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第1章.春の頃に―①

「行ってきます!」


 うららかな春の陽気で眠たくなるような朝。


 小鳥のさえずりがどこからか聞こえ、そろそろ暖かくなるだろうと思われる光景の中で、

一人の女子高生が玄関から、顔を出し足早に歩いて行った。遠くから、彼女の声に対しての返答のようなものも遠くから聞こえる。


 そろそろ、人々が準備を整え、自分のやるべき事を始めるための時間。


 「宮原みもり」はまだ、入学したばかりだった。


 新しい生活も始まっているからか、足取りもどこか軽い。肩にかかるかかからないかの黒いミディアムへア―の髪も、どこか楽しげに揺れていた。


 一週間はたったけれども、多少は高校生活の雰囲気にも慣れ、仲のいい友人もできたかなとも思えた。


 憧れだった高校生活。


 中学生のころは、自分の高校生活を全く想像できず、入学できることさえも不安であったが、すんなり入れてしまったのは、彼女自身も驚いている。まあ、一週間もたってしまえば、こっちのものだ。


 おとなしく、慎みを持って生活をしていこうと彼女は考えていた。


 彼女は歩きながら、自分の「力」を確認する。


 まずは、歩いている足を確認。必要最低限の「力」でコントロ―ルできていることを確かめる。その次は、両ふくらはぎ、太もも、腰から上半身にめがけて必要最低限の「力」でセ―ブされていることを確認。そこから、両腕、両手、同じくコントロ―ルできている。最後は、首、頭、力が循環できていることを理解しそして最後は目に多少「力」の出力をあげて、周りの人を観察。


 これが、彼女にとっての「女子力」を使うための、朝の日課だった。


 女子力! それは、ある特定の女性(またはごく一部の男性も少なからず存在する)が行使できる力の一つであり、この世界での特殊能力を意味をする。能力自体、使う人により千差万別であり、行使する物によって得意不得意も少なからず存在する。


 ある者は、自分の女子力を銃に形作り打ち出す能力を持つ者や、身体能力を上げる者、また、不思議な現象を作り出す能力なども存在している。過去には、『破壊すること』をそのものを能力として使用していたものもいたようだ。


 彼女、みもりも「女子力」の使い手だった。能力は「これといって特徴はない……かな? みんなが基本的にできることしかできないよ」と彼女は答えるだろう。実は、そう答える理由もあるのだが、それは彼女自身の問題だ。


 高校に向かいながら、遠くの道行く人を観察していく彼女。


 「あのお姉さんは……、手先に『力』が集中してる。細かい作業とか、裁縫とか得意そう。でも、指先に集中しちゃって、全体にうまくいきわたってないなぁ。冷え性かな?」もちろん、小声でつぶやいた。


「あの人は、足腰に力が集中してる。家にいるより、アクティブに外で回るのが好きなのかな?」


「あ、きれいなランニングフォ―ム……。ああ、走り方とか『女子力』の使い方、参考になりそう」


 みもりは、我ながら占い師かと思う。ある特定の部分を観察して、人となりを当てようとするところは、同じだ。自分でも、うさんくささを感じていた。しかし、今更やめられない。ほとんど、クセに近い。いろいろと、学べることがあるしと納得してたりもする。


 風が吹く。淡い桃色の花びらが舞う。そろそろ暖かくなるといえど、4月はまだ始まったばかり。彼女からしたら、まだ、肌寒かった。しかし、春なんだなとしみじみと感じていた。


 途端、一人のお年寄りの女性に目が行く。ゆっくりとした、足取りは老婆の歩んできた人生の答えとでも言えるようだ。


 だが、迫りくる状況は、お年寄りの歩調とはまったく異なるものだった。


「……!!!」


 老婆にめがけて、突っ込んでくる車両。


 すかさず、『観察』をやめ、みもりは足に力を篭め、飛ぶようにダッシュ。普通の人なら、間に合わないだろう。だが、彼女は違う。女子高生が走れないような速度を出す。これも『女子力』を身体能力に回した結果だ。走る! 走る! 走る!


 そして、手を伸ばす!


 車の運転手は目の前の老婆に気づく。慌ててブレ―キを踏むがもう間に合わない。ぶつかると思い、目をつぶってしまう。耳をつんざくブレ―キ音が響き渡る。

 彼は、恐る恐る目を開ける。どうか、無事でありますように。引いていませんように。せめて、引いた後数百メ―トル進んでいませんように!


 彼が、ゆっくりと瞼を開く。


「大丈夫でしたか? おばあちゃん?」


 間一髪で、みもりの手によって老婆が道路わきに引き戻されていた光景がそこには存在した。


 すかさず、彼はドアから飛び出した。


「申し訳ありません! お怪我はありませんでしたか!」

 

                      ***


 その後、みもりは運転手から、「あなたがいなければどうなったことか……本当にありがとうございます」とひどく感謝され、老婆から助けてくれたお礼にと持っていた飴を両手がふさがるほど頂いた。


 おばあちゃんといえば、飴を持っている物という謎の相場が決まってたりもするが、まさかもらえるとはとみもりも内心おどろく。一度は、みもりは遠慮したものの、それでは気が済まないと老婆に押され、今やその大量の飴は手のひらの上に収まっている。


「あはは、びっくりしたよ―。いきなり、みもりちゃんすごい勢いで走ってるんだもん」


「ほんとは、そのつもりはなかったんだけどね―。いてもたってもいられなくて。う―ん、恥ずかしい所見られちゃったな」


「でも、おばあちゃん無事でよかったよ。みもりちゃんの『力』のおかげだね」


「ま、よかったといえばよかったの……かな? あ、飴食べる?」


 みもりと仲良く談笑している同じくらいの少女は、古河榛名こがはるな。多少茶色がかった髪色で、二つに分けているお下げが似合う女の子だ。みもりとは、同じクラスであり、一番最初にうちとけ、友人となった。誰でも話しやすそうな雰囲気を持っている子で、今や、みもりが一番相談しやすい子である。


 『女子力』に関しても、彼女には話している。というより、みもり自体、隠し立てしているつもりはあんまりなかったのだが、校内で『女子力』を使用した際、目撃もされ、それから打ち明けている。どうやら、彼女の知り合いにも、『女子力使い』がいるとのことで、彼女自身は受け入れていた。『女子力使い』を嫌悪する人もいるらしいが、彼女はそうではなかったようだ。


 榛名は、お礼を言い、みもりの手のひらにある飴を一つつまんだ。みもりは、飴を外側のカバンのポケットにほおりこむ。こういう時に巾着袋の一つでも、持っていれば便利なんだけどなぁとも考える。そういえば、ネットでお菓子ポ―チの作り方なんて乗ってたっけ。まあ、飴なぞもらえるなんてめったにないのだが。


 榛名は、包み袋から破いて取り出し、飴を口の中にほおりこむ。いかにもおいしそうな表情。周りに、花が舞っているかのようだった。みもりも、彼女の表情を見て、ふふっと笑みがこぼれる。なにか、猫を見ているようだった。


「そういえば、『女子力』ていう力? ってみもりちゃんどうやってるの?」


「ホント、私もわからないんだよね。生まれた時から、使えてたから。どうやってるかというのは、なんていえばいいのかわからないんだよ。でもね」


「でも?」


「その力自体ね、『らしさ』っていうを忘れると力が弱くなっちゃうんだ」


「『らしさ』もしかして、態度とか、身だしなみみたいな?」


「うん、それもあるんだけど、そのほかにもお料理とか、お掃除とか、気配りとかいろいろと」


「うわあ、たいへんなんだねぇ」


「まあ、そういうの好きだからいいんだけど、気配りとか苦手かなぁ」


「そうなの? できてると思うけどなぁ。さっきのおばあちゃんとか」


「いやあ、あれはたまたま見かけただけだよ。気配りとか、そういう意味では、はるちゃんができてるからすごく尊敬する」


「ううん、私もまだまだだよ。全然気配りできてないよ~。あ、そうだ、みもりちゃんから今度お料理教えてもらおうかな」


「わたし、そんなに教えられるほど上手じゃないよ?」


「ううん。いいの。それで、みもりちゃんのご飯たべられたらいいなって」


「あり? もしかして、教えてもらうのではなく、食べる方が目的?」榛名の方をまじまじと見るみもり。


「あたり~」お下げ髪の少女は楽しそうに微笑んだ。


 『女子力』自体の『気』そのものの鍛え方は、料理や、掃除、手芸、気配り、身なりやメイクなどによって気が高まる。そこから、能力自体は、いろいろな方法で鍛えていくことで研ぎ澄まされていく。みもり自身、武道の先生である叔母からの手ほどきで女子力の使い方やその他、必要な方法を身に着けている。先ほどの女子力を観察するという方法は、叔母から教えてもらった鍛え方の一つだった。


 余談だが、みもりは体中にめぐる「力」の流れだとか、放出量など、先ほどの日課としてやっていた、「気をどう使っているか、または得意な事」を判別することができる。しかし、その人自身が、本当に「女子力使い」かと言えるかまでは、判別はできていない。基本的に、不思議な気の流れをしている人は、『女子力使い』であることが多いのだが、普通の生活している「女子力」の気の流れをしていても、『女子力使い』である場合もある。


 朝の学校のにぎやかさが聞こえてくる。部活動の朝練での掛声や、友達や、先輩、後輩にかける挨拶の声。朝での日常とも言えるこの騒がしさが、高校に来たことをみもりは実感する。たぶん、そのうち慣れてくるだろうが、今はこの実感が愛おしかった。今日も一日頑張ろう。よかったといえる一日にしよう。とみもりが思いをはせていたところ、


 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」突然の横にいる友人の叫び声のような、黄色い歓声のような声で、一気に現実に戻される


「は、はるちゃんどうしたの?」


「あ、あ、あ、あの方……!」と、榛名の指先の向こう側に視線をむけると、黒い長い綺麗な髪の美人、いうなれば大和撫子という言葉が似合う女性と、眼鏡をかけたちょっとク―ルそうな女性を見かける。


「あ―、あれは……。ああ、うちの学校の会長さんと副会長さんだよね」


「うん、そう! 朝、登校するお姿をみられるなんてなんて幸運なんだろ!」


 そういえば、この榛名さん、現会長に憧れてこの学校に入学したって言ってたっけ。元々、同じ学校で憧れの存在だったと聞いたな。と、さっきまでとは打って変わって、ミ―ハ―な姿の友人に多少たじろいでしまう。入学の理由など、千差万別だと思うが、憧れの先輩をおってきたというのは意外だった。


「えっと、会長の名前は……」


「水・天・宮・土・岐・子・様!」

 あ、そこは、様つけるんだね、ハルちゃん、とみもりは心の中で突っ込む。


「ああ、そっか。水天宮会長」


「そう! 土岐子様! 由緒正しい、名家の長女として生まれ、生まれてからの秀才で、一度も全ての成績を5以下も落としたこともない、そして運動神経抜群であり、なおかつ誰もが認めるプロポ―ションの良さ! 文武両道! 容姿端麗! 無味無臭! だけど、そのようなところをひけらかしたりせず、礼儀正しく先輩はもちろん後輩にもお優しくされる素晴らしいお方なんだよ!」みもりに知ってもらいたいかのように早口でまくし立てていた。途中、おかしな表現もあったが。


「そ、そうなんだね・・・隣が副会長だっけ?」


「そうそう。隣にいらっしゃるのが、副会長の茅場沙智さん。土岐子様の幼馴染にして、重要な右腕。生徒会においての、参謀役として土岐子様を常に支えているって聞くね」先ほどとは、打って変わって、落ち着いた感じで言葉を話していた。


「ああ、うん。そういえば、いつも一緒にいるところを見かける気がする……」


「ちなみに、噂なんだけど、あのお二方も『女子力使い』という話なの」


 あの二人も女子力使い……。と言われ、みもりは彼女らの顔をみて何か既視感を覚えた。いわゆる、デジャヴ。あれ、昔どこかで二人にあった……? と、思うもすぐにその考えはふりはらう。そもそも、デジャヴというのは脳の錯覚と言われており、勘違いから出てくることが多いと聞く。二人は、すでに入学式において生徒会長のあいさつなどで、顔を見ている。その時に思い浮かばなかったのは、そういうことなんだ、ただの勘違いなんだと内心言い聞かせた。


 と、その件の会長。気づいたのかこちらの方へ視線をむけ、微笑む。私たちが話していること気づかれたかな? と思案しているみもりの隣で、


 「あ、土岐子様が私に微笑んでくれた!」と、ミ―ハ―心を暴走している、榛名嬢の姿があった。

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