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太陽が真上に見える時にー⑨


 鷲崎織女。あの黒い手紙に差出人として書かれていた見知らぬ名。メイは、言わずもがな、一年生連中は全員ピンッと来ていなかった。


「あのー、黒い手紙に書いてありましたが、ボクにはその名前に覚えはないのですが……」


「私も、です」


「私もですよぉ」


 剣道部一年にもあの手紙が届いているということ。みもりは、驚く。襲われた人数からして、かなりの人数が貰ったとも考えられるが、まさか剣道部の人たちにも届いているとは。


「あのー、その黒い手紙、私も届いたのですが、皆さんその手紙もらったのですか?」


 みもりが問いただし、一同が肯定する。


「え、メイちゃんは知ってたけど、皆もらってたの?!」


「マジかよ……。糸巻きメガネまでもか。もしかしたら、もらったやつもっと多いんじゃねーか?」


「……」


 小刻みに震え始めている、江梨華がいた。ひどく怯えているように見える。


「……りかちー。どうしたの?大丈夫、具合悪い?」


「いえ、宮原さん……気にしないで。……大丈夫。大丈夫だから」


「そう……?」


「とりあえず、私が知っている限りでは、一年生でもらっているのはこの皆さんですね」


「ちなみに、うちの連中、風紀委員の皆は全員もれなく受け取っている」


 沙智が取り仕切る中、眼帯をつけている大柄な生徒、友江が補足する。


 

「では、この方に見覚えはありますか」


 と、一枚の写真を一年生たちに見せていく。各々、写真を見せられてピンと来ていないものの、江梨華は、震えながらも見たくないかのように写真から視線を逸らす。


「湊橋さん、どうしました?」


「……大丈夫です。知らないです。……あんなヤツ」


「?」


 刹那、みもりとメイは背筋が凍り付くような感覚を覚えた。写真に写るものに嫌な気配が漂う。


 2人は、視界に映った瞬間に理解する。


「あっ……」


 見覚えのある、ツインテール。暴力的とまで覚える化粧。そして、パンキッシュな趣味の服装。


 そう、まごうことなき、2人が戦った、紫色の女子力の少女、そのものだった。


「あら、みもりんと……、メイさん?名前はピンと来てなくとも、見たことはありそうなかんじ~」


「……、見たことあります。いえ、私、……メイちゃんと私は彼女と、『戦い』ました」


「……!!!」


 ああ?はいっ?えっ?……そうなの……?など、様々な反応をするが、共通しているのは一同驚いていることだ。


「ちょっとまて、ししょー?もう戦ってんの?やたらめったら、夏休み体がなまりそうだからって、やたら目ったら喧嘩売ってたらやべぇって――――」


「違う、違う違う!向こうから、喧嘩売ってきたの!!」


「でも、カラダなまってたのは否定シマセンヨネー?だって、私たちが、組手やってたのデスカラ。あっちが、乱入してきたデース


「まあ、そうだけど……」


 みもりの声音が、どんどんと小さくなっていく。人差し指と人差し指をちょんちょんとぶつけながら。


「あなたたちは、既に彼女と戦っていたのですね」


「はい……」


「それでどうだった~?彼女、すごく冷え切っていたでしょ~」


「……はい、そうですね。それに、怖く感じました。」


 みもりは、もう一度あの時のことを思い返す。気を抜けば、カラダを貫いてきそうな冷え切った怖さ。暴力的なまでの女子力。


「宮原さん。そういう人と、戦ったんだね。大丈夫だった?」


「うん、引き分け……でよかったのかな……。向こうが、引いた感じだったから。本当に危ない人だった」


「まあ、危ないといえば、そうですね。その写真の彼女が、アナタたちに手紙を送った、『鷲崎織女』その人です。この地域での要注意人物となっております。かつての――――」


「沙智」


 と、土岐子の出したことのないような鋭い声音で、沙智に釘を刺す。なにか、言ってはいけないことを言いそうになったようだ。


「こほん、そうですね。私としたことが、思慮を欠いた発言をしてしまう所でした。失礼しました。お気になさらずに」


 と、沙智はホワイトボードに写真を張り付け、もう一度周囲を見回した。


「彼女は、この地域でいわゆる『女子力』を使って活動している不良チームのリーダーです。普段であるならば、関わり合うはずのない人ですが」


「けど、皆あの、黒い手紙もらったでしょ~?そうなると、その彼女に標的にされたようでかなりまずいの~」


「そこで手紙をもらったあなた方には申し訳ないのですが、私たちの指示の元、調査のお手伝いをお願いしたいです」


「風紀委員からとしても、協力をしている。生徒を守るためにも、どうか協力ができないか?」


 ひと時の静寂が訪れた、いきなりの上級生のお願いにどう答えればよいかわからかったからだ。


「私は……」


 みもりが口を開いたその時。


 バリ――――――ン!!


 一人の金髪の少女が、背面からガラスを割って入ってきて、会議机に突っ込んでいく。


「何事~?って、あなた、オカ研の会長の――――」


「あらぁ、土岐子ちゃんじゃない!!奇遇だわ!こんなところで何してたの~!」


「今度は、なにをやっているのですか?!また、アナタいたずらでも!?」


 あまりの急転直下な光景に、面を喰らってしまう一年生連中。その中で、メイだけが、


「ワオ!Japanese high schoolは、生徒が背中で窓からダイビングしてくるエキサイティングなところなのネ!!」


 と、目をキラキラ輝かせている。


 みもりは、いや、メイちゃん違うよ……あとで否定しとこうと考えておく。


「違うのよ!悪気があったわけじゃないの!ちょっと、学校をずっと見ている人を見かけたから、話しかけてみたのよ。そしたら、ちょっかい掛けられたから、遊んであげたのよ!そしたら、彼女に投げ飛ばされて突っ込んでしまったの」


 と、窓の向こうへと指をさす。


 全員が、指をさした方向を見るとそこには、手を広げて大きく何かを訴え叫んでいる女性の姿があった。


「会議中失礼します。ああ、うちの会長がすみません!!大丈夫でしたか!」


「ああ、もう、うちのリーダーがぁ、大丈夫!?」


 と前にあった、オカ研の眼鏡の先輩と、同じくメンバーの小柄な先輩が入室してくる。


「すみません。水天宮会長。うちの会長が迷惑をかけてしまって。でも、不審な人物がいまして、その他にもちらほらといるみたいで!」


「協力するものは、外へ出てください。協力できないものは、教室か、ここに待機で!!」


 みもりの脳内に、火ぶたが切られたような音がした。


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