っていた。
地元じゃ、こんな女子力使いなぞ、ごろごろいない。いや、それとも、皆実は使い方を知らなくて、使い方さえわかれば、この町のように色んな使い手が溢れていくのではないかと。
じわりと、汗が背をつたう。
――――いいよ、やってやろーじゃない。私流に研ぎ澄ませた間崎流格闘術を!!
互いに間合いを詰めていく。
流田は、剣となった右手を、十字にふるい、最後に突きを放っていく。
メイは、寸分の差で回避する。少しでも、ずれていたら、彼女の気に切り裂かれていただろう。
そこから、潜り抜け、しゃがみからの拳の突き、立ち上がって上段回し蹴り、その回転のバネを利用して、顎にむけてのアッパーを繰り出す。拳の突き、回し蹴りを流田は甘んじて喰らっていくも、顎への攻撃は両腕で防がれる。
ほかの2つを受け止められるにして、致命的な部分を防いでいったようだ。
瞬間、軽やかな動きでくるりとメイは背後を取られ、胴体を掴まれる。
「えっ、マジで?!」
そこから流れるように、胴体を持ち上げられ、地面に叩き伏せられる。
いわゆる、ジャーマンスープレックスと言われる掴み技。それも、男装の麗人の華奢な体から、想像ができない力技である。
組み付きを解き、流田は間合いを取る。
メイは、呻きつつもすぐに、後転し、立ち上がり、構えをとる。
「女子力で切り裂いていてくると思いきや、ジャーマンってとんだご挨拶デースね」
「それが、私の中で一番の『美』を感じましたので」
メイは、すかさず、両腕を後ろに回し女子力の気を練り始める。その間わずか、0.5秒。
「挨拶は、ちゃんと返さなくちゃいけないデスネっ!」
そこから、流田に目掛けてその気を打ち出す。
それを、目の前の彼女はバック転をすることで、弾を逸らして回避する。
「身っ軽~!」
「……!」
とたん、流田は大きく宙を舞う。そして、何もない空中を、あたかも壁があるかのように蹴った。女子力のなせる業だろう。足元に、女子力の気をためており、加速する際、蹴るように気を放出することによって直進していく。その様が、壁を蹴るように見えるのだ。
メイへと目がけて右手の刃を構え加速する。
そして、袈裟斬りに切り裂こうとする。が、メイは横っ飛びで間一髪避けた。いや、ギリギリだったというべきか、袖を切り裂き、薄皮一枚に傷をつける。
腕に血がにじむ、メイ。だが、なりふりかまっていられない。
もう一度、流田は宙を飛び、空中を蹴った。
今度は、左手を伸ばす。
メイは、その左手を弾いて、潜り込むように回避。相手の、空中の軌道が変則的である。攻撃のタイミングがまだ、読めない。
回避に専念するが、打つ手はあるのか。
対応する方法は、あるにはあるが、タイミングと気が練られるかどうか。
メイは、右手と両足に、女子力の気をためつつ、牽制用の技として、空中で回し蹴りを放つ。
が、流田はそれをスライディングで潜り込む。
「たっぱがあるのに、ちょこまか動くヨネっ!」
もう一度、流田は宙に舞う。そして、宙を蹴った。
構えるメイ。向かてくるタイミングで、拳を当てようとする。
が、加速してこちらまで直進するかと思いきや、もう一度高く跳び、一回転する。
メイは、拳を振るいそうになるが、止める。
(タイミングずらされたっ!!)
空中の彼女はもう一度、空気を蹴る。
加速して、今度は横一文字に斬ろうとする。鋭い煌めき。
その軌跡の一閃から、メイは後ろに飛びのく。
――――あともう少し……。アイツをよく見て!! メイ!!
メイは女子力の流れを、全身をめぐるようにフル回転させる。体中を熱くさせていく。熱量は十分。
「これで終わりです。あなたには、有終の美としてこの目に私の舞を焼き付けましょう」
右手の刃を、男装の麗人はより一層光らせる。そしてメイに目掛けて、走って、跳躍する。空中から縦に斬る。
メイは、両腕に女子力の気を充填させ、防ぐ。バチバチとなる空気。
そこから、流田は、空中を蹴り、高く跳ぶ。
「この刃には、こういう使い方もあります」
と、何度も何度も右手を振るい、空中から刃の雨を降り注ぐ。
「マジでっ!?」
避け切れない!!
刃の雨を受けきる。だが、彼女は気の飛ばし方をまだ慣れていないのか、遠距離から何度も気を飛ばしたおかげか、メイは微量のダメージで収まる。
そして、そこから流田は空中を蹴り、メイへと直進する。
メイの気力は、ダメージは受けたままだが、気力は十分。あとはタイミングだけ。
そして、流田が右手の刃を振り下ろしてきたタイミングで。
右手の拳を女子力で燃焼させ、交差させるようにジャンプアッパーで流田の顎を直撃させる。
そして、吹き飛ばした。
手ごたえあり。そのまま、流田は、地に伏せていく。
残心、メイは慣れた構えをとる。いつ起き上がっても対応できるように。
男装の麗人は立ち上がる気配はない。
「あ、そうだ。アンタの使い道、見つかったじゃない」
「なに?!」
目の前の敵に集中しすぎていたせいか、背後から迫る脅威に気づけなかった。
メイは、後ろを振り返ろうとするが、時すでに遅く後頭部を掴まれ、紫色の女子力のオーラを送り込まれていた。




