お茶会
帰ってきたという報告はゆっくりやっていこうと思っていたが、どんどん予定を詰められるので、仕方なく教会に向かう。
ディア達への報告は早くしておかないと怒られる可能性がある。後回しには出来ない。
俺としては金に余裕があるし、しばらく働かずに遊んでいようと思ったのだが、なかなか思うようにいかないものだ。
明日は杏華とカサリのところに行かなければならないし、ミレディのところにも行かなければならない。
カサリが杏華の武器を素直に作ってくれるかが怪しいので、作らせる画策も必要だ。最悪何も思い浮かばなかったら押し切ろう。
兎に角、どうやってスムーズにカサリに武器を作らせるかを考えながら教会にたどり着く。
慣れた足取りで礼拝堂に入りディアに祈りを捧げる。
祈れば会える神様とは、かなりお手軽な神様である。
この世界で俺だけだろうけど・・・
(マリエルを迎えに遣わせたので、ついてくるのですよ。)
(わかった。)
どうやらディアは降りてきているらしい。いつも通り、マリエルさんとお茶会でもしていたのだろう。
2人でお茶会をしているときにどんな話をするのか気になるところである。
気になるが聞きはしない。世の中には知らない方がいいことがある。女神と聖女がそんな黒い話をしているとは思えないが、知らない方がいいだろう。
そんなテキトーな想像にふけっていると、マリエルさんが到着する。
聖女様の登場に礼拝堂がざわつく。
久しぶりの感覚だが、やはりマリエルさん自体も聖女なので、普段は会えない人なのだろう。普通に案内役をさせられてるけど・・・
「ハヤト様、お久しぶりでございます。どうぞこちらに。」
「久しぶり、マリエルさん。」
マリエルさんの後ろについて教会の奥へと進んでいく。
「どうぞ。」
マリエルさんに案内されたさきには、ディアとフィーレが待っていた。
「フィーレも来てたんだ。」
「今呼んできたのですよ。」
「・・・・・・呼ばれた。」
「すみませんフィーレ様。すぐに紅茶を用意するのでございます。」
フィーレの存在を認識したマリエルさんが、慌ただしく動き出す。
よく見ると、確かにフィーレが座っている椅子の前にはティーカップが置かれていない。マリエルさんが俺を呼びに行っている時に、ディアはフィーレを呼んで来たらしい。
「あんまりマリエルさんを困らせるなよ。」
「ハヤト様は失礼なのですよ。私は、マリエルの紅茶を飲みながらお話をしているだけなのですよ。」
「その通りでございます。ディアーナ様に降臨して頂いてからの生活はたいへん充実しているのでございます。」
紅茶をいれて戻ってきたマリエルさんがディアのフォローをする。嘘をついている顔ではないので、本当に迷惑はかけていないらしい。
「だったらいいや。」
「ハヤト様は私への信仰が薄いのですよ。」
ディアは頬を膨らませてプイッとそっぽを向いてしまった。相変わらずそんな姿ですら絵になる。
「ごめんごめん。」
こうやって考えておけば、ちょっとは機嫌を治してくれるだろう。
「最後の余計なモノまで聞こえていますよ。」
・・・なん・・・だと
「すいませんでした。」
「わかれば良いのですよ。今度、ハヤト様の信仰をチェックしますので、覚悟しておくのですよ。」
ディアは妖艶な笑みでこちらをちらりと見る。
「今じゃないんだ。」
「はい。やっぱり雰囲気が大切なのですよ。」
「・・・そうか。まぁ何でもいいや。」
雰囲気が大切な信仰のチェックって何だよ。何やらされるかわからんが、ディアのやる事だから考えるだけ無駄だ。
無茶苦茶な事をするような女神様ではないし、ここはその時が来るのを大人しく待っていればいいだろう。
「・・・・・・何するの?」
今まで黙っていたフィーレがこの話の内容が気になったのか会話に参加する。
「フィーレにも秘密なのですよ。」
「・・・・・・ケチ。」
マリエルさんの方を向いてもわかっていないような顔をしているので、ここにいる誰もディアのやろうとしている事をわかっていないらしい。
本当に大丈夫なのだろうか?少し不安になってきた。
その後、ディアに信仰のチェックの話を聞いてみても、のらりくらりと返事をはぐらかすので、この話を深く聞く事が出来なかった。
そして、この時適当に何でもいいやと言ってしまった事を後悔することになる。
話がひと段落着いたところで、今回の俺のメインの目的であるお茶菓子を提供する。
ムスぺリオス王国で貰った王室献上品のお茶菓子をいくつかテーブルに並べる。まだまだ種類も数も豊富にあるが、小分けして出していこう。
結構な数を貰ったので、今後のお茶会で女神様方に献上していけばいいだろうし、全部出してしまっては食べきれないだろう。いや、もしかしたらディアならペロッといってしまうかもしれない。
紅茶しか置かれていなかったテーブルに、焼き菓子を中心としたお菓子の数々がいろどりを加える。
どれも王室に献上された超高級品である。いくらするか知らないが、金額のふり幅が異常なムスぺリオス王国の高級品であれば、焼き菓子一個で金貨が飛ぶと言われても驚かない。
ディアとマリエルさんは、明らかに高級そうなお菓子に喜びを隠しきれない。フィーレはいつも通りの無表情である。
それぞれが気になったお茶菓子に手を伸ばし、優雅な手つきで口へ運ぶ。口に入れた瞬間、頬が緩んで顔がほころぶ。
フィーレも心なしか手を動かすスピードが速い気がしないでもない。いや、気のせいかもしれない。
美味しいお茶菓子と紅茶で会話が弾み、すぐにお開きの時間になる。
「最後にフィーレに相談があるんだけど良いか?」
「・・・・・・何?」
「ループスが成長したのはいいんだが、大きくなりすぎて連れて歩けないんだ。何かいい方法はないか?」
「・・・・・・マジックアイテム。」
「そんな都合のいいマジックアイテムがあるのか?」
「・・・・・・ある。」
「探してみるよ。ありがとう。」
「・・・・・・これ」
フィーレはそういって魔石のような物を差し出してくる。六角柱の水晶のようだが、ダイヤのように輝いている。
「貰っていいのか?」
「・・・・・・お礼。」
「そうか、ありがとう。」
「・・・・・・ん。」
俺は差し出された魔石を受け取ってポケットにしまう。ループスの打開策がこの魔石にあるのだろう。フィーレは説明が足りないので後でちゃんと調べよてもらう事にする。
女神様達への用事も終わったので、俺は教会を後にした。




