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此の眼に映る世界 ~異界の巫女姫と只人の僕~  作者: 寄辺無き者、泡沫人となりけり
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ep4. 少女との邂逅

過去の投稿もちょこちょこ編集を加えていますが、大まかな変化はありません。

 僕は咄嗟に右目を掌で覆い、もう一方に"映るもの"に集中して、思わず感嘆の声を上げる。


「なかなかどうしてすごいなこれはっ!!」


どうやら夢で観た場景(じょうけい)に相違ない。ここ最近は現実と夢との二重生活を送っていた為、良い意味で違和感無く受け入れる事が出来た。此処は集落の中心に位置する神殿であり、(しかいのぬし)はその内部にある祭壇前に立っていた。

正面には模造の瓦礫の山の中、剣を掲げる戦乙女のような肖像が一体あり、その傍には(うやうや)しく(かしず)く臣下達が配置されている。


 恐らくは異世界の英雄や神様の類なのだろう。こっちの世界に当て嵌めると、北欧神話に登場する半人半神の神ワルキューレ、またはワルキュリャか。意味は"戦死者を選ぶもの"。戦場で生きる者と死ぬ者を定めて、オーディンの治める死者の館ヴァルホルに連れて行く役割を担っており、来るべき終末戦争(ラグナロク)に備えて兵士エインヘリャルとする――といった内容だったと記憶している。

まあぶっちゃけて言うと神話や宗教、土着信仰なんてものは、時代とか場所が違うだけで全然変わるものだし、ましてや異世界となれば考えるだけ無駄なのかもしれないな。


 細部まで観察してみると、部分部分が変色したり欠けているところもある事から、随分と昔に作られたのが見て取れた。

以前僕が博物館に行った時に、かの有名なミケランジェロのダビデ像を見た事があるが、あれは500年以上前に作られた物だったと記憶している。それと比較しても明らかに肖像の劣化具合が進んでいるのだから、例え管理が杜撰だったとしても、より古い物だと推察出来るだろう。


 そんな祭壇には天井の隙間から降り注ぐ淡い光が相まって、より荘厳な雰囲気を醸し出していた。

正面には花や食べ物といった供え物が山のように捧げられており、大勢の信仰の対象だという事が分かる。


(あれっ? 今光ったか?? 嘘だろ、そんなはずない。石……だよな、ドッキリとかじゃないよな)


僕は肖像の眼を見て背筋が凍りつく。リアルさを極限まで追求されたであろうそれらは、シンプルに鉱物を削って象った物のようだが一瞬"目が合った"気がした。現実的に考えて有り得ないと思いつつも、圧倒的な存在感を内包しているようにも見受けられて、一つの言葉が脳裏に浮かぶ。

"生きている"と。

この表現が正しいかどうかは分からないが、今すぐ動き出したところで違和感が無いと思い、僕は無意識に身震いをしてしまう。


 然し乍ら視界の主は気付いていないのか、慣れた動作で一礼をすると踵を返し、迷う事なく祭壇を出ていく。

そして神殿を出たところで、多くの住民に歓声をもって出迎えられた。見渡す限り一面人の海である。どれくらいの人数が集まっているのか想像もつかない程に盛況だった。

最初に身内らしき人々が涙ながらに近寄ってきて、次にお偉方や護衛らしき人々、そして住民の順だった。彼らは思い思いに声を投げ掛け、また祈りを捧げてくる。

この喜びようからして豊穣祈願や予知といった、何か重要な儀式を成し遂げた後なのかもしれない。

まあこの辺は後々分析して判断するとして――今は群衆が遥か先まで長蛇の列をなしている意味を理解せねばならないな、この先を想像して引き攣るような笑いが漏れる。

案の定、三時間程拘束された後漸く解放されて、(しかいのぬし)は家に帰宅した。





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さて、ここで一つ疑問が出てくる。

現実問題"このような摩訶不思議な現象"が起こり得るだろうか。中途半端にラノベ知識がある所為で、(あたか)も当然のように受け入れているが、第三者が見れば確実に精神に異常を来しているだろう。

十中八九医者に掛かれば精神疾患と診断され、統合失調症の三つの内の一つの妄想型に分類されるはずだ。

これは破瓜型(解体型)や緊張型と違って発病年齢が遅く、多くは30歳前後に発病するのだから今の僕にぴったりと当て嵌まる。

加えて、症状も幻覚や妄想が中心で対人コミュニケーションは比較的良好、人柄の変化も目立たないなどといったところが疑わしく思えてしまうし、今や百人に一人が掛かる病気といった極めて身近な部分がより説得力を増してしまう。

だがしかし、僕は僕だ。自分の事は一番良く知っている。それだけは有り得ないのだと断言出来る。


(ははっ、それすらも妄想の中だったら笑えてくるな……)


そうではない事を証明する為に、僕は意思疎通を実現すべく、視界の主にある物を使って"あるサイン"を送る事にした。





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 (しかいのぬし)が帰宅後に部屋へと戻ると、早々にベッドの上に座り、大きく深呼吸をして手鏡を持った。映るのは僕の顔、そして視界の主の顔だ。

お互いに鏡を持つ事で、通常使用出来る眼と、"入れ替わっているであろう眼"を上手く使い、お互いの風貌を認識するという手段を試したのである。

その結果、左右で観え方が違うので視界酔しそうではあるものの、何とか認識しコミュニケーションを取る事が出来そうだった。


「おお、視界の高さとか役割からして何となく想定していたけれどやっぱり女の子か。やっぱりどの世界でも神事に男は向かんらしいね」


当初イメージしていた日本の巫女とは全然違って、一風変わった厳かな格好をしている女の子が映る。

服装的には中国とモンゴルを掛け合わせたような感じだろうか。

民族調の複雑な模様が掛かれた赤い帽子には、パールやルビーなどの宝石類を花のようにあしらうかの如く美しく彩られている。豪華の一言だ。更に下に垂れ下がるゴールドのチェーンと一際目立つイヤリングは、動く毎にゆらゆらと揺れて可愛らしさを演出していた。

薄茶色の髪はセンターで分けて帽子の中に収納されている。顔は綺麗に化粧を施されてあり、赤い口紅が白い肌に見事に映えていた。そしてなんと言っても目鼻立ちがくっきりとした彫りの深い美人であった。

服のイメージは中国古代宮廷風の漢服か唐装が近い。黒の襦(単衣)は襟ぐりが赤色で交差型の交領、自分からみて左の衽(おくみ)を右の上に重ねる着方は右衽と言ったか。そして赤色の腰帯と裙までは漢服通りだが、襟ぐりや袖、裾先には艶やかな金色の刺繍とファー付いていた。


 年齢的には中学生、十二~十四歳くらいだろう。幼いながらも凛とした眼差しをしている。悪くない、寧ろ有難い。

咄嗟にこちらの意図を汲み取れる程度には頭も回るし、所作も年齢相応に思えない事から、質の高い教育を受けたのが分かった。つまり実験するにはもってこいなはずだ。


「声は聞こえるか? 」


僕は問い掛ける。

それに対して相手も何か返答しているが、やはり声は聞こえなかった。恐らく"入れ替わっているのが眼だけ"だからだだろう。これが耳やその他の部位もあったら話が別なのだろうが、今現在は会話でのコミュニケーションは取れそうにない。

そもそも言葉自体が通じない可能性もあるので気にはしないでおこう。


 重要なのは鏡越しの僕の眼が右目が黒色、左目が金色になっていて、彼女の目がそれの逆だという事だ。

携帯電話のカメラで撮影する。すぐに初美に写真を送ってチェックして貰うと、やはり左右の色が違って見えるとの返事があった。

第三者の確認が取れたので、今起こっている現象を裏付ける証拠として充分に足ると考えていい。第一段階はクリアした。


 第二段階は保留。先に現状を把握する必要がある。どうして僕達の部分的な入れ替わりが起きたかだ、可能な限り詳細に分析しておけば今後の対策を講じられるだろう。何かを行ったから現象が起きる、何もしなければ何も起こらない。当然の帰結である。タイミング的に執り行う儀式の内容に鍵があるはずなのだが、身振り手振りでコミュニケーションを取ってみようと考えたものの、思った以上に壁が高いらしい。

全くと言って良い程伝わらない。ボディランゲージは勿論、手話や駄目元で読唇術を試しても通じなかった。こちらの世界の外国人よりも手強いとは……ただただ焦りが募り、無性に恥ずかしいという感情に支配される。

流石に表情でどんな気持ちなのかくらいは推察出来るが、そもそもこちらで使っているジェスチャーと向こうで使っているジェスチャーが根本的に違うのだろう。

僕はこのままではまずいと感じ、耳を指差し、次に相手と自分を指差し、親指と人差し指でくるっと回して見せた。


「み、み、を、こ、う、か、ん、し、ろ」


ゆっくりと僕は言う。

対して彼女は何かを言いかけて戸惑っているように見える。言いたい事は理解はしてくれたようだが、その所為でうるうるしてきて今にも泣き出しそうだ。

その表情は痛いのか、痛いのだろうな間違いなく。ひょっとしなくても気が狂う程の激痛が待っているのだろう。分かるぞ。眼が入れ替わる時も痛みに耐え切れずに気絶したのだから、芋虫のように地面をのた打ち回る未来が手に取るように分かる。出来るなら避けたいところだがこのままでは埒が明かないのも事実であった。

ふと失敗する事もあるのだろうかと疑問が浮かぶ。その場合失明や部位喪失で済むのか、最悪死んでしまうのではないだろうか。

そんな恐ろしい想像をしてしまうものの、敢えて考えないようにしておく。

多少の心配事があるとしても、この状況を打破するには一番手っ取り早いのだと僕は覚悟を決める。


「や、れ」


再度要望を伝えると、彼女も仕方なしに頷いた。


(気持ちは分かるがこの世の絶望みたいな顔をするなよ……あぁ、嫌だなぁ)


心配とは裏腹にそこからはとんとん拍子で進んでいった。

彼女は周囲の人々に手短に状況を伝えて慌ただしく準備を始める。その後、少数の護衛と共に神殿へ赴き、祭壇前で膝を折って祈り始めた。

そして凡そ五分くらい経ったところで僕達は激しい頭痛と耳鳴りに襲われ、全身が痙攣して力が入らなくなっていく。少しでも耐えるべく大声を出して堪えてみたが、健闘虚しく、やがて二人は気を失った。





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 更に五時間が経った頃、僕は目を覚ました。

指先が震える、歯ががたがたと音を立てる。視界は霞むし平衡感覚が危うい。これらはまだ身体が拒絶反応を示している証拠だろう。だが、それも馴染むと同時に収まるはずだ。

どうにかこうにか起き上がってベッドに腰掛けると、次に大きく深呼吸をし、身体に異常がないか動かしながら確認していく。


「首から下は特に異常無し、頭痛はまだ残っているけれど治りかけ。左目は観えず、右耳は聞こえず。あの子の意識がない間は機能しないという認識で良さそうだ。逆も然り。第二段階もクリアっと、あとは起きてからかね」


今が十七時。後四時間後にはバイト先に向かわなければいけないが、今日は止めた方が良さそうな気がしてきた。自慢ではないが体力に自信は無いし、途中に倒れるのが明らかである。行くだけ迷惑を掛けるだろう。

バイト先へ連絡し、店長に体調不良で休む事を伝えると、「代わりを見つけるから心配するな、お大事にな」と言われた。こういう時こそ普段の仕事に対する取り組みが明暗を分けるなと思う。

有難い限りだ。

取り敢えず、初美からメールやら着信やらが大量に来ているので、それを返しつつ時間を潰す事にした。





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――ティロリンッ


 この音は綾人さんからの着信音だ。初美は嬉しさのあまり携帯電話に飛びつく。

メールを開いて見ると、二枚のカラー写真が添付されており、どうやらそれら確認をして欲しいという内容らしかった。

下部にスクロールし、画像ファイルを選択して開くと、拡大された写真が表示される。


「あっ、綾人さんの眼だっ! 両方とも違う角度で映ってるっぽい。でも、左右で色が違ってるような……左が金色で右目が黒色でしょ。間違いない。カラコンかなー? 」


 どういう意図で聞いているのかが分からず、初美は暫し考え込む。何か困っているならやはり全力で手伝ってあげたい。

真面目な綾人さんの事だから、気分転換にカラコンをつけてその感想を聞きたいなんて事はないだろう。どう映っているのか、その客観的な事実だけを求められている。なんで、どうして。それが一体何に繋がるのか。少ない情報を咀嚼してはみるが全く分からない。

結局堂々巡りに陥ったので、要望通り見えたままを書く事にした。

送信すると、送ったそばから返信があり、簡素に「ありがとう、助かった」と一言だけあってやり取りは終了。たったの一行だけである。


(嘘っ、これだけ?! 味気なさすぎでしょーに、甘酸っぱい雰囲気はどこに?? もっと構ってくれたって良いじゃんねっ!! )


 本当はここから話を広げて病院の事とか色々相談をしたかったし、何よりもっと詳しい話を聞きたかった。

やっと心を開いてくれたのに何故と、その一心で大量のメールと着信履歴を残してしまう。

だが感情が先走り、やり過ぎだと気付いた時には後の祭りだった。後悔が募るばかりだ、一方的に都合を押し付ける私の姿はまさにストーカーの所業そのものである。


送った事実は取り消せないので、大人しく諦めて沙汰を待つ事にした。




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話を進めるペースが分からない。

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