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裏方の勇者  作者: ゆき
水の都騒乱編
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鍛冶屋

教会によった翌日、杏華をつれてカサリの鍛冶場に向かう。

取り敢えず、偏屈な相手だから作ってくれないかもしれないという事だけは伝えておいた。

カサリに作って貰う算段ができなかったので、最悪の場合は勇者パワーでごり押す為に気合いをいれる。

否、そうやって何か他の事を考えていたかっただけなのかもしれない。

杏華の様子がどこかおかしい。もっと言うと、何故かしおらしいのだ。

普段なら勝手にズンズンと進んでいってしまうはずなのに、俺の一歩後ろに控えている。


「杏華、調子悪いのか?」

「だ、大丈夫ですわ。」


今朝会ったときからこんな調子だ。大丈夫だと言われても気になるのは仕方ない。

俺は杏華の顔を覗きこむ。こころなしか顔が赤い気がする。風邪気味なのだろうか?俺は熱を測るべく杏華の額に手を伸ばす。

すると、杏華は慌てた様子で一歩引き下がる。

・・・急に女性に触れようとするのはさすがに不躾だっただろうか。


「ごめん、驚かせたか。辛かったら言ってくれ。」


しかし、あれだけオーバーに飛び退かれるとちょっと傷つくな。

まぁ、そういう日なのかもしれないので深く追及するのはやめておこう。


「問題ありませんわ。・・・1日考えましたが、これはデー・・・いいえ、何でもありませんわ。さぁ!隼人さん、行きますわよ!」


途中、ボソボソ声で何と言っているかわからなかったが、後半からいつも通りのテンションに戻り、ヤケクソ気味に俺の腕を掴んで歩き出す。

普通ここは腕を組むところではないだろうか?腕を組んできて、主人公がドギマギするシーンが控えているはずである。主人公補正がないと荷物みたいになってしまうのか・・・。

もちろん杏華とそんなラブコメは期待していないが、掴まれた腕が痛い。ちょっと指がめり込んでませんか?

俺は杏華に引っ張られるままに、カサリの鍛冶屋に向かっていった。



無事にカサリの鍛冶屋に到着する。

杏華に掴まれた腕は、血が止まって指先がしびれている。しばらくしたら治るだろう。


「ここですわね。」

「あぁ。一見様お断りだから先に入るぞ。」


俺は扉を開けて先に店に入る。

相変わらず繁盛していない閑散とした店内に雑に置かれた中古の武器が投げ売られている。


「埃っぽいですわね。」

「男の職場っぽいだろ。工房はキレイだったから安心していいぞ。」


杏華の素直な感想に一応フォローを入れておく。カサリもこの店に思い入れはないだろうから必要なかったのかもしれない。

逆に工房をバカにしたらただでは帰れなさそうだが。


「おぉ、ハヤトか!まだ生きておったか。」

「確かにしばらく来てなかったが、ひどい言われようだな。依頼でムスぺリオスまで行ってきたんだ。これくらいはかかるだろ。」

「なんだ、隣の国に行っておったのか。」

「あぁ、とりあえず装備の点検と修理を頼む。」

「わかった。」


まずは、カサリに手甲を渡して自分の用事である装備の点検を依頼する。ここからが今日の本題だ。スムーズに事が運べばいいのだが、残念ながら何度シミュレーションしても断られるビジョンしか浮かんでこない。


「それと別件で仕事を頼みたいんだが良いか?」

「そっちのお嬢ちゃん絡みか?」

「あぁ。出来れば奥で話したい。」

「・・・あんまり一見さんを入れたくないんだが。仕方ない、ついてきな。」

「わかった。」

「わかりましたわ。」


俺達はカウンターを超えておくの工房へと進んでいく。

埃っぽい店内と違って、工房は道具や設計図が散らばっているものの掃除は行き届いている。乱雑に置かれているようで定位置なのだろう。整頓しようとして動かすと怒られる気がする。男の職場といった感じだ。


「・・・で、どんな仕事だ?そのお嬢ちゃんの装備を作ってくれってか?」

「紹介しようとしているんだから当たり前か。この子の武器を作ってくれ。この子は----」

「勇者パーティーの1人だろ。」

「良く知ってるな。」


意外だ。武器の事以外は興味なさそうだったんだが、予想外に世俗の事にも目を向けているらしい。


「何でハヤトが連れて来るかはわからんが、俺でも勇者パーティーくらい覚えてる。勇者の武器なんてわざわざ俺に特注を頼まなくても王宮にいくらでも在庫があるだろ。」

「それがそうでも無いんだ。合う武器が無かったから作ってくれ。具体的には、勇者がいた世界の武器を再現してほしい。」

「そいつはまた、えらく面白そうな話だな。・・・だが、断る。」

「何故ですの?」


黙って物珍しそうにキョロキョロと辺りを見まわしていた杏華が会話に参戦する。

予告はしていたが、やっぱり二つ返事で断られるのは気分が良くなかったらしい。言葉に若干の棘がある。


「悪いが、お嬢ちゃんは俺が気に入るようなモノを持っていないだろう。」

「な!わたくしが劣っているとおっしゃりたいのですか!」


カサリの一言に杏華が食いつく。目の前にカウンターがあったら両手でバンッと叩いていそうな勢いだ。


「ストップ。やっぱりそうなるか。杏華が勇者パーティーの一員だったとしてもダメか?」

「当たり前だ!俺は俺が気に入ったヤツの装備しか作らん。差別はしない。」


さすが典型的な頑固者。ある意味予想通りの展開である。


「そういうな。作るもんと内容を聞いてからでも遅くないだろ。もしかして出来ないのか?」

「バカモン!俺に限ってそんな事は無いわ!」

「そうか。だが杏華は既存の杖では真価を発揮できないだろう。合格する確率は低い。」

「隼人さん、わたくしは----」


杏華が何か言いかけたが、その言葉を手で遮る。

確率が低いといったが、正確にはほとんどゼロ。杏華が覚えている魔術は一般的なモノばかりで飛び抜けた何かがある訳ではない。

魔術行使に難がある為、応用的な技術を覚えるまでに至っていないから仕方ない。それに、発動に失敗でもしたら目も当てられない。

もし可能性があるならライフルを手にした時だ。順序が逆になるが、カサリに先に作らせなければ気に入られる事はないだろう。


「だから、賭けをしよう。」

「・・・賭けだと?」

「まず、作ってくれ。それを使って杏華のテストをする。合格なら貰っていくし、不合格ならカサリの好きにすればいい。むろん失敗しても金は全部こっちで持つ。」

「なるほどな。面白いが、設計図を見ん事には始まらんな。しょうもないモノを作らされたとあっちゃあ俺も面白くない。」

「そうだな設計図を見て決めてくれ。」


俺は杏華から設計図を受け取り、カサリに渡す。非常に精巧なパースと、所々に書かれた要点。隣には仕様と機能、注意事項などが箇条書きでびっしり書かれている。

カサリもそれを見て目を見開く。純粋な好奇心と興味だろうか、鍛冶をしている時のような真剣さがそこにはあった。


「・・・なるほど。勇者様の世界にはこんなモンがあるのか。」


一通り設計図に目を通したカサリが顔をあげる。


「もっと複雑だ。魔術用に必要な機能だけを取り出して簡易化してある。」

「・・・わかった。その賭け受けよう。」

「ただし、今言った本物の機構を教えてくれ。」


腐っても職人か。カサリは銃の機構を要求してくる。

まぁ、カサリならよっぽど悪いようにはしないだろう。この世界に存在しなかったものが出来ても、特別気に入った人にしか紹介すらしないような気がする。


「わかる範囲で良ければ構わん。」

「決定だ。作ってやろう!面白いものを見せないと合格にはしないからな。」

「杏華もそれでいいか?」

「構いませんわ。ご期待以上のモノをお見せしますわ。」


杏華も何とか作ってもらうに至った事で、テンションが高めになって余裕の表情である。マジで失敗しない事を切に願う。切に願う。


「とりあえず金はここに置いておく。足りないモノが在ったら言ってくれ、調達しよう。」

「わかった。」


話もまとまったので、俺達はカサリの鍛冶屋を後にした。

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