魔術講義
勇者会議も終わり、昼食をとってから先ほど言っていた魔術の講義の時間となった。
俺はフィーレに直接教えてもらっているので、一般的に習う魔術がどんなものなのかと資料を貰った。
俺の魔術は一般的ではないところがあるらしいので、違いについて知っておく必要がある。
適当に『初めての魔術』的な本を見せてくれと言ったら、本当に出てきた『ゴブリンでもわかる。初めての魔術~入門編~』ゴブリンが魔術を使い始めたら面倒だ。まぁ、異世界なりの冗談だろう。
パラパラと目を通してわかったことは、一般的な魔術は型にはまりすぎていて自由度が低いといったところだろうか。
火属性の魔術で例えるなら、基礎はファイヤーボールで、ファイヤーボールは10センチ程度の玉であると、答えが出てしまっている。
誰もが、その理想形を目指して魔術を行使するため、誰も小さくしようなんて考えず、自ら型にはまっていく。
本来の火の魔術は、火を操るものだというのに。
「大体解ったな・・・。」
その違いを教えれば、全員強くなるだろう。
俺の講義が始まって、勇者パーティーは『確かに』といった表情をする。
一番驚いていたのはアリア王女で、今までの固定観念が壊されてブツブツ何かを呟いていた。
「ハヤトさん。貴方に魔術を教えた先生にお会いできませんか?」
「・・・無理だ。」
「あなた一人の問題ではないのです。全世界で魔術に対する考えを改めなければならない状況なのですが、わかっておいでですか?」
「わかるが、出来ないものは出来ない。」
ディアが降臨しただけであれだけの騒ぎ様だったし、フィーレまで出てきたとなったらきっと面倒だろう。しかもフィーレの加護はかなり珍しいっぽいし、紹介したら確実に加護があるかを疑われる羽目になる。これは厄介事の香りしかしないので回避するほかない。
「それが、王族からの命令だとしてもですか?」
「・・・そうだ。」
そもそも教会に連れていっても、向こうが会ってくれる気が無ければ、ただ祈って終わりになるから俺にはどうしようもできない。
紹介すると言って紹介できなかったらそれこそ大問題だ。
「ま~ま~。2人とも落ち着いて~」
「そうですわ。隼人さんにも、きっと事情があるはずですわ。たぶん。・・・ありますわよね?」
「確かに、面倒事じゃなければ、ここまで否定しないわね。」
「事実かどうか、確認してからでも良いだろう。訓練場で試し撃ちをしようか。」
皆からのフォローがたったあと、光輝の一言に全員が頷いて、訓練場に場所を移す。
「そういえば、隼人のバレットってどうやって作ってるの?」
「あれは、ファイヤーボールを改良しただけだ。ファイヤーボール8発分を合成して圧縮形状を弾丸にして終わりだな。」
同じ魔術を複数展開する時、一個一個作るよりも、コピー&ペーストで1×2のn乗にして倍々ゲーム風に増やしていった方が効率がいい。
ファイヤーボールを10個展開するよりも、16個展開する方が楽なのである。魔力消費は変わらないので、増やせば増やす分だけ魔力のヘリが跳ね上がる訳だが。限界を知っていれば問題ないだろう。
「さらっと凄い事言うわね。」
「そうか?」
「ファイヤーボールを8発を10分の1以下の大きさにして形状まで変えるなんて、完全にアロー系の上位互換じゃない。」
「小さすぎて、ピンポイントで頭とか心臓を狙撃しないと効果ないけどな。」
精密なコントロールで作った上にさらに精密射撃を要求されるとか、コスパは良いけど高レベルの魔力コントロールのスキルの要求と大型の魔物には効かないというデメリットが存在する。
使いやすいが、若干使い所を選ぶ魔術である。
「それでもよ。私も練習しようかしら。」
「皆が同じ事し始めたら面白くないだろ。」
「別にバリエーション豊かじゃなくてもいいでしょ。」
「ダメだろ。」
「その考えは良く解らないわ。」
なぜ解らないのかが解らない。皆同じ攻撃してたらばえないだろ。
そんなこんなで、パーティーの多彩さについての話が終わり、訓練場に到着する。
みんな思い思いに魔術を発動して、先ほどの説明の真偽を確認していく。慣れてきたのか、途中から多彩な魔術が飛び交い始める。
雫は平然と俺のバレットをパクっていた。もちろん全属性で。本当にやめて欲しいものである。そもそもあの弓があるならバレット使わないだろう。
そんな雫を睨みつけていたら、いつの間にか隣に来ていた杏華から声がかかる。
「は、隼人さん、少し宜しいですか?」
「あぁ、どうした?」
「実はわたくし、魔術の発動に難がありまして。で、出来ればその、は、隼人さんに教えて頂きたいのですわ。」
杏華は、少し顔を赤くして、どうにも歯切れが悪い口調でお願いしてくる。
確かに墓地でも何度か不発の魔術を放っていたし、わりかしなんでもこなせる杏華としては魔術が使えない事が恥ずかしいのかもしれない。
俺にまで聞いてくるあたり、杏華の中でかなり切羽詰まっているのだろう。ここは真面目に対応しなければ可哀そうだ。
「良いけど、俺も教えるほど上手くないぞ?」
「構いませんわ。色々な方の意見をお聞きしたいのですわ。」
「わかった。力になれるかわからないが、出来る限りのことを教えよう。」
「あ、ありがとうございます。」
杏華は、花が咲いたように笑顔になってお礼を言ってくる。
普段は高飛車で、すました顔もクールで絵になるお嬢様だが、気を許した友人に向ける笑顔にはドキッとさせられるものがある。
今ここで向けられる意味が良く解らないのだが・・・
嫌われてなかったっけ?もう許してくれたのだろうか?よくわからん。
「とりあえず、魔術を使ってみてくれ。」
「わかりましたわ。」
そういって、杏華は俺に背を向けて的と対峙する。
魔力が高まり、魔術を発動しようとした瞬間に魔力が霧散して不発に終わる。
「あ、あまり真剣に見られると気になって集中出来ませんわ。」
教えるのに見るなとはこれいかに。
「まぁ、気にせずリラックスして何度かやってみてくれ。」
「は、はい。」
杏華は何度か魔術を行使し出来たり出来なかったりを繰り返した。
「ど、どうでしょうか?」
「解るような解らないような。タイミングがずれてる気がする。もう一回やってみてくれ。」
とりあえず、俺もフィーレに教えられて通りに教えるとしようか。杏華に近づいて、後ろから杏華の手を取る。
「・・・ッ!」
「あぁ、ごめん。嫌だろうけどこのままで。こうしないと魔力の動きが解らん。」
俺と杏華は、手を重ねて俺が後ろから抱きしめる様な格好になっている。フィーレは腹に手を回してきたが、今回はそこまでする必要は無いだろう。
「ひゃ、ひゃい!」
完全にテンパっている。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。俺もクラリス第二王女みたいに魔力を見れるようになりたいものである。
杏華は、俺に密着されていることもあって、魔術の発動に失敗した。今回ばかりは失敗してくれて助かった。おかげで何故失敗するのか理由がはっきりした。
「わかったぞ。」
「・・・へ?」
杏華は、色々と混乱しているようで、素っ頓狂な声を出す。
「何で魔術が発動しないか解った。」
「ほ、本当ですか?」
「あぁ。魔術を発動しようとするタイミングと実際に発動しているタイミングが合ってないから魔力が霧散してる。そこを治さないと、まぐれでしか発動できない。」
「・・・そうですか。確かに、今まで多少の違和感はありましたわ。しかし、治せるモノではありませんわよね。」
「何とも言えんな。」
「解りましたわ。」
杏華は自分でもいくつか当たりを付けていたようで、簡単に治るものではないと肩を落としてしまった。
皆テンションの下がった杏華を見て、連発していた魔術を止めて杏華をはげましつつ部屋に戻る事にした。
誤字報告ありがとうございます。
最近は見直しが雑なので、誤字で読みにくかったら申し訳ないです。




