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第1章.春の頃に―②

 私立天ヶ原女子高等学校。通称天女(てんじょ)。「てんにょ」ではなく「てんじょ」と読む。校訓は、「文武両道をもって心技体を高め、驕ることなく謙虚を是とし、淑女となれ」。


 元々お嬢様学校であるが、歴史の流れから、広く門戸があけられることとなり、古き良きお嬢様から、ごく普通な家庭で育った女子まで幅広く在籍する。本高校ではエスカレ―タ―式で上がってきた箱入り純正の生徒もいれば、試験を経て入学する生徒もいる。なお、ブレザ―の制服であり、かわいいということで女子の間でも、ポイントも高い。


 校風から言えば、『ちょいお嬢様学校』というイメ―ジ。理想の淑女を目指したいならココ! という感じで入学希望する者も多い。 みもりも、その口である。というよりも、尊敬している自身の叔母もここの出身とわかり、彼女のような淑女を目指せるのではないかと考え、この学校に入学したのである。まあ、勉強などで、がんばらないといけないことがあり多少は大変だったが。


 みもりはため息をついていた。


 クラスの担任の櫻野先生から、次の授業のための資料をもっていってほしい、とのことで頼まれたからだ。授業は数学。櫻野先生の担当教科。初日の授業で目が合ったからということで頼まれることになり、それ以降、授業の際には事あるごとに雑用を頼まれるようになった。数日過ぎて、周りから、櫻野先生係ともいわれる始末である。そのうち、「宮原さん、肩もんで~」とか言われるんじゃなかろうかとみもり自身も少し恐れていた。まあ、そんなことになったら、抵抗してみようと考えてはいる。


 現在、プリントの束を教室に持っていく最中。ふと、なんとなく気になり、窓から校庭を覗いてみる。外では、体育の準備のようで、思い思いの行動をしている。かたまって、お話していたり、芝生の上に座って、おとなしく待っていたり、中には、いても立ってもいられないのか、グラウンドを走り回っている生徒もいた。


 「あれじゃあ、授業始まる前にバテちゃうね」と、思わず小さく笑う。でも、どこか楽しそうに走っている姿に憧れる。あの様をよく聞く青春といえるのだろうか。私もああいう風に学校を楽しめるかなと思った。


ドンっ!


 「ああ!」と、みもりは前のめりになってプリント類をバラバラに落としてしまう。みもりは、ぶつかった相手の上履きの色により、上級生と確認し、「すいません! よそ見してしまいました!」とお辞儀し、慌てて拾う。


その後、相手も気づいたのか、ゆったりした声で、


「ああ、ごめんなさいね~。大丈夫だったかしら。私もぼ~っとしていたの。春のせいかしらね~。ごめんね~。拾うの手伝うわね~」


 と、手伝ってもらってしまう。みもりは、急いで見える範囲のプリント類を拾い、申し訳ないとおもいつつ「大丈夫です、先輩にお手を煩わせるのも……」という言葉が口から出かかるかかからないかのうちに、


「はい、どうぞ」


 と軽やかな声でさっきまで散らばった物が束となってみもり目の前に現れた。みもりも、周りを確認してみるが、落ちたものは見当たらない。


 ああ、先輩が、残り全部拾ってくれたのだ、申し訳ないなと思いつつ、

「すいません、本当にありがとうございました」


 と、受け取って立ち上がる。相手との視線が合った。


 一つも枝毛がないようなきれいなストレ―トで長く、これ以上にない美しい黒色の髪。日本人形を思わせるような、整った顔立ち。天使や、母を思わせる包み込むような微笑み。そこには、天女の現生徒会会長こと、水天宮土岐子の姿がそこにあった。お互いに数瞬の間が流れる。みもりを目の前にした彼女はほほえみから驚きを含んだ喜びの表情になっていた。


「あらあら~。あらあらまあまあ!」


彼女から出てきた言葉に、戸惑うみもり。彼女の反応をしってかしらずか、


「まあ! お久しぶりね(・・・・・)!」


 瞬間、みもりは、彼女の言葉に耳を疑った。目の前の彼女とは、初対面のはずだ。どこかで忘れていたのだろうか。いや、こんな目立つ綺麗な人なんか忘れるはずがない。

 

 とたん、一瞬フラッシュバックする光景。オレンジ色の橙色。自分へと立ち向かう2人の少女。


 ―――まさか、もしかして中学の頃……?


 と、体が震えだそうとする瞬間、彼女の矢継ぎ早に降りかかるトークのおかげで、現実に引き戻された。


「お元気だったかしら! うれしい! うちに入学してくださるなんて! 私の後輩になるのよね! あら、クラス何組? 生徒会入らない? 歓迎するわ! それとも、放課後お暇? それか、メッセ―ジアプリやってるかしら!」


 と、遠くから見た彼女のイメ―ジから、そぐわないセリフの数々。みもりも、打って変わって驚いてしまい開いた口が塞がらない。というよりも、最後のセリフなど、セリフを吐いた方の性別が違えば、ただのナンパなのだ。しかし、みもりは、驚きのあまり耳に入っていなかった。会長に関しては何があったか暴走気味。と、少しの間から、思い直したのか


「こほんっ」と件の生徒会会長はかわいくせき込みをした。今までのことはなかったかのように、表情を戻し、


「あ、取り乱してごめんなさいね。そうね。あなたからしてみれば、初めましてですものね~」


 みもりも、なんといえばよいのか、迷っていた。


「初めまして~。水天宮土岐子と申します。お会いできてうれしいわ」


と綺麗な所作でお辞儀をされる。


「えっと、あ……。ははは初めまして! み宮原……みもりととと……申します。いいい以後お見知りおきを」


 と勢いよくお辞儀をする。今の状況に頭の中がパ二クってしまい、どこぞのドラマで覚えたかのような言葉もでてきてもしまっている。


「ふふふ、宜しくね~」と、みもりの言葉に笑っている。会長につられて、恥ずかしがりつつもつられ笑い。この人は、はるちゃんが惚れてしまうのも無理もない人だ、と思った。


「宮原さんは学校楽しい?」


「え、えっと、友達とかできたり、毎日充実して楽しいです」


「そう、よかったわ~。もしかしたら、楽しくないかもと思ってね」


「え、そうなんですか?」


「うん、そう。新入生がここの学校になじんでくれるかどうか心配だったの~」


「あ、なるほどです。私は、まだちょっと、慣れませんが、頑張れる気がします。クラス内見ていても、馴染めてないという雰囲気はなさそうでした。っていっても、まだ一週間ですが」


 彼女も、ふふっと笑い、


「うん、そうみたいね。まあ、あなたを見ていて安心しました」


「はい!」といってみもりがチラッと時計を見る。あ、そろそろ授業だ。目の前の彼女も、それに気づいたのか、


「あ、そろそろ時間かしらね~。『今の』あなたとお話できてうれしかった。生徒会長として、あなたの入学を歓迎します。何かあれば、遠慮なさらず私に頼ってもいいのよ~」


「あ、ありがとうございます……」


 『今の』という言葉に違和感を覚えるが、すぐに消える。


「授業頑張ってね。」

「あ、はい。会長も」


「ええ♪」とお互いお辞儀をし、目的地へと向かう。


「あ、そうそう」と何を思ったのか、会長は、振り返り、「あなたに話しかけたこと、副会長に内緒ね~。またね~みもりん♪」


「み・みもりん?!」


 と、意外な方から、あだ名を承り驚いた。なにしろ、あの生徒会長直々のあだ名だ。榛名嬢に知られたら、どうなることかとも思いつつも、たった、10分間の休みだったが、どっと疲れてしまったみもりでもあった。


                ***


「あ、おかえり~」教室でほかの子と話していた榛名嬢は、プリントの束を運んでいたみもりに気づく。


「ただいま。はぁ、なんか疲れたよ」


「どうしたの? お、なんか、先生に肩もんでとか言われた? パワハラだよ。パワハラ」と榛名嬢と会話をしていたクラスの女子の小里さんも混ざる。


「いや、そんなことはなかったよ。まあ、たのまれそうで怖いけどね」


「ふふ、ありえそう」と榛名も朗らかに笑う。


「まあ……」っと、思い直す。さすがに、会長の話をしたら、さすがに榛名嬢から嫉妬されるに違いない。


「プリントの束がおもいのほか重くてね……」


「うわあ、重たいものを持たせるなんて、先生も横暴じゃん?」


「いやいや、先生忙しそうだったし、頼まれたなら、仕方ないよ」


「ああ~、うん、それもそうだね、あれ?」


「ん、どうしたの?」


 と榛名の視線の先が右肩の方に向かっていることに気づく。


「みもりちゃん、肩に糸くずついてるよ? とってあげるね」


 と肩に手を差し伸べ、つまむ。

「あ、ありがと」


 はるちゃん、さすが気が利くな―と思い、返答するや否や、榛名の方にも腕に糸くずがついてることに気づく。何これと思いつつも、


「ハルちゃんにも糸くずついてる、あ、小里さんもだ」とつまむ。


「サ―ンキュ♪」


「あ、ありがとう。どこでついたんだろう? きをつけなきゃだね」


 糸くずに、なにか引っかかる感じを覚える。朝の鏡の前ではなかったことは確認している。それに、ハルちゃんが飴を受け取った際、腕に糸くずなぞなかったことも確認している。どこかでついたのかなと思いつつも、それが付着するような状況は思い当たらない。みもりは、なんとなく変に感じながらも、チャイムにより考えはすぐに授業へと切り替わっていった。


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