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第2章.葉桜が芽吹く間―⑦

 指に熱の感触を確かめながら、目に力を集中させる。教室の扉の上の方から出ている幾重の赤い糸は、廊下の天井へと向かっている。廊下の天井の道に沿うようにまっすぐに伸びている。また、他の教室からの糸と合流し、上を見上げれば、巨大な赤い川を作っていた。その一本一本がすべて、この学校の先生と生徒につながっているのだろう。絡まずに済むのは、糸が物質ではなく、女子力だからこそなのだろうと感じていた。


 すべての教室から合わさり作られた巨大な川は、そのまま階段の方へと向かっている。たぶん、このまま向かっていけば、合流地点が見つかり、どこからつながっているのかわかるだろう。


 みもりは、糸から触ってくる感触に気づき、すぐさま、箱へと戻す。


「見た感じ、ほとんどの教室から廊下へと糸が続いている。それがすべて、階段の方へと向かってる感じ」


「そうなのか」


「とりあえず、上行ってみようか」


「おう、まさかだけど、誰か襲い掛かってこね―よな……」


「そんときは、おねがいね。もっちん!」


「おう、まかせろっ! って、ししょ―もイケるだろうっ!」


「そっちの方が、もっちんやりやすいかなと思って」


「どちらかといえば、そうだけどよ―」頭に両手をまわして、つぶやいた。


「私を打ち負かしたの、ししょ―じゃん」


「まあ、そうだけど……、とりあえず、ほらいこういこう。休み時間ギリギリまで」


「そういや……、サボっても、バレないんじゃ」


「あ―、次の時間は、あの岩倉先生の授業」


「……ああ、休み時間ギリギリまでな。影響を受けているとはいえ、ししょ―にサボらせるのはまずいな」


 岩倉先生とは、厳しいと評判の先生。意識を奪われているとはいえ、サボったとすれば、意識が回復後に何か言われるかもしれない。


 二人は、謎の暗黙の了解で、互いの意見を一致させた。


 とりあえず、二階を上がっていく。ちなみに、簡単に校舎の中を説明すると、一階は、一年生のクラスと理科室、保健室、用務員室、食堂などが配置されている。また、外側には、ボイラ―室に続く扉もある。


 2階には、資料室兼生徒会室、職員室、校長室、理事長室。PCの授業も存在するため、パソコン室なども併設されている。また、多目的に使われる部屋。放送室。そして、図書室がある。奥にいけば、体育館につながる廊下が存在する。


 3階は、3年生の教室と、家庭科室、音楽室など。


 4階には、2年生の教室と、美術室。ちなみに、部室は、校庭にあり、学校から校庭のトラックを挟んで向かい合わせの場所に存在している。


 2階に到着。通常は、他の階に比べて幾分か静かだが、それでも今までと比べたら、極端に『静寂』であると言える。


「川の流れはどうなってるかなっと」


 いつ見てもみもりは、この川の赤さにはなれない。さきほど、運命の赤い糸と例えても見たが、何か別のものにも思える。なんかこう、もっとおぞましいものに。体からつながっている管、赤い。なにか、見ていられなくなってしまうような気がした。


 たぶん、糸から触れられてくる女子力と同じで、常にみもりの周囲に広がる赤い糸から絶え間なくほとんどの先生や、生徒に、その『女子力』が送られ続けることであろう。そう思うと、何かこの赤い糸が常に心臓から送りだしていくような『血管』のように見えて、吐き気を覚えそうになる。


「見てると、気持ち悪くなりそう」


 喉の奥から、こみ上げてきそうになるものを我慢しつつ、2階の周囲を観察。階段の目の前の天井を見ると、他の階や同じ階からの川の流れが集まっていき、一つの大きな川に集まっていっている。


「1階の川の大きさと違うような……」


「とりあえず、他の階もいってみようぜ」


と3階に上がっていく元子。


「あ、まってよ!」


とすぐさま、ソーイングセットのケースに入れ、ついていこうとする。


 3階に上がったとたん、背筋が凍るような危機感を感じた。ちょうど目の前にすらっとした、背の高い女子高生が現れたのだ。身長は180を超えるだろう。長身の女性。一本にまとめた黒髪が長く垂れている。そしてもう一つの特徴といえば、市販用の白い眼帯をつけている。何かの病気なのだろうか。それとも趣味?


 いや、まさか趣味ということはないだろう。


 たぶんここにいるということは、おそらく3年生であろう。あまりにも先輩の威圧感にたじろいだ。


 なんというか、敵対した瞬間、圧倒的なパワーで粉砕されてしまいそうな気がした。いうなれば、みもりは、虎のイメージと重なる。ぬいぐるみのような愛くるしい感じではなく、狩りのためならば、獲物を鋭い爪で獲物を倒し、あの力強い顎と牙でいとも簡単に引きちぎるような、密林の王者そのもの。虎の狩りなど、動物衝撃映像などのテレビでしか見たことがなかったが、すさまじい勢いで狩りをしていたのは覚えている。なんとなく、目の前の人はそれを再現できるのではと考えてしまった。


 なんとなく、深々のお辞儀をしたら、相手は会釈で返してその場を後にしたようだ。先に駆け上がっていた、元子が向こうからこちらに戻ってくる。


「遅かったじゃねぇか。どしたん?」


「さっき、なんかとてつもなくすごい人見かけた。もしかして、あのひとも女子力使いなのかな……? 背のでっかい、眼帯付けた人見かけなかった?」


「おおきい、ってどのくらい?」


「もっちんより大きい、てか、誰よりも大きかった。たぶん、180以上あるんじゃないかな?」


「え、全然気づかなかった、見かけてないぜ」


「うそ、あんなに背がでかかったし、なんか虎っぽかった」


「虎?」と元子はちょっと吹きそうになる。


「うん、虎。それも、いかにもこっちを獲物として噛みつくかのような雰囲気」


「こわっ、女子力使い?」


「そこまではわからない……。あ、でも、会長なら知ってるかも」


「まあ、同学年でそんだけ目立てば、そうだろうな」


とりあえず、とっとと糸どうなってるか確認してみよーぜ。と元子は促してきたので、そだね。とみもりは応答した。


                ***


「……どう? ……手がかり……あった?」


 本当に、相手に聞こえるか聞こえないかわからないくらい小さく問うた。いつもの学校の騒がしさであるならば、吹き飛んでしまうぐらいの言葉。


 ガラガラっと、扉から入ってくるみもりに気づき、そして、そのまま江梨華の机の前を通る際、ふと、漏れた言葉だった。


 彼女は、急いで戻ってきたのか、小刻みに肩を上げ下げをしている。それもそのはず、時計を見ればもう、チャイムが鳴る一分前だった。江梨華は、返ってくるであろうみもりの反応には、特に気にせず、本の文字を追っているだけだった。そのまま彼女は通り過ぎるだろうぐらいにしか思っていなかった。しかし、


「あったよ。ホントにちょっとした手がかりだけだけどね」


 その言葉が、彼女の本の中の世界の『時』を一瞬でも止めてしまう。かすかに江梨華の表情がこわばったようだったが、みもりの目先は、多少上に向いたままのため、気づかない。やがては、その江梨華のかすかな変化も、いつも通りの表情に戻っていく。


「……そうなの」


この言葉はもうみもりには届いていない。彼女は、自分の席に座り、そしてまた学校のチャイムがなり、江梨華の言葉は、掻き消されていく。そのまま、江梨華はなんとなしに、顎に手を当て、もう片方の手で、何かを指ではじくような動作をした。

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