ズレ
部屋に戻る途中で、雫に声をかける。
「ゴメン。フォローを頼む。」
「貸し1ね。」
「何で貸しを作りたがるんだよ。」
現金なヤツめ。
「返してくれるって解ってるからよ。アンタ意外と義理堅いし。」
意外ととか言うんじゃねーよ。普通に義理堅いわ。
「勝手に決められた事はやらんぞ。面倒臭い。」
「言ってみただけよ。私が年下の幼なじみのフォローをしないわけないじゃない。」
「確かに。」
めんどうみのいい雫が幼馴染のこの状況をほうっておくはずがない。わざわざフォローを頼んだこと自体が藪蛇だったか。
「それに、アンタのアフターケア能力に微塵も期待してないから、むしろやらないでね。余計にこじれて面倒だわ。」
「・・・はい」
言い過ぎだろ。ボロクソの評価じゃねーか、さすがに傷つくわ。
「フォローは私の方で何とかするから、解決策を考えてくれる?」
「OK。その為に杏華がいってた違和感について詳しく聞かないと始まらんのだが、問題ないか?」
「それも私がやるわ。アンタは聞いてて。」
「わかった。」
どうやら何もさせてくれないらしい。何もしない方がスムーズとか、戦力外どころか足引っ張ってるみたいで悲しいな。
ルーも杏華にすり寄って甘える様な仕草で慰めようとしている。俺は魔物以下なのか・・・
そして、部屋に着いて雫のフォローが始まる。杏華は泣いてこそいないものの、かなり気落ちしている様子で、出来ない理由を断言してしまったことが非常に悔やまれる。
元の世界でもこんな事ばっかりしてたから女子から告白されることが多かったんだろうな。
本人は迷惑してたが、これは惚れられても仕方ないだろう。
「まだ、魔術が上手く使えない理由が、隼人が言ってたことだとは決まってないから、少し真剣に探してみましょう。」
「でも、隼人さんに言われて違和感の正体に気付いたのですわ。意識しなければ気付かないズレですが、確かに撃つ瞬間と実際に魔術が発動する瞬間にタイムラグがありますわ。」
自覚さえしてしまえば気になってくるようで、杏華も過去を振り返って違和感の正体がそこであると理解したようだ。
「そのズレを治せば不発は無くなるかもしれないわね。焦らずゆっくり向き合っていきましょうか。」
「頑張りますわ。」
「気負いすぎちゃダメよ。杏華はたまにカラ回りすることがあるから。」
「わ、わかってますわ。」
「ならいいわ。こういう事は何かを切っ掛けにさらっと解決するものよ。意識して治しつつ、その時を待ちましょう。」
「わかりましたわ。」
杏華もだいぶ復活してきて、いつも通りの調子を取り戻しつつある。さすが雫、キャリアが違う。
俺は、杏華の助けとなる切っ掛けを考える。解決となる引き金となる出来事。引き金。
「1つ聞いても良いか?」
「良いですわ。」
「杏華の称号ってまだわからないのか?」
「・・・はい。まだ『???』のままですわ。」
「隼人、まさか関係あるって言いたいの?」
雫も話に参加してくる。調子の戻ってきた杏華のテンションを下げそうなひと言に雫は若干眉をひそめる。
「可能性はあるだろ。今解ってる称号は一通り調べたんだよな?」
「えぇ。辞典に載ってるものは全部違ったわ。」
「称号は杏華のユニークだろうな。それで今思いついたんだが、俺達がこの世界に召喚された時に才能を強化されて呼ばれてる。そして、この世界には杏華が部活でやってた銃が無い。」
「そうですわ。ライフルが無いのがいけないのですわ。」
「確かに見たことないわね。射撃部が使っているようなライフルがあれば、治るかもしれないわね。ただ、どうやって手にいれるの?存在しないわよ。」
そう、杏華は射撃部で、ライフルをやっている。雫と似たようなスキルの構成で称号が不明なのは、おそらくこの世界に狙撃手と呼ばれる存在が居ないからだろう。
「ないなら作れば良い。実弾を撃つわけじゃないから、形と引き金を引けば魔術が発動する機構を作れば良いだろ。」
「さらっと言うけど、誰が作るのよ。」
「心当たりはある。俺の手甲を作った人に聞いてみる。引き受けてくれるかはわからんけど。」
「取り敢えず、それは隼人にお願いするわ。私達は一応、別の方法を探してみるわ。」
「隼人さん。善は急げですわ。すぐにその方のところに行きますわよ。」
杏華は魔術の助けになるであろう物が手に入るという事でテンションが上がり、俺の手を取って外に向かおうとする。
「いやいや、もう夕方だから日を改めよう。明後日でどうだ?それまでに準備しておかないと。」
「何を準備するんですの?」
「説明しやすいように、絵があると良いな。後は重要なポイントを箇条書きにでもして渡せるようにしておこう。俺は詳しくないからその辺をまとめておいてくれ。」
「・・・わたくしが絵を描くのですか?」
「あぁ。一番詳しいだろ。」
「わかりましたわ。」
周りが『あちゃー』といった表情をしている。
・・・あれ?俺なにかやっちゃいましたか?
杏華が紙とペンを持ってライフルの絵を描く。
「で、出来ましたわ。」
「・・・!!これは、趣のある素晴らしい抽象画だな。芸術性は高い。」
「スケッチ画ですわ!無理に褒めようとしなくても良いですわ。」
・・・ライフルのスケッチだったんだ。
首をかしげても目を細めても、出来損ないのキリン?いや、キリン失礼だ。摩訶不思議な小学生がピカソの絵をまねて描いた様なライフルとも生物とも呼べない何かが描かれていた。
これはどう頑張ってもライフルには見えない。カサリに見せても余計混乱するだけだろう。
「・・・ごめん。」
「構いませんわ。なぜか評価されてしまう事には慣れておりますわ。」
杏華は、少し顔を赤くしながらフンッといった様子でそっぽを向く。
やはり芸術性は高かったらしい。
「僕が描くよ」
しびれを切らした光輝参加して来て絵を描いてくれることが決まった。
光輝はペンを取り、さらさらっと紙の上でペンを走らせる。よどみのない動きで数分と経たずに絵を完成させる。
非常にうまいスケッチが出来上がった。
「助かった。」
「妹のためだからね。」
「後はポイントをまとめておいてくれ。俺は鍛冶師に頼む算段を考えておく。」
「隼人さん。ありがとうございました。わたくし、頑張りますわ。」
「あぁ。これで治るといいな。」
「はい。」
杏華は俺に礼を言って笑顔になる。
「・・・むぅ。雫ちゃ~ん。私の杏華ちゃんが隼人に取られちゃった~」
隼人、杏華、光輝で話している中、少し離れてところで見ていた結衣が雫の服を掴んで涙目になって訴える。
「それ、本気で言ってるの?」
「そ~だよ~」
「まぁ、今は良いけど本当に取られるわよ。」
「取られてるんだよ~」
「・・・本当に自覚してないのね。」
雫は親友の頭を撫でて慰めつつ、誰にも見られないようにため息をついた。




