太陽が真上に見える時にー⑥
(『悪魔』ちゃんか……。恐怖で支配する力。屠れる力。もしかしたら、私も……)
紫色の女子力使いの乱入から数日後。みもりは、涼しい校舎の中で、夏期講習を受けていた。成績には直接かかわらないものの、夏休み前の授業の内容についての補講であり、希望者を集めて行っていた。
みもりもいい機会だとばかりに、希望し受講していた。まあ家にいたらいたで、メイから組手付き合えだの、師匠から稽古手伝えだのやることはあったであろう。それはそれでみもりも喜ばしいことかもしれない。
ちなみに、期末で赤点取ったものは強制参加とのこと。みもりは、元子が国語、世界史、英語において強制参加で愚痴ってたことを思いだす。しかし、今日、仲の良い友人は一人も来ていない。用事があったり部活の練習試合があったり、そもそも参加する気がない等と様々だった。
黒板に、数学の応用問題の例題が書かれていき、先生がそのことについて解説をしていく。
みもりは、黒板の文字を負っていき、ノートに写しながら別のことを考えていた。
あの紫色の彼女から言われた言葉、『戦うものに乱入し、完膚なきまで倒す。まさに、私の憧れ』。
昔のみもりは、そうであったのだろうか。意識がなかったあの頃は、あの彼女と同じであったのだろうか。『違う、そうじゃない』と言い切れないのは、みもりの心の奥底に獣がいる理由でもあり、心の弱さのせいかもしれない。
向き合わなければ。己の内なる獣と。
そして、紫色の女子力使いも危険だ。触らぬ神に祟りなし。みもりから、関わらなければ問題ないかもしれない。しかし、いつかは、交わる気がしてならない。みもりの性質と紫色の女子力使いの性質から、みもりが避けようとしても、彼女から。
自分の内と外のケジメをつけなくてはいけないのかもしれない。
みもりは板書をノートに写すことを続けていく。応用問題の解答と、先生の解説も加えて。
――――うん、なんか、もやもやが晴れない。
とりあえず、心の問題と、あの子の問題は、そもそも別々の問題なのだから、一つ一つ解決していこう。問題も、出来ることを一つずつ解決することによって、解答に導いていく。今、黒板に記載されている答えも同じことだ。
ひとつひとつ。一緒くたにせず、別々に。もともと、別々だったものを一緒くたにしてしまうのはきわめて無粋だ。
一つは、自分次第。解決方法はわからないけれど、まずは心を強く持つようにしなければ。
そして、紫色の女子力使いの場合は、絶対それは違うと。もし、ぶつかるなら、全力で相手を叩き直すように。
みもりは、グッと、握りこぶしを小さく握った。
***
「Hey!みもりっ!迎えに来たデース!」
「あれ、メイちゃん。どうしてここに?」
「言ったじゃないデースカ!迎えに来ましたヨ!」
「てか、またそのしゃべりしている」
「いいのヨー!悪いことをしてるわけじゃないんデスカラー」
校門前で、みもりはメイと出会う。
メイは彼女が出てくるまで待っていたようだ。道行く周りの生徒達も、誰あの子?であったり、綺麗な人、であったりここらへんじゃ見ない子だねーというように反応し始めていた。ちょっと、みもりとメイは目立ち始めてきた。
「あれ?オトモダチはー?」
「今日は来てないよ、私だけ。それよりも早く帰ろうっ」
と、みもりは、メイを引っ張って走る。引っ張られた彼女も、
「Whats?!そんなに急いで、どうしたんデスカー?!見たいテレビか、動画配信でもあるんデスカー?!」
とまったく、見当違いな方向で心配をしているようだ。無論、そんなことはない。
2人は、逃げるように走る。逃げる必要はないはずであるが、あの場にいたくなかったためだ。
どのくらい走っただろうか。人気がなくなったところで止まる。思いっきり走ったため、みもりの息も切れ切れだ。
「もう!走ってどうしたの?なんか急ぐことでもあった!?」
メイも、人気がなくなってきたからか、カタコト喋りから流ちょうな日本語へと戻していく。
「……あ、いや、ちょっとざわざわしてきたから」
「?まあ、いいか。じゃあ、今度はゆっくり帰ろうか。ちょっと話したいこともあるし」
メイは歩き出す。みもりも、息が整い始めたので同じ速度で歩く。道筋が違うとはいえ、下校でメイと一緒に帰ったのはいつ振りだろうか。あの時は、景色はとても大きく見えたが、背がのびたためであろう、これってこんなものだったのかと感じることが多くなった。
「ねえ、アイツと戦ってどうだった?」メイは口火を開く。
「アイツ?」
「あの、紫色の女子力使い!」
少し、みもりは思案する。
「うん、なんというか。ぞわっとした、冷え切った感じだった」
「そう、やっぱり、アンタもそう思ったのね。なんというか、間違った使い方をしてる感じだったけど」
「あれは……、人を憎んだり、弱者をいたぶったり、屈服させたりするために使った女子力の、……『その果ての先』なんだと思う」
「その果てか。そうなんだ。とても『マジでヤバい奴』とは思ったけど、『果て』とまできちゃうと、とんでもない奴だったんだ」
「うん、関わっちゃいけない感じの」
「そう、でも、関わざるを得ないんでしょ?あいつは。みもりも、私も」
と、メイはみもりをじっと見る。みもりの意思に問いかけるかのように。
「だね。彼女は、野放しにすると本当にまずい。止めなくちゃいけない。けれど、私たちだけだと非常に厳しいんだ。だから、ちょっと聞ける人に聞いてみる。それに……」
「それに?」
「私は、他人事になれないと思うんだよ。昔にも、似たような人が暴れていたって聞いた。女子力使いに名高い、暴力的なまでの強さの権化。2年前に、女子力使い達に討伐されたって聞いたけど。そして、あの娘は、言ってたんだよ。それを目指していると」
「……?」
「でね、私。2年前までは、意識を心の奥の獣に乗っ取られていたんだよ。自分が自分でなかったんだよ。それで、あの娘と戦った時に、少しだけ思い出してしまったんだ。色んな人を完膚なきまで叩きのめす感触」
「……!!まさか、その2年前の話。みもりだったっていうの!?何言ってるの?冗談も大概にしなって」
みもりは、無言となる。
「アンタ、もしかして、責任感じてる?『自分』のせいで、アイツが生まれたって思ってない?」
みもりは、ゆっくりうなづいた。
「バカっ!私の知っているみもりは、『暴力的な強さの権化』とかそんなんじゃない!優しくて、間違った使い方をしたら許さないていう頑固なみもりっ。それに、もしそれがアンタだったら、あの時のアンタは|討伐をされたんでしょ?そこでケリはついた!それに、いまのみもりは、意識を取り戻してからは、2年前のように意識を完全に乗っ取られてないじゃない!取り戻しているんだよね?」
みもりは、彼女の意見にハッとする。そうだ。のっとられたとしても、最後には意識を取り戻している。自分が自分として自覚をしている。
「それに、あーいうやつは、ただの尊敬の対象としてみもりを上げているだけ。もし、アンタが暴れなかったとしても、紫色のアイツは、絶対に間違った使い方をしていた。そこでみもりが、責任を感じる必要はないんだよ」
「そうだね……。ありがと」
「私たちが考えるのは過去の事じゃない。未来のこれからどうするか、だよ」
「うん。やっぱすごいな。メイちゃんは」
「違うよ。アンタの事を、師匠を除けば、他の人よりよく知っているだけ」
そろそろ家も見えてきた。さて帰ったら何をしようとみもりは考える。まずは、今日勉強したところを復習するか、それとも忘れてゲームをするか、気分転換にお菓子を作るか迷っていた。お菓子を作るなら、暇ならメイにも手伝ってもらおうと思った矢先。
「ねぇ、ポストの中に手紙入ってない?それも二つ」
「?」
とみもりは、メイから便箋を手渡される。その色は、黒色の便せんで赤文字で宛名が記されていた。




