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短編詩集Ⅱ

きのせいかしら【春の詩企画】

作者: 若松ユウ

実家の庭には

幹の中に子供が隠れられそうなほど

太く立派な八重桜が植えられていた


父も祖父も曾祖父も

はるか昔のご先祖様たちも

木漏れ日の下でお花見をしていたという


その八重桜も

今は古いアルバムのセピア色の写真でしか

その姿を拝むことが出来ない


高度成長期に入り

片側二車線に道路を拡張するため

我が家は庭を手放さざるを得なかったのだ


まだ幼かった私は

更地にすることを知らされず

工事のあいだは親戚の家に預けられていた


菫や蒲公英まで根こそぎ消えた悲しみと

大好きな遊び場を奪われた怒りで

しばらく両親たちと口をきかなかったことを覚えている


最近になって

バブル期から三十年近く勤めた市長が代替わりした途端

新市政は急速に緑化を進め始めた


実家の前の道路も

街路樹として染井吉野を植えることになったのだが

トラブルが重なったために工事は一時凍結されている


事故や事件が相次いだのは

きっと切られた八重桜が

小役人たちの身勝手さを恨んでいるからだ


気のせいかしら

いいえ

樹の精の仕業よ

本作は「春の詩企画」参加作品です。

企画の概要については下記URLをご覧ください。

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1423845/blogkey/2230859/(志茂塚ゆり様の活動報告)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 企画ご参加ありがとうございます。 掌編小説のようなリアリティがぐさりと心に刺さります。 人間様として奢ってはいまいか。 地表で資源を分け合う動物の一種であることを忘れていやしないか。 >…
[一言] 日々、当たり前のように切ったり植えたりされている植物たち。 悪いことだとは思いませんけれど、その意味はよく考えた方が良いのかもしれませんね。
2019/02/08 17:27 退会済み
管理
[一言] 洒落に乗せての痛烈な風刺 ともすれば、親父ギャグ的な結びですが、前段のバックストーリーが、単なるギャグに終わらない味を出しています 人間の目先の都合で、古きものが葬られ、その癖、懐古主義…
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