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第2章.葉桜が芽吹く間―⑤

 休み時間でさえも、この静けさは異常だった。誰も会話せず、次の授業の準備をするだけで、あとは一斉に机を見つめたまま。みもりは何度、これは夢だ、夢なんだと思ったことだろう。いざ、自分の頬をつねってみても、当たり前のように痛みを感じ、ここが現実なのだと痛感する。


 いっそのこと思いっきり、足の小指をぶつければとんでもない痛みで目覚めてしまうだろうと思考したが、数瞬で、


「いや、どんだけ馬鹿な考えをしてるの、私」


 とすぐ思いなおす。唯一会話のできる湊橋恵梨華も、相変わらず読書をしているだけで、こちらに興味を示すそぶりもない。あまりにも、いつもの教室に対して居づらさを感じ、逃げるかのように廊下に出る。


「あ、そういえば……」


 今までの状況で、パニックになっていたが、廊下に出たことで冷静になり始めたのか、別のクラスの友人の顔を思い出した。


 みもりは気になったので、元子のクラスへと向かっていく。違うクラスの子たちでも、同じように下を向いたままだ。元子といえば……。


「あれ、いない」


 彼女が日頃座っている机だけ、ぽっかりと空いていた。サボったのかなと思うが、よくよく見れば、カバンは机に引っかかっている。どうやら来ているらしい。


「……。あっ!」


 走らない程度で急ぐみもり。いないということは、たぶん! 


 元子には、お気に入りの場所が何か所かある。一つ目は、屋上。そして、二つ目が校庭の木陰。そして、もう一つが……。


「誰もしゃべんなくて気持ちわりぃ。なんだよこれ。なんかの女子力のせいなのかよ」


 いた! 3つ目のお気に入り。落ち込んだ時によく見かける、階段近くの窓側にある開けたスペ―ス。とても日当たりが良く、気持ちがいいとのことらしい。


「もっちん! よかったぁ! しゃべれる?! 元気? 下向いてない?」


「あれ?! ししょ―? 会話できたのかよ! なんで、声かけたのに返事しなかったんだよぉ!」


「あれ?! うそ、気づかなかった。いつ?」


「前の時間の10分休み」


「あ―。周りが静かすぎて、女子力の能力かどうかをずっと考えていて全然気づいてなかった……。あと、ハルちゃんに無視されてショックだったから」


「おお、モブ子もか。てか、ししょ―。そっちの方がショック大きいだろ」


 元子は怪訝な顔をして伺う。


「ん? ああ、まあね……」


 それほど、高校初めての友達からの拒否はショックが大きい。まあ、それでも、ハルちゃんだけでなく、学校全体であるため、何らかの能力のせいによるはず。と、みもりはそう思うことにしている。


「まあ、モブ子一人ならともかく、学校全体こんなんだろ? なら、別にモブ子自身が嫌がってるわけじゃねえと思うぜ」


「うん、てか、そう思いたい」


「だろ。で、だ。ししょ―。この静けさってどう思う?」


「わからない、というのが本音」


「おお、意外。女子力の仕業じゃないのか?」


「それもわからない。でも、たぶん、もっちんの言うとおり、女子力の仕業だと思えるんだけど……」


「あ、やっぱだよなぁ。これ」


「うん。だって、こんなありえないこと、それ以外考えられない」


「おお。まさか学校が仕組んだいたずらじゃなさそうだよな」


「はは、いや、壮大すぎるドッキリだよこれ。そうだとしたら、どんだけみんな演技うまいの……」


 みもりは、クラスの光景を思い浮かべる。皆、電池の切れたロボットのように下を向いている人、人、人。環境の音以外一切無くなってしまった空間。あれがすべて演技だというのなら、皆相当な役者だ。


「まあ、そっかぁ……。さすがにあり得ないか。あでもさ、例えば……、仕掛けたのがあのママン会長なら、案外ありえそうじゃね?」


「会長はさすがにそういうことするかな……? いや、案外面白がってするかも……? えまさか、女子力使ってこんないたずらを……?」


「そんなわけないでしょう~! ちょっと~、み~も~り~ん~! 私のことそういう風に見てたの~? 会長悲しいわ~」


 うしろから、特徴的なゆっくりとした声。


「ひゃぁ!!」


 みもりは驚いて後ろを振り返ると、ちょっと焦り顔の土岐子がそこに立っていた。


「おはろ~! みもりん~。それと、ヤンキ―ちゃん。よかった~おしゃべりできるようね!」


 土岐子会長は2人の無事を確認ができ、焦り顔から笑みに変わる。

「せ、生徒会長! おはようございます! というか、あれ、お話できるんですか!?」


「もちろんよ! なんか、私も影響を受けなかったようね~。それに影響を受けなかった人がもう一人いるわよ~」


 後ろから、ゆっくりと現れる茅場沙智。


 彼女の出現により、みもり、元子の両名は後ずさる。


「わかってはいましたが、やはり、そこまで引かれるとなれば、さすがに凹みますね」


「ほらぁ、結局そうなるじゃない~」


 クスクス笑う、会長。冷徹ともいえど、あの副会長もさすがに落ち込むらしい。


「ただ、あのときは釘を刺すぐらいのつもりでしたが」


「いつもやりすぎなのよ~。あなたは」


 2人のやり取りをしている間に、みもりは疑問が浮かんだので聞いてみる。


「あの~、すいません、なんで私達だけ、普通に会話できるんでしょう……?」


「……。ああ、だよな。そういや、先公も、授業以外は、全然しゃべらねぇでやんの」


「え? そうなの? 櫻野先生、普通にしゃべってたけど」


「は? あの先公すっげぇな……」


「そう、それを含めてなんだけど、私たちも調べているところなのよ~」


「女子力の能力の行使を疑っていますが、私たちも全く確証は得ていません」


「それに、これ女子力使い以外の人だけかかっているかなと思ったんだけど、どうやら違うらしいのよね~」


「え、私たちのほかにもいるんですか?!」


「ええ、いるわよ~。知ってる人でも何人かね~」


「ちなみに、会長と肩をならべる程の強さを持っている風紀委員長も影響を受けてますね」


「は? マジすか? やっべ、目をつけられたら、とんでもねぇじゃん……」


「あなたは、見た目ですでに対象になっていると聞いてますのでご心配なく」


 冗談とも本気ともとられない発言に元子は多少青くする。やはり、ショックらしい。さすがの元子も、体面は気にするようだ。むしろ、その本人はギャルを意識している雰囲気で目を付けられないという方が難しい。


「ま、まあ、なにはともかく私たちも何か情報がほしい所なの~もしよかったら、お二人にも協力してほしいかな~てね」


「協力ですか?!」


 とみもりは、隣からすぐ反対意見が出てくると思ったが、眼鏡の彼女からは黙したまま表情は何一つ変えなかった。すでに意思の疎通を2人でできているのか、その他の考えがあるのかわからない。


 元子に、ちらっとうかがうように視線を送る。一言、「任せる」とつぶやいた。


「協力します」


「よかった~。二人がくれば、百人力ね!」


「その前に、一つ伺います。まさかとは、思いますが、あなたたちの仕業ではないですよね?」


「そういう間違った女子力の使い方をするつもりはありません」


 これはみもりのはっきりとした意思表示。顔を上げしっかりと沙智を見据えている。


 元子もそれに続いてうなずく。


「でしょうね。そういうことをするようにはあなたたちからは見えませんでしたから。ですので、信じてますよ」


 最後の「信じてますよ」には、念を押すようにも聞こえてきた。まだ、多少は疑われているのかもしれない。それを晴らすためにも解決しなければならないとみもりは思えた。


「じゃ、そうと決まればさっそくメッセ―ジアプリやってるわよね~。グル―プ作りましょう!」


 土岐子は満面な笑みでスマホを取り出している。

 彼女は、この事件よりもグループチャットができる方が楽しんでいるように思えた。

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