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此の眼に映る世界 ~異界の巫女姫と只人の僕~  作者: 寄辺無き者、泡沫人となりけり
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いつかの何処かで

過去の投稿もちょこちょこ編集を加えていますが、大まかな変化はありません。

 存在しない何処か、光の差さない閉ざされた暗闇の中。

神、便宜上はそう呼ぼうか。人々から崇め奉られる"彼の存在"は思い悩んでいた。

原因は管理する世界の一つが自身の思惑から外れてしまい、大きく方向性を変えてしまったからだ。勿論今までそんな事は沢山あったし、悪い方へ舵を切るのも初めての事ではないが、修正が利くか危うい程の瀬戸際に立たされたのはそうそうない。


 これは忌々(ゆゆ)しき事態である。長い時間を掛けて漸く繁栄させたと言うのに、このままだと遠い未来、全人類を巻き込む大戦争が勃発するだろう。その戦争はありとあらゆる生物を巻き込んで拡大し、地上の生物の約七割が死滅する。そして奇跡的に生き残った数少ない人類は、文化文明が崩壊した世界に適応出来ずに淘汰されて消えていく運命なのだ。


 星自体を揺るがす程の致命的な破壊は陸海空を汚染し、更に多くの生物が連鎖絶滅する。演算結果によると、生態系のバランスが崩壊した世界では、再び生物が安全に暮らせる環境が整うまで果てしなく時間がかかると出た。少なくとも八~十億年は見積もる必要があろう。

その間強かに生き抜いて、次の世代の知的生命体として地上に出現する確率は決して高くない。

それこそ海の中に雑に電子機器のパーツを投げ込んで、それが偶然にも正しく組み上がるといった、神懸った難易度と言えば理解してもらえるはずだ。


 また、世界単体なら最悪仕様がないと切り捨てる事も出来たが、滅び方によっては別の世界へ波及する可能性があるので始末に負えない。例え僅かであってもだ。

とすれば、そうなる前にリスクを排除して彼らを保護するのが妥当である。


 未来を変え方は至ってシンプルで、末期に至る前に切っ掛けという小石(きせき)を投じる事である。もし仮にこの流れを梃入(てこい)れで変えられたとしたら、そこを起点に未来が幾重にも分岐して正常な世界へと戻っていく。逆に末期に至ってしまった時点でゲームオーバー、破滅の一途を辿る事になるのだ。


 故に神は選ばなくてはいけない。

揺るぎない意思を持つ者を、他者を惹きつけそして導ける者を、変革を(もたら)す者を。


右手を正面へ突き出すと、暗い空間にいくつものブラウザが起動されて、情報が解凍された順に表示されていく。凡人が見たら気を失うような果てしない物量が展開されるがそれを物ともしない。見逃さないよう一つ一つを吟味して目を通していく。

長い時間を掛けて、漸く神は条件に見合った魂を持つ者を探し出す事に成功した。そうして発掘されたのは五人。輪廻に待機中の魂も含めて、実に三兆四千百五十八億三千二百十一人の中から選び抜かれたエリートである。一人一人が異世界渡りに耐えうる魂の強度を持っているのは確認済みだ。

内容が内容だけに失敗は許されないので、悩んだ末、保険を掛ける意味でも全員を投入する事にした。


「愛しい我が子よ。済まない、本当に済まない。最早一刻の猶予も残されていないのだ。君等の当たり前にある人生は突然終わりを告げるだろう。しかしその尊い犠牲は忘れない。李 欣怡(リ シンイー)、|Noahノア Andersonアンダーソン、|Annaアンナ Ivanovイワノフ武 氏 明開(ヴー チ ミンカイ)、そして神崎 綾人(かんざき あやひと)。願わくば新しい世界で良き人生が歩める事を。この世界の未来を任せたぞ」

そう絞り出すように呟き、エンターキーを押した。


 さて、次の仕事だ。時間は有限であり、無駄に過ごしてはいられない。

今度は転生した彼らをバックアップする為にも、システムに介入して微調整を行う必要が出てくる。世界から必要分のリソースを確保し、成すべき事を成す為の力を与えねばならない。


「エルクエイド」

「はっ、こちらに」


神が呼ぶと一瞬にして背後に現れる人物がいた。

腰まで届きそうな白髪の男性だ、その肩には大きな白翼が生えている。天使と違ってその手の神聖さは無いものの、生に対して執着と言うか――野性味や荒々しさが感じられる。鳥に近い人型の種族と言えよう。

そんな彼は仰々しく跪いて、頭を垂れつつ指示を待つ。

そこには神に対して崇拝と絶対服従を感じさせる姿があった。


「ちょっと手伝え。確保したリソースの内、二十パーセントを与える。それをどう扱うかは一任するが、可能な限り最良の結果を導き出せ」

エウクルエイドは神に手渡されたデータを目の前に展開、参照しつつ、暫し読み耽り、

「承知致しました。困難な案件のようですがこの身に代えても遂行してみせます」と答えた。


要約すると『自分の裁量で行動し、世界を一つ救ってこい』である。通常ならばなんだそのふざけた指示はと一喝するところではあるが、ブラック企業顔負けの内容にも関わらず、エルクエイドが頷いたのには訳がある。


「頼んだぞ」

神は満足気に頷く。

続けて思い出したように「ああ、今回で五回目か」と呟いた。


「はい、五回目です。して、"約束"の報酬の方は? 」

エルクエイドが顔を上げて問い掛ける。


「分かっている。この件が片付けば叶えよう」

「有難うございます、必ずやご期待に沿えるように努力する所存です」


エルクエイドが立ち上がり、今後の行動計画を練るべく補助画面を展開し始めた。神はその姿を一瞥した後、同様に自分自身の作業を再開する事にした。



 その日、地球では本来生命の循環に戻る者達とは別に、"4人"の男女が命を落とした。

李 欣怡(リ シンイー)、心臓発作により死亡

|Noahノア Andersonアンダーソン、交通事故により死亡

|Annaアンナ Ivanovイワノフ、自爆テロに巻き込まれて死亡

武 氏 明開(ヴー チ ミンカイ)、強盗に殺害されて死亡

そして神崎 綾人(かんざき あやひと)はと言うと――



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始まり始まり。

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