水溜まりが広がりそうな空模様にて―⑩
「わっ!!とと……!無理無理無理、バランス崩れる崩れ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ああ、惜しかったねー。やはり、ちょっと拳に力配分、入りすぎかなー?」
「これでも、使ってないつもりなんだがなぁー!はぁ。しかし、スパッツ履いといてよかったー」
「……力みすぎなのよ……」
お昼休みの頃。彼女たちはいつもの学校の屋上にいる。天気は相変わらずどんよりしているものの、教室の中にいるのもなんだかじっとしていられず(江梨華を除いて)、雨が降っていなければということで屋上に来てみたのだった。江梨華は、乗り気でないながらも2人が何をするのかほんのちょっとばかり興味を持ったらしく、ついてきていたりもする。
ここまでの経緯と言えば、元子からみもりへ急に、「必殺技」を伝授してくれ!!とのことだった。もちろん、女子力を使った技である。
みもり自身、教えていいかどうか少し考え、彼女なら大丈夫だろうとのことで、女子力の気を利用した足技を教えることにする。
みもりが、2番目に習得をした技。『旋風飛翔脚』という名で、未憂に教えられたものである。まだ、真に教えられる立場ではないため、触り程度の部分を教える。
付き添いの江梨華は本が読めればどこでもよいようで、そばで座って本を読んでいるようだ。
「まず、女子力を足に集中させる。相手に向かって飛びこむ。ここで一気に攻撃として使う脚を回し
蹴りの要領で一回、もう片方の足で一回、最後に利き足で思いっきりフィニッシュで一回。私の場合は、飛んでから、右足、左足、右足で回すようにしているかな」
と、みもりが実演する。脚は、切り裂く竜巻のような3連撃で振るう。元子は、「おー」という言葉とともに、拍手をした。江梨華も、本からの視線をにみもりの方を移して、軽く拍手をする。
実際は、四連、五連と回し蹴りを繋げていく技ではあるが、みもりは許容量以上の女子力を消費してしまうためここまで。
彼女自身も久々にこの技を放った。実は少しキレが鈍ったか?と思っていたが、まだまだ、使うには問題がなさそうだ。まあ、あまり技を放つ状況に陥りたくはないが……。あり得るとしたら、次回。例の彼女ともう一度戦えるのなら。
元子の方を見れば、足先を上側に向けて、逆さで回転しながら上昇するというかなりな芸当を見せている。
屋上であるため、柵の外に出てしまわないだけでもひやひやものだ。そして、彼女なりの運動神経で、危ないながらも着地をする。どうやら、拳に女子力をためる癖が抜けないようで、なかなか難しいと見える。
屋上は彼女たちの練習場所だった。校庭で行うには、多少悪目立ちしてしまうからだ。かといって、屋上も人がいないところを見計らって教えている。人がいれば、そのままだべるだけであるため、そのまま3人の居場所となってしまった。みもりが教室にいなければ、次に探すのはここだといわれてしまっている。
元子は、もう一度、言われた通りの動作を行おうとする。あらら、また失敗。もう一度!今度も、拳に振り回されたようだ。失敗。みもりは、何度もめげずに行う彼女の姿が微笑ましくも思えた。
「もう一回!」
元子の、女子力の使い方に対する取り組み方は、目を見張るものがあった。別に喧嘩で使うわけではない。しかし、習得しようとする集中力や、意欲がみもりとは違う何かがあった。
その何かとは。
習得しようとする意志の固さ。失敗しても、めげずに挑戦する前向きな姿勢さ。そして、ものにしようとする心の強さ。
みもりは思い出したことがあった。
この前、元子と誓い合ったこと。それは、強くなるということ。そしてその強くなるというのは、『心』も、と考えたのではなかろうか。それは、あの獣、ひいては自分自身に負けないということ。そして美澪との戦いは、彼女に負ける以前に自分自身に負けてしまったということ。
----そうだ。誓ったではないか。強くなりたいんだと。そして、自分自身に勝ちたいんだと。
みもりとしては、わだかまりはその部分。自分自身に打ち勝っていたみもりが負けたのであれば、悔しいと思う分、全力が出し切れていたはずであり、すがすがしい戦いになったのだろう。
「やっぱり、そういうことだったんだ」みもりは自分に対して呟いた。
「もう一回!」
元子の掛け声とともにみもりも、真似して逆さで飛んでみる。まずはしゃがみ、飛んでみた瞬間に、腕で回るように意識、後は聞き足を中心に、逆さから昇るように回転していく。
右足に女子力が集中され、貫くように昇る!
元子は同じように失敗し着地。
登り切った後、みもりも、着地。
「なんだよー。ししょー。私の真似かよー」
「これだ」
「?」
「もっちん、これだよ!もう一度、もう一回!今度はさっきの失敗したとおりにやってみて!今度は、足で回らず拳で回るように意識して」
「逆さになる奴かぁ?」
元子は、今度は逆さになることを意識して、今度は、両腕を地面について、足ではなく腕から飛ぶ。そして拳を回す。そこは、真っすぐに上に伸びた右足を軸に、逆さのまま横に伸びた拳を大きく回し鋭く一回転、二回転、三回転と鋭く錐揉みで上昇する。
そこで、元子は体勢を整え今度はきれいに着地した。
「わぁ、すごい。こっちの方がいいよ!」
「なんだ……これ。全然イメージと違うけど、なんか、これはこれで技ができた気がする」
「うん。たぶん、もっちん。わたしの通りにやるんじゃなく、アレンジしたほうがもしかしたらいいかもね」
「かーなり、違うけれどな。でも、使える技が増えるのはうれしいけど」
「……あら、新しい技……になったのかしら……ね?」
「まあ、そうなっちゃったね」
「でも、私にとっちゃ教えてもらうのも、新技開発でも増えるに越したことはねーからなー」
にんまりとする、元子。
「……あら、……現金なこと……」
と、江梨華も少し口角を上げる。
みもりは、意を決して唐突に2人に問いた。
「そういえば、2人に聞きたかったことがあるんだけど……」
「ん?どした?」
「……何……?」
「もし、自分のせいで納得いかないことがあった場合、どうしたらいいのかな……?」
「お、珍しい」
「納得のいかないこと…ね……」
「納得いかないなら、とことんやる。けれども、どうしようもねーなら、無理やり納得するしかねーわな」
「やっぱ、そうなのかな……?」
みもりは、遠くを見つめる。曇り空は、いまだ晴れず。
「……でも、納得の方法って、……人それぞれよね……。本当に、どうしようもないのか、それとも……私なら……無理やり納得して突き詰めないかも……」
「まあ、私だったら、無理やり納得するってのはできねーけどな。何事も、あきらめずに納得するまでやり続ける」
「あなたは……そうでしょうね……。むしろ、あきらめることをしらないんじゃないかしら……」
「さすがに、あきらめるぐらいわかるわっ」
「……そうね。けれど、納得しないでそのままにしてしまうのは……、宮原さんらしくない……気がする……」
「だな」
みもりの中で、一つ決まった。あの時の挑まれた戦いはそのままにしてはいけない。何を悩んでいるんだ。やはり、会おう。お礼をしよう。そして、あの時の戦いが自分の中で納得できないのならば、リベンジをしよう。
完全に心は決まった。
「ねえ、2人にも私がやりたいことを聞いてほしいんだ。とある子に対して、自分がやらかしたこととやりたいことを」