(12)寂(さび)しさ
寂しさを紛らわすため、人が楽しい気分を味わいたくなる・・という感情の変化は仕方がないように思える。楽しい気分になることで寂しさを忘れ去る訳である。これはむろん、寂しさに限ったことではなく、辛いことや腹立たしいことが生じたときも当然、含まれるが、ここでは寂しさにポイントを絞って話を起こすことにしたい。寂しいのは嫌だっ! と思われる方は、テレビの楽しい演芸番組でも観ていて下されば、それでいい。^^
ここは、とある映画撮影所の現場である。映画監督がしきりと声を高める中、撮影が進んでいる。
「シーン16[じゅうろく]、カット2[ツゥー]っ! はいっ!! … ? カット、カット!! どうしたのっ? 主役はっ!!」
「はい。先生、『どうも、こういう寂しい感じのセットは嫌だ』と申されまして…」
「なにっ! それで来ていただけないのかっ?」
「はい…」
「…そう言われてもなぁ。仕方がないっ! 楽しい気分になるBGMを挟んでくれっ!」
「台本にはありませんが…」
「いいんだっ! 主演がいなきゃ撮りようがないじゃないかっ!」
「どんなやつをっ?」
助監督は、それとなく下手に出て訊ねた。
「君なら分かるだろっ!」
「はい…」
助監督が消え、しばらくすると賑やかで楽しいリズムのBGMが流れ出した。
『監督、こんな感じで、どうでしょ!?』
助監督の声が音楽のあと、空中を飛ぶ。
「馬鹿野郎!! 賑やか過ぎだっ! これは悲劇だぞっ!」
『しかし監督、悲劇に楽しい音楽ってのは…』
「あるだろうがっ!? … … ないか…。撤収!!」
監督はそう告げると、この日の撮影を断念した。
寂しさを消す楽しい音楽はあるが、悲劇に合った楽しい音楽はない・・という当たり前のお話である。^^
完