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幕間・2


「あら、トモエちゃんじゃな~い。ひとりなんて、珍しい~。どうしたの~?あ、もしかしてお茶のお誘い~?」


「そんな話なら、わざわざ生徒会室に来てまでは誘わん。一つ気になることがあってな」


 会長こと、土岐子が書類に目を通している作業の中、白い眼帯をした長身の生徒、佐嘉友江さがともえが現れた。先の集団ヒステリック事件こと、あの女子力による操り人形事件において、会長と戦った生徒である。みもりが、トラのような先輩と言わしめた、その人だ。


「えー、私はしっかり、生徒がのびのびと、学問や部活動等々学校生活できるよう、生徒会で一生懸命勤めてるのにぃ。風紀委員長として何か不安なの~?」


 相変わらず土岐子の飄々とし、ゆったりとした空気が流れる様をみて友江はため息をつく。


「いや、不満ではないが。しかしいつも、思うがホント、その緊張感でよく生徒会長を務めあげられるな……。いや、帰ってその方が大人物なリーダーらしい……か?」


「なーに?ほめてるのー?それとも嫌味でも、言いに来たの―?」


「どちらかと、言えば褒めてる。てか、そうではない」


 友江は、近くの椅子に腰かけ、会長を見据える。


「その、『生徒ののびのびとした生活』が脅かされるかもしれんのだぞ。『ヤツ』が動き始めたと聞いたが」


 土岐子は、一瞬ぴたっと手を止めるが、何事もなかったかのように手を動かし始めた。


「ええ、そうね~。それに関しては、目下情報収集アンド警戒中~。先生たちとも協力して生徒会も、ことにあたってるわ~。ああ、お茶が飲みたかったら、そこの棚にあるティーカップ使っていいわよ~。お湯は、湯沸かしポットにあるし、近くに紅茶のお茶っ葉あるから~。飲み終わったら、洗ってね~」


 と、カップがきれいに並べてられている棚を指さした。同じカップもあれば、生徒会のメンバーの物なのかいろいろな、デザインのカップやコップが並べられている。


「お前、生徒会室を私用に使いすぎじゃあないか……?」


「別にいいでしょー。まあ、規則スレスレだから、見逃してくれたら助かるけどね~」


「はぁ……。で、状況としてはどうなんだ?」


「幸い、うちの生徒には被害が及んではない。けれど、他校の生徒は巻き込まれたって話しあるわねぇ。前々から注意喚起あったでしょ~。部活終わったら、危ないからすぐ帰りなさいだとか、危ないところには近づかないでとかあるでしょ~。それって、その『例のあの人』関連の話~。ああ、ことが大きくなりそうなら、風紀委員の方にもお願い行くと思うから、その時はよろしくね~」


「気楽に言ってくれる……」


 と、友江は立ち上がり土岐子が指さしていた棚から、シンプルなデザインのコップとティーポットを取り出す。


「そんなこと言って、飲みたいんじゃない~」


「そんなに勧められたなら、無下にはできない」


「トモエちゃん、やっさし~い」


 土岐子のからかいに意も介さず、慣れた手つきでティーポッドにお茶っ葉をいれていく。その後、湯沸かしポッドからお湯を注ぐ。ティーポッドから紅茶の香りが、友江の鼻腔をくすぐる。彼女の癖になっている、張り詰めた緊張の糸がにわかに緩んだように見えた。そのまま、蒸らしていく。


「そんなに気になる~?」


 と、にやりとした表情で土岐子は、友江に顔を向ける。それに対して、友江は腕組みをする。さも自分の活動が、誇りに思っているといわんばかりに。


「当たり前だ。学び舎の風紀を乱すのは、中でも、外部であっても許さん。それに、『女子力』絡みなら、なおさら危険が及ぶからな」


「そうじゃなくて、あなたが『ヤツ』と言ってるあの子のこと」


 彼女たちが話す『ヤツ』と呼ばれる少女(・・)。いわゆる、警察に不良としてかなりマークされているだけでなく、女子力の関係者の間でも、危険人物として指定されている者である。


 そのものが、動いたとあれば、女子力関係者として動かざるを得ない。


「……。どこまで知ってるんだ……。まあ、縁を切った……とはいえ、気になるといえば否定はできんからな」


「どこまでって、噂レベルのものよ~。けれど、あなたが内申点に引っかかる部分まではかかわっていないことも知ってるから安心して」


「いらん濡れ衣着せられても、迷惑だからな」


 十分に蒸らした紅茶を、カップに注ぐ。友江は、一口飲む。ちょうど、ティータイムにはいい時間。夏の日差しは、まだ強い。だからこそのクーラーで涼みながら、紅茶を飲むのはちょっとばかし贅沢な気分になる。


 友江は、動いてほしくなかった昔馴染み(・・・・)の気がかりで生徒会室に来たにもかかわらず、こうリラックスした雰囲気になってしまうのは、目の前にいる、彼女の気に当てられたせいなのかと感じた。まあ、突っ込んだとしても、のらりくらりとかわしてしまう彼女の気質は、敵いっこないというのもあるかもしれない。


「ミルクや、お砂糖もあるわよ~」


「どこまで揃っているんだ……。とりあえず、こちらも、注意喚起と警戒をやっていればよいな。了解した」


 と、ガラガラと扉が開く。そこには、眼鏡の生徒が立っていた。生徒会の副会長こと、茅場沙智である。


「会長、頼まれたお仕事完了しました。ほかの生徒会のメンバーももう少ししたら来るそうです。ああ、佐嘉先輩もいらっしゃったのですね」


「おお茅場か。なあ、お前さえよければいつでも、風紀委員にきてもいいんだぞ」


「ええ、非常にありがたい話なのですが、会長がもう少ししっかりしてくれたら、考えます」


「うわぁ~ん~。いきなり、沙智に毒吐かれたわ~。あ、でも、逆に考えれば、私がだらけ続ければ、考えないってことね~。じゃあ、だらける~」


「というわけで、申し訳ないのですが、生徒会は離れないと思います」


「どうやら、そのようだな」ふふっと、友江は微笑んだ。


 夏は、まだ始まったばかりだが、何か一波乱が起きかねない空気が天女周辺に包まれていた。

――――3.A.Mディテクティブゲーム/霜月凛 を聞きながら。

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