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第2章.葉桜が芽吹く間―⑨

 教室内の生徒たちが、徐々に自分の席からカバンをもって立ち始め、各々が放課後の予定をそろそろ始めようとするころ。


 みもりは、廊下で考え事をしながら、ゆっくりと歩む。


 生徒会長は、あの後、「私たちに任せてね」と、いわれるがままにみもりたちは引き下がった。


 今回の女子力の事件は、たぶん生徒会の責任として、事に当たるのだろう。危険なことは後輩にさせてあげられないということで、任せてくれとのことなのだが、何か歯がゆかった。このまま、正直に帰ってもいいのだろうか……。


 ふと、みもりは、窓から外を覗いてみる。光景からしてみれば、いつもの放課後だ。しかし、校庭にいる部活中の生徒達の声という声が切り取られている。誰も会話を発しているようにも見えず、黙々と。掛声もなく、部活をこなしていく様は、あの糸のなせる技なのか。しばし、ぼーっとこの景色を見てしまった。


 なんとなく、先ほど発した、「機械」という単語が思い浮かんだ。文字通り、感情もなくただ命令通りに動く機械。見た目だけ、生身の人間だけれども、中身をそのままマシンに入れ替わったように見えた。


 この静かな世界。これが、実行者の理想とした世界なのか。なぜこのような世界にしたのだろう。どうしてこのような世界を望んだのだろう。


 世界に何を望もうが、他のみんなが何を考えようが、それは人の勝手だ。みもりや、元子、生徒会の人たちがとやかく言える権利はない。


 しかし、この光景は、どこかのわからない誰かが望んだ形とはいえ、女子力を使って無理矢理(・・・・)、実現させたのだ。自分のワガママを人に女子力という形で押し付けたの結果が、このようなカタチなのだ。


「やっぱり、それって間違ってるよ……」


 自分の我儘エゴを押し通すためだけに、女子力を利用し他の人に危害を加える。なにも、人を物理的に傷つけるだけではない。人形のようにしてしまうのは、人の心に対する危害ではないだろうか。


――――私が出る幕ではないかもしれない。けれども、何かできるかな。


 おもむろに、窓を開ける。風がみもりの髪の毛を揺らす。下に見える木々の葉も、ゆったりと揺らしている。空を見れば、雲一つない空。春の陽気もここまでくれば、気持ちがいい。真剣な眼差しで、空を見つめる。何か、心を決めたようだった。


 遠くから、駆けるような足音がする。その足音は、みもりのちかくでキュッ止まり、


「ししょー。やっぱ、我慢できねぇ。私……!」


「うん、わかってる。たぶん、もっちんと同じこと考えてる……」


「え、もしかして……」


「このままじゃあ、なんか、気分悪いもんね。とりあえず、会長たち探しに行こ?」


「お……おう!」


「メッセージアプリで連絡してみるよ。でもたぶん、2階にいるはず」


「OK! いこーぜ!」


 みもりは開けっ放しだった窓を閉め、目前の彼女を見る。うん、いい顔だ。美人とかそういう意味ではなく、何かを決意した顔だ。何を言われても、解決に協力しようとする意志。みもりも、内心同じような顔ができてるのかなとも思えた。


 だけど、これが女子力であるならば、私はその人が自分のわがままのために使ったことだけは許せない。懲らしめてやろうとまではいかないけれど、でも、早く皆を元に戻したい。みもりはそう思った。


 ふと、廊下のかなり先にこちらと同じぐらいの早さで向かってくる、見慣れた姿があった。


「あれ…………?」


 私たちと、生徒会の二人を除いて、被害にあっていない生徒、江梨華だった。彼女自身、部活は入っていないことをみもりは知っている。と、みもり達に気づいているのか、気づいていないのか、足早に通り過ぎようとする。


 と、江梨華の小さな肩が、元子の腕に軽く接触した。


「ああ? なんだよ? お前」


 元子にとっては、初めて遭遇する女子。いや、もしかしたら、どこかで会っているのかもしれないが、記憶の片隅にもとどめることもなかったのかもしれない。


「……あら、ごめんなさいね。気づかなかったわ……ああ、宮原さんもいたのね」


 と、彼女もそっけなく答える。


 なかなかにない組み合わせ。2人とも、性格的には全くの正反対ともいえる。普通に考えるなら、江梨華が委縮しそうだ。しかし、元子の凄みに対して、ビビることなく冷静に返す江梨華も江梨華である。


「宮原さん。こういう子と、友達付き合いするのは勝手だけど、……見た目までは、マネ……しない……でね……。ダサいだけ……だわ」


「ああ!? なんだと!?」みもりも、まあまあ抑えてといった風に元子をたしなめた。初対面でのこのような険悪さは、副会長以来かもしれない。


「……個人的な感想を述べた……までよ……悪気はないわ……」


「言っていいことと、悪いことがあるだろが! 初対面にしては、えらく上等な(ヤロー)だな、おい」


「2人とも、おさえて押さえて。もっちんも、ここは私に免じて、ね。で、湊橋さんはこれから帰り?」


「いえ、ちょっと図書室に用があって……」


「あ、そっか。図書委員だもんね。その仕事?」


「……ううん。今日は、当番じゃないけれどもね……」


 みもりは、校内が危険であることを考え、ちょっとした提案をした。なんとなく、心配だったからだ。


「あ、じゃあ、図書室まで送ってこうか? 気休めだけど。ちょっとほら、校舎内いろいろと危ないっぽいし。って、図書室が安全かどうかは言えないんだけれど……」


「……」


 彼女の視線は、右上の方へと視線をあげて、考える様子である。


「……申し出は、ありがたいけれど……そこまでしなくとも……大丈夫……。それに、お連れの方が……不満そう……」


 恵里華は小さく元子へ指をさす。と、条件反射か、


「んな、つもりはねーよ!」


 と建前と本音の感情がまぜこぜになった返答をしていた。


「……そこまで心配せずとも……大丈夫よ。死ぬわけではないんだし……」


「…でも、ほら」みもりはなおも引かない。


「じゃあ、私は図書委員の仕事があるから……」


と、みもりの意見もむなしく、すたすたと歩いて行ってしまった。


「あいつが、あの、残ってる奴かよ。なんか、……どいつもこいつも、メガネはいけすかねぇな……」


「……わたしも遠くを見るときだけ、眼鏡してるよ」


「……そーいうことをいってるんじゃねーよ。ししょー」


「わかってるよ。ちゃかしてごめん。さて、行こう。会長たちに会いに」


 残された2人は、自分たちの考えを通すために歩き始める。


                  ***


「ほーら、やっぱり、私の言った通り来たじゃない」


 邂逅一番、土岐子はいつもの調子ではあるが、朗らかで、嬉しそうに相方の方へという。


 その相方といえば、眼鏡をクイッと上げてから、押し黙ったまま。怒っているのか、あきれているのか、みもりはその感情も読み取れないようだった。


「すいません。会長。出過ぎたことだとは思っています。ですが、私たちもこの女子力の使い方は間違っていると思うんです! ですので、許せないんです。だから、やっぱり、力及ばずだと思いますが、協力させてください!」


 ぐっと拳を握って、強いまなざしで訴える。


「ええ、もちろん。いいわよ」


「あれ?」


と、思ったよりもあっけなく許可が通ってしまった。ついさっき、彼女たちに「帰りなさい」といわれたばかりであるため、拒否されると思ったのだが、


「え、会長? いいんですか? そんなすんなり」あんまりにもな、会長の快諾に肩透かしを食らってしまったようだ。


「ええ。実はね、私も心配だったのよ~。最初、私たちのお願いで動いていたでしょ~。もしかしたら、生徒会だからだとか、先輩だから、とかでいやいや協力してたのかな~と思ってたの。ヤンキーちゃんは乗り気だったけれども、みもりんはどうなのかな、強制的にやらせてしまったのかもと思った。でも、あなたから、言ってくれるなら大歓迎よ~」


「あ、ありがとうございます」」


「それに、沙智は『出る幕ではない』といっただけで、『出るな』とは一言もいってないじゃない~?」


「…会長も、お人が悪い。ただの、詭弁きべんではないですか。まあ、いいでしょう」と、かの副会長から。


「うふふ、みもりんが協力してくれてうれしい。ええ、もちろん、ヤンキーちゃんも大歓迎~。2人が入って本当に心強いわ~」


「んで、これからどうっするっすか。先輩方」と、右の拳を左の手のひらで打ち付ける。


 みもりは、ブレザーの内ポケットをまさぐってみた。


「あった」


 出てきたのは白いリボン。これが、彼女が彼女自身にしている、おまじない。ジンクス。これを右の二の腕に巻き付ける。ここぞというとき、そして「女子力」が関わる場合、みもりがしていること。これを巻いて、何かに負けた、失敗したということは一度もない。


「はい、よろしくお願いします!」みもりは、自身に流れる女子力の気を確かめて。

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