太陽が真上に見える時にー⑩
「さぁ、恐れるがいいわ。わが主『鷲崎織女』の牙は、今のうちに貴様らを喰らいつくすの!!!」
黒の長髪の女が喚き散らす。彼女が、オカ研の会長に『ちょっかいを掛けた』その人であろう。
ああ、なんて、目の前の彼女ははた迷惑な人だとみもりは思う。それも、校庭のど真ん中で。そして、あの例の差出人の名を語っている。ということは、関係者とでもいうのだろうか。
生徒会室にいたメンバーは江梨華以外、外にいる。江梨華も、
「……ちょっと忘れ物を取ってくる……。私も、外に出るつもりだから……大丈夫よ……」
という言葉を残して。
彼女も、協力する意思はあった。
それは、全員、答えは戦う意志があるということを意味していた。
ちょうど、先生が出てこようとするが、そこを副会長がバッと片手で遮らせ「こちらに任せてください」と止めていた。
「土岐子ちゃん、沙っちゃん。それと、一年ズ。ここは、私に任せてくれない!?まだ、私もちょっかいかけたりないの。なにせ、あの人に……」
と、金髪のオカ研の会長は、
「だって、この子に、私の蹴りを受け流されてしまったもの!!」
カミソリのような、鋭いケリを放ち、叫ぶ彼女にぶつける。
凄まじい力が込められた一撃。あれも、女子力の一撃なのであろう。ならば、あのオカ研の彼女も使い手だというのだろうか。
オカ研の会長と謎の女が蹴りと拳の応酬が開始されている。
その様を見ていても、会長は自分のペースを崩さずにいた。
「そうそう、皆にお願いしたい、調査の事なんだけど~。ちょっと、さっきの写真の子を探してきてくれたら、うれしいわね~」
「中々に、難しいお願いですね。ボク達でできるかな」
「それは、こっちもわかってるつもりなの~。手掛かりだけでもいいわ~。とりあえずひとまずは、校門前にまた、集まり始めているから、その彼女達を蹴散らす合間に、例の写真の子についての情報をもらえたらいいな~って」
「やっぱり、あの叫んでいたあの人と同じく関係がある感じなんでしょう?まだ、わからないけど十中八九そうだわ。ふん、写真のアイツの住所でもメモで落としてくれればいいのにっ」
「真朝。さすがに、それは無理なんじゃないかな?」
「というか、なんで、私たちの学校に集まってるのですかね?」
みもりの疑問に、土岐子会長は、かぶりを振る。
「それもわかってないの~。朝、登校時に襲い掛かられているのと同じで原因不明~。たぶん、手紙が関係してると思うのだけど~」
「それにしても、これからの荒事ですよねぇ。内申とか不安だわぁ」
「うわっ、いきなり嫌なこと思い出させないでよ」
「ここまで大ごとになると、まずいけれど~。それは、大丈夫よ~。なんとか、家のお父……理事長に今回の件は、お話を通しておくから」
「そんなことできるんですか?!」
「うし。とりあえず、もう、何にも気にせずぶっ飛ばせばいいんだな。簡単だ」
「もっちん、それは単純すぎるね」
視線をもどせば、壮絶な演舞をおこなっている、2人。オカ研会長は飛び回るように足業舞わせる。その一撃が軽やかのようでいて重い。なにか、あの蹴りには、今まで大きく立ちはだかる壁のような物事をあの足業で超えてきた、そのような重みがあった。
その相手も相当な手練れと見える。はたから見れば、『狂人』であろうと思った彼女も相当修羅場を超えてきたものがあったと思えた。
(あの戦い、見ていたいけど…さすがにやることやらなきゃね)
「グループは~、3つに分かれましょうか~。みもりん、メイさん、ヤンキーちゃんグループと。剣道部組グループ、生徒会グループで~」
とたん、ふらっと、土岐子が倒れそうになる。
「大丈夫ですか?!」
「会長?!」
「大丈夫か」
そこを支える。友江。会長は先ほどから、荒事をおこなうには体調が悪いようにも見える。友江の支えに感謝して、「大丈夫」と一言残し、友江から離れた。
「気にしないで~。ちょっと、めまいがしただけだから~。まあ、私は沙智とトモエちゃんに任せる軍師ポジションでいくわよ~。さて、いきましょう~!」
「会長、楽しんでいらっしゃいますか?」
沙智の、鋭い指摘が入る。が、土岐子はそんなことは気にもせず、にこにこと。
「そんなわけないわよ~。そんなに、わたしが戦闘狂に見える~?」
「たまに」
***
言葉を交わそうにも、問答無用と襲い掛かる、謎の少女たちの集団。
聞こえる言葉も、「あの人のため」や、「お前らを倒せば、あの人に近づけられる」であったり、「この格闘大会を制すれば、栄誉が得られる」という言葉だけ。あとは、拳だけが語るのみというように殺気を漂わせ、見知らぬ少女たちは格闘術を振るう。
そこを難なく撃退していくみもり達。
そして、最後の集団に対して、
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
みもりから、水平に振りかぶった気の弾が滑るように放たれていき、彼女らへと直撃していく。
命中し、ちりじりになる相手。
――――ああ、まただ。また、あの光景が思い浮かんでいく。
思い出したくない、あの感触。あの手触り。あの感覚。
忘れていたはずなのに、忘れていたかったのに、欠片がかちっとはまっていくように、記憶の断片が思い起こさせる。
あの黒い稲光も今は静かだが、いつ現れるかと思うと末恐ろしい。いや、それをも飲み込まれない何かを考えなくてはいけない。みもりは、何にも解決策が見いだせない自分にもどかしさを感じた。
「Hey!ミモリ?What's the matter?どうしたノ?」
「ああ、大丈夫だよ。なんでもない。なんでも」
「おい、ししょー。体調悪いのか?」
「そんなわけないよ。大丈夫。とりあえず、蹴散らしたはいいけど手掛かりとか、情報とかそういうのはわからずじまいだね」
「Japanって、結構治安いいって聞いたけど、ここの女の子って結構、おてんばすぎるデスネー」
「今日がホント異常なだけなの!いつもはこんなことはないけど……」
「しっかし、『あの人のエイヨ?』とか、格闘大会だとか……。もしかして、あの手紙のコトか?」
元子は後ろに手を組んでいる。何を探せばいいのかわからないという感じだ。
「まあ、ここはあらかた片付いたし。もう少し、ここら辺の周りを見て回ろうよ。何もないかもしれないけれど、何かあるかもしれないし」
「手掛かりが、何もナイデスカラネー。賛成デース」
みもりと、元子が振り返って別の道へ移動し、メイもついていこうとした瞬間。
風紀委員長の友江がどこかへ走っていくのを見かける。
「あれ……?あの人は……」
意を決して、メイは、友江が行った方向へ走っていく。
「メイちゃんどうしたの?!」
「ちょっと、用が思い出してすぐ戻ってくるヨー!安心して先に行っててデース!」
メイは、どこかへと走り去ってしまったのだった。




