太陽が真上に見える時にー⑤
「……!!」
「!!」
紫色に彩られた影と双方の首を狙った鋭利な軌跡にみもり、メイは大きく横っ飛びに動いた。
まさに一瞬の差。数瞬遅れていたら、2人は抗うすべもなく地に付していただろう。かろうじて、避けられたのは2人の経験の差か。
2人の間を裂くように現れた紫の影の正体は、2人と同年齢かと思われるパンクな服で身を包めたツインテールの少女。両の手には、禍々しい女子力の気が露わとなっている。
一目で見てわかる。この人とは、関わってはいけない。しかし、あの心の奥の、ケモノが大きく囁く。
――――その子は、今すぐコワスべき子だよ。
みもりの右腕がブルリと震えた。
(どういうこと?なんで、女子力使ってないのに聞こえてくるの?)
目の前の少女は、不敵な笑みを浮かべ、すかさず、みもりへと疾走する。
その彼女は荒れ狂う様で、両腕で切り裂くよう爪を立てる。
左の爪の軌道は、回避できたが、右の爪はみもりのわきバラをかすめる。服が破れ薄く血がにじむ。立て続けにその少女は宙を舞い、両足高くあげ、振り下ろす。
それに対して、みもりは体が勝手に、その足に目掛け、女子力の気を固めたアッパーを放っていた。
互いの気と気がぶつかり合う。閃光がはじける。それは、混ざってはいけないものが混ざりお互いに反発したよう。
みもりは、地面に叩きつけられる。
「みもり!!」
メイも、みもりに襲い掛かったその少女へと間合いを詰めるべく走る。
「アンタ、まだいたの?アンタもちょっとは面白そうだけど、今は興味なーい」
その少女はみもりとの女子力の気のぶつかり合いではじかれながらも、宙を舞ったまま飄々とした言葉を紡ぐ。この状況を楽しんでいるようだ。
メイは、走りながらその少女に目掛けて、跳躍し二連回し蹴りをお見舞いする。
その二連続攻撃を少女は細い腕で受け流す。
そして、お返しとばかりに、人差し指と中指で立ててその指先に女子力の気の塊を作り、息を吹きかける。
嫌な予感がする。
その小さな気の塊はふよふよと、メイの顔の目の前に移動したかと思いきや、はじけ飛んだ。その小さな塊から、想像もつかない爆発に発展する。
「メイちゃん!!」
メイは、吹っ飛ばされながらもかろうじて衝撃を逃がすように地面を回転する。
そして、乱入した少女は、その不敵な笑みを崩さず、空中から綺麗な着地をする。そして、2人を値踏みするように見回す。
大きく背伸びをして、まだ、満足していない様相していた。
「あれぇ?もう終わり~?つまんないよ~!せっかく、楽しいところにちょっかいかけてあげたのに」
みもりはゆっくりと立ち上がる。相手は相当の手練れだ。あの少量の女子力のはずなのに、圧倒的な威力。『ちょっかい』という遊び半分で、みもり、メイの両名を退ける強さ。
そして……。
――――なんで、あの子。あんなに、女子力が冷え切ってるの……?
みもりは、接触した瞬間に、感じ取る。触れられただけで、あんなに心の底から悪寒がした『力』は初めてだと。自分の『破壊』とはまた別の、触れてはいけないと感じさせるような、嫌悪したくなるぞわりとする感覚。似ているといえば、あの全校生徒を『人形』にした事件のような、江梨華が使っていた白い糸を触ったあの感覚だ。
しいて違う所を上げるならば、あの時の感覚をもっともっと、濃くしたように感じられた。
あの時の糸は、ある種の『憎悪』によって、女子力が白い糸に注ぎ込まれたものだ。そして、目の前の少女は。
「どうしよっかな?そんな、腑抜けた感じなら。……ヤッちゃうよ」
みもりには、その『憎悪』の女子力をまとっているとしか思えてならなかった。理解する。あれは、間違った使い方をしている、と。私たちとは相容れない存在だと。
向こうは、まだまだ足りないとばかりに、みもりへと走駆する。その拳からは凶暴ともいえるような形で女子力が放出されていた。それを、みもりに対して容赦なく振るう。
が。
間一髪のところで、横から入ったメイが防ぐ。
「ちっ、アンタには用がないって―の!どっか行っててよ!」
と、メイを片手で掴んでから、軽々と持ち上げる。
「なっ……?!」
そして、遠くへと投げ飛ばされる。
友の様子をみながらも、しかし、みもりは動けなかった。
――――メイちゃんが、助けてくれたのになんで、私なんで何もできなかったんだろう。
「ああ、なーんか、邪魔されてつまんなくなっちゃったなー。じゃあ、お話でもしない?」
あの不敵な笑みは張り付いたまま、彼女はしゃがみ込み顔を近づける。
みもりは彼女の眼を見て、気づく。
目の奥がまったく笑っていない。どうしたら、このような表情ができるというのだろうか。背筋が凍りつく。
「あ、やっぱり~。どこかで見たことあると思ったら、私の『憧れ』のセンパイじゃん。キャハッ」
「憧れ……?」
「そう。女子力使いに名高い、暴力的なまでの強さの権化。戦うものに乱入し、完膚なきまで倒す。まさに、私の憧れ。暴れていたところの姿を見てから一目ぼれだったんだー。あれは、今でも昨日のことのように思い出すよ。2年前に討伐されたって聞いたけど、こんなところにいたなんて。ねぇ、悪魔ちゃん」
2年前。強さの権化。悪魔。唐突に、みもりは思い出す。完膚なきまで叩きのめす感触。殴る感覚。蹴り飛ばす感覚。投げる感覚。そして、破壊の力を行使する感覚。そして、周りは全て、倒れ伏す者たち。そして、最後まで抵抗していた、2人の相手。記憶はそこで途切れている。
――――これは、私なの?すべて自分のやったことなの?この生々しい感触はすべて?
脳裏に巡った光景に、嗚咽を漏らしそうになる。そして、叫びそうになる。すべて、すべて、みもりがやったこと。
コマ送りするように、理性が心の奥にいるケモノに乗っ取られていた、当時の光景がありありと思い浮かんでは消えていく。
「私。あなたを目指したおかげで、こんなにも強くなれた。誰もかれもが屠れる力を得た。誰もが恐怖する力を得た」
「なんで……。そんなこと……」
「だって、カッコイイじゃん。人を暴力で支配して、恐怖させるものって」
――――私はそんなんじゃない。私はそんなんじゃない。私はそんなんじゃない。私は…。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
異変に気付き、少女は後ろへ飛び去り、一気に間合いを開ける。
みもりは、咆哮するや否や、女子力の気の塊を両の手で包んで作り出す。それは、幾重にも重なった黒い雷光が包まれていく。
「あら、ようやく本気になった?なら、とことんやりあおうよ!!」
その邪悪ともいえるべきツインテールの少女は、両腕に纏わらせた紫色の気を吐き出したまま、構える。
「ああああああああああああああああああああ!!!」
そして、みもりが溜めた気の塊を、少女に向けて打ち出した。その弾を少女は両腕で打ち消す。全身が揺れる。
「おっもたい!!さっすが悪魔ちゃん!でも、そうじゃなきゃツブしがいがないじゃない!」
ぶつかり合う獣と獣。混ざり合う、暴力と暴力の乱舞。みもりは理性を奪われたまま、その少女は感情の赴くまま、お互いを打ち砕かんとする。
周囲の空気がひりつく。お互いが一歩踏み込むごとに地が震え、木々がお互いを打ち合うたびにざわめく。危険だと、これ以上争ってはならないと。
黒い女子力の気と、紫色の女子力の気が混合する。
「キャハッ。もう、さいっこー!!!マジ、ブッとんじゃいそう!!」
「――――あなたを、コワす」
お互いが、お互いを拳で打ち抜こうとした瞬間。
一人は、羽交い絞めにされ、一人は、振り下ろそうとした腕をとられる。
「みもり!!どうしたの!?アンタらしくないよ!!」
「リーダー。お時間です。これ以上、お戯れを続けると、皆を待たせますし、何より美意識に欠けます」
みもりは、メイが抑え、ツインテールの少女は、男装の麗人というべき者が掴んでいた。
黒い女子力の気と、紫の女子力の気が引いていく。
「お預けってやつ?っちぇ、つまんなーい。まあ、いいか、会えたから。また会おうね、悪魔ちゃん。こんどこそ、あなたをツブすから。あそうだ。あなた達に、『お遊びの招待状』送るから、そのときよろしくぅ。じゃあねー」
嵐ともいうべき乱入者が去った。残ったのは、みもりと、メイ二人だけ。
「みもり……?」
「ごめん。メイちゃん、私……!!」
みもりは、涙を流していた。
――――expose‘burn out!!!’/RAISE A SUILEN を聞きながら




