太陽が真上で見える時にー③
「みもりー!元気デシタカー?相変わらず元気そうデース!!」
「えっと、あの、その、メイちゃん、なんで?!向こうにいるんじゃないの?!」
あまりにも早すぎる展開に、みもりはぐるぐると眼を回しそうになる。まさかとは思わないだろう。先ほどまで噂にしていた相手が今、目の前にいるのだ。それも、みもりの手をがっしりと握りしめて笑顔で。
「お、おい、ししょー。どういうことだ?!」
「いや、私も何が何だか!!」
「みもりのお友達デスカー?初めましてー。メイデース!!」
「てか、ししょー!知り合いだったのかよ!そうならそうといってくれればいいじゃねーか!」
「いや、ちょっと言いにくくて―。ごめーん!」
「何の話デスカー!水臭いデース!私も、混ぜてクダサーイ!」
「ナイスとぅミート、あれ、これであってるんだっけ!!」
「えっと、アイキャントスピークイングリッシュ!!じゃなかった。もっちん、メイちゃんは、えーと」
「オゥ、一度会ったからあなたとも仲良しデース!!」
なんだかもう、しっちゃかめっちゃかである。三者三葉といえる。みもりは、いきなり、会えないと思っていた旧友が現れ、元子はあこがれの人が目の前に現れ、メイは、メイでグイグイとみもり達へと迫ってくる。その忙しい様子に、残りの二人は。
「江梨華ちゃん……。外国の方ってあんなにグイグイ来るんだね」
「……ええ。……本場の、アメリカってものを感じられたわ……」2人も、圧巻されていた。
「2人とも、ストップ!いったん落ち着こう!!私も落ち着くからっ!」
みもりは、2人に両の手を広げ静止を掛ける。
「お、おう」
「What's?」
2人の視線をいっぺんにみもりは受けた。とりあえず、紹介しよう。双方のことを知っているのは私だけだと彼女は心に決めた。
「改めて、3人に紹介するね。こちらは、メイちゃん。メイエドワーズさん。海外で暮らしてる幼馴染になるのかな?で」
みもりは笑顔でメイに紹介した。
「こちらの皆が、私が高校からできたお友達!左から、阿賀坂元子さん。古賀榛名さん、湊橋江梨華さんだよ」
「WAO!!……よかった。本当に元のみもりに戻ったのね……」と、一瞬でも懐かしさと安心を織り交ぜたような表情をメイは見せた。
「?」
「こっちの話デース!みなさん、よろしくデース!仲良くしてネー!」
と、ふと一瞬見せたあの表情にみもりは気になりつつも、挨拶を重ねてわきあいあいとする4人を眺める。昔からみもりを見る時のメイの表情は、たまにそのような顔をしていた。いつもは、明るく楽しく朗らかな彼女だが、みもりを見る表情は、妹、姉をみて安心する……というような表情をふと覗かしていた。
それは無理もないだろう。みもりが、大変だったという、自分が自分でなくなったと思えていた中学生時代のあの時期にメイは何もできなかったのだ。それを経て、元気な姿を見せたとなれば、安心できるといえるだろう。
「そうデース。ヘイ、ミモリ!言いたいことがアリマシタッ!。夏休み中、師匠の家で暮らすことにナリマシタ!ヨロシクね~!」
「……へ?」
「おお」
「……あら」
「わぁ!」
みもりは、耳を疑う。今、なにか驚くべき様なことを聞いた気がした。先ほどのメイの口から。
師匠の家で暮らす。
「って、うそ!ホントに?!うちにいるの!?」
「ええ、そうだヨー!サプライズ!」
「うそーーーー!」
みもりは、思わずメイの両手を握りしめていた。ひと夏の思い出に予想外なスパイスが加えられたようだった。
***
メイが寝泊まることになる部屋にて、久しぶりに来た友人とみもりは向かいあって、談笑する。メイが泊まる部屋は、空き部屋となっていた場所で、極まれにお客人を泊めるために使用される部屋だ。めったに使われることはないので、そこにあてがわれることになった。空き部屋、とはいえ、当番制で未憂とみもりが掃除をしているためそこは抜かりはない。
タオルを肩にかけて、パジャマ姿のメイはお風呂上りでもあるためか少し艶めかしかった。
「しかし、いい子達だったよね。みもりも高校生活楽しくやってるんだなーって思った」
と、ショッピングモールでの、しゃべり方とは打って変わって、流ちょうなしゃべり方。もちろん、日本語である。
「うん、楽しくやってるよ。なんか、こんなに仲良くてしてもらって悪いなって思うぐらい」
「いいじゃん。仲がいいのであればそれでヨシ。ああ、なんか、もし楽しくしてなかったらどうしようとか心配して損しちゃった」
「あはは、心配してくれてありがとっ」
「それに、あの子達、綺麗な女子力の流れしてた。人より少し流れ強い感じだったけど、もしかして」
「え、いつの間に見てたの?はやいなぁ」
「ああ、もう癖ついちゃって、なんか覗き見たくなる」
「まあ、それはわかる気がするよ。うん、もっちん、りかちー……。元子さんと、江梨華さんは女子
力使いだよ」
「2人だけ?」
「うん、そうだけど。ハルちゃん……榛名さんは違うよ?」
「……。ふーん」と、両手を頭に添えて、メイは寝っ転がる。
「ねぇ、みもりは、その2人と戦ったの?」
「うん、戦っちゃった」
「勝てた?」
「うん、勝てた。それに、また別の子とも戦った。戦ったことに得るものがあったかといえばわからないんだけど、でも」
「でも?」
「それがあったからなのかわからないけど、戦った子達とその後、すっごく仲良くなった気がする」
メイは、起き上がりみもりを見る。微笑ましいというような表情だ。
「戦って、気持ちが伝わったってやつ?なんか、みもりらしいや」
みもりは、ちょっと照れたような顔をそむけた。
「ホントは、私的には女子力の戦いを経なくても仲良くなれたらいいなと思うんだけどね。ハルちゃんなんかは、そうなのに」
「それが出来たら一番いい。だけど、それが簡単に出来たら、苦労しないっつーの。ほんと、女子力使いという私たち、変に不器用だから」
「言えてる」
とみもりは、天井を見上げるように寝っ転がる。女子力使いは、暗黙の了解ってわけでもないが、力比べで気持ちを伝えたがる習性がある。それがあるからこそ、みもりの流派はむやみやたらに戦ってはいけないという不文律があるのだ。気持ちを伝えるなら、別の方法があるということを。
「てか、メイちゃん。あのしゃべり方は何?びっくりしたよ」
「いいでしょ!日本に来たらやろうと思ってた、キャラ付け!」
「あはは、墓穴掘っても知らないよー」
「そん時はそん時!」
ゆったりとした時間が流れる。彼女たちのひと時。
すると、みもりが気づいた時には、メイが直立不動で立っていた。目の前の親友を見つめて真剣な表情で。
「そうだ。みもり。お願いがあるんだけど」
「メイちゃんどうしたの?」
「久しぶりにさ。私と、組手やろうよ。再開した時、約束したあの場所で」
メイのまなざしは、静かな炎を燃やしていた。




