招集
後日、破壊された町並みの修復にめどがたち、騒がしさも落ち着き始めたあたりで、先の戦いの立役者達が王宮に召集された。
すぐさま断ったのだが、雫と杏華に引っ張られて無理矢理連れ出される。
雫はいつもの事だから解るんだが、何で杏華まで意気揚々と引っ張っていくんだろうか?
・・・そうか!杏華は重度のブラコンだから、兄をキズ付けた俺が許せないんだ。つまり、怒りがおさまるまで俺への攻撃は止むことはない。
この一件が終わればまた別行動になるだろう。ひとまずそれまで辛抱しながら、今後の対策を練ろう。
王宮に到着し、待合室に通される。
すでに集まっていたのは、勇者パーティーとパトリックとリリィさん。
部屋に入ったところで、大層苛立った様子のアリア王女が近づいてきた。
「ハヤトさん、大事なお話があります。」
「・・・はい」
こうも凄まれると、萎縮して身体が勝手に正座してしまうのは仕方ないことだろう。
「騎士の報告によりますと、召集状をそのまま突っ返したそうですね。」
「・・・すいません。」
「王族の招集は絶対です。今回は無理やり連れてきたので何とかなりましたが、普通は無視すれば首が飛びますよ。」
「・・・以後、気を付けます。」
レックスとマキナが来るまで、ガミガミとアリア王女に怒られた。
先に来たのはマキナ?で、SF映画で出てきそうな金属で出来た美少女ゴーレムが入ってくる。
どうやら本体はずっとシェルターに居るらしく、ゴーレムでの登城らしい。良いのか?それで。
ゴーレムはこういった場に出てくる用の物らしく、戦闘力はない代わりに、挙動はなめらかで、視覚や声も完璧にリンクさせてるらしい。
料理からダンスまで何でもできる社交用の美少女ゴーレム。一家に一台は欲しいな。AIは搭載されていないみたいだけど。そもそもAIという概念が無いし・・・。
ゴーレムは一通り挨拶して回ってくる。
「先日、共闘したマキナです。以後お見知りおきを。」
「隼人だよろしく。」
戦闘時のゴーレムのような、カタコトの声ではなく、電話の様にすらすらと声が聞こえてきた。ゴーレム技術半端ないな。
最後に勇者パーティーの方へ行って談笑に加わっていた。時おり光輝と話している途中で、挙動が乱れるのは何が起きているのだろうか?おそらく欠陥ではないだろうから、コントロールしている側がバグっているのだろう。
まぁ、関係無い事だけど、光輝が変なのに目つけられたような気がしないでもない。
最後にレックス。
待合室に入るなり、こちらに向かって寄ってくる。必要以上に近く感じる。レックスは、身長も筋肉もその他もろもろも、色々とデカすぎて遠近法が誤作動を起こしているようだ。近い。3歩くらい後ろにさがりたい。
「おぉ!しなやかな筋肉!この間は自己紹介も出来なかったからな!俺はレックスだ!」
非常に暑苦しい。心なしか室温が上がったような錯覚に陥る。
「隼人だ。暑いから話しかけないでくれ。」
「そう言うな!筋肉ハヤト!俺達と一緒に筋肉を肥大させる気はないか!?」
そう言ってレックスはポージングを取る。登城という事で正装をしているが、その正装が筋肉の肥大でパンパンになってミチミチいってる。
今すぐ止めて欲しい。
こんな変態だが、最後に放ったレックスのフルパワーのパンチがアンデッドロードの頭蓋骨にヒビを入れていたのを見逃さなかった。
あの硬い骨に純粋な攻撃力でヒビ入れるとか相当な化け物である。きっと筋肉以外にバグってるステータスがあるのだろう。あると言って欲しい。ある事を切に願う。
招集を受けた全員がそろった。残念ながら、ロレイは既に旅出った後らしい。おそらくわかっていて逃げたのだろう。ロレイとは仲良くなれそうだ。
謁見の準備が整ったようで、騎士に案内されて謁見の間へと足を踏み入れる。
アルカディア王国とは微妙に違う謁見の間の装飾、周りを囲む騎士と前に立ち並ぶ重臣達。そして、高い所にある誰も座っていない玉座を眺める。
謁見の作法なんて知らないので、見よう見まねで周りに合わせて膝を突き、首を垂れる。
国王陛下が入場して来て、謁見が始まる。
「面をあげよ。」
国王陛下の声で、顔をあげる。国王陛下の周りにいる重臣達との面識はないが、王族は1度大会会場で会っているので、多少は気が楽だ。
特に面白い事も無く、謁見は順調に進み、全員が報酬をもらって終了した。
報酬は大金貨5枚。きっと見ているだろうし、ディアへのお土産のグレードをレベルアップさせなければいけない。
そして、最後に国王が衝撃の一言を言い放つ。
「勇者コウキ殿には、魔王討伐の特別報酬として、第一王女をやろうと思うのだが、いかがかな?」
その言葉に、勇者パーティーどころか謁見の間の全員がどよめいた。
「お、お待ちください国王陛下。貴族でもない者と婚姻を結ばせるのはいかがなものかと。」
重臣の1人が異議を唱える。
「勇者であれば問題なかろう。それとも、他に適任がおるとでも?」
「ウグッ、王女殿下は自分よりも強い者と条件を課していたはずです。それはどうなるのでしょうか?」
「私は構いません。むしろ・・・それに、先の戦いで私たちが苦戦していた化け物をまとめて屠れる実力を示していただきました。それにかなうとは到底思えません。」
「そう・・・ですか。」
弱々しく食らいつくも、アレクシア王女本人からの負けを認める様な発言にうなだれる。その際に、アレクシア王女がチラチラと光輝の方を見ていた。
きっと光輝が助けた時にときめいてしまったのだろう。
「お待ちください。良い雰囲気になっておりますが、私も勇者様と婚約しております。それを差し置いて話を進められても困ります。」
重臣の次はアリア王女が止めにかかる。
というか、アリア王女との婚約も初めて聞いたんですけど。びっくりして光輝を見ると、何とも言えない表情をしていて、雫も微妙な表情で額に手を当てていた。
あれ?大人の階段を上ったようには見えないな。
「しかし、我々の調べでは、保留状態で止まっているはずなのだが。」
「うっ・・・確かに。まだ、いい返事はいただいておりませんが、であればアレクシア王女も同じ事です。勇者様からちゃんとした返答が無ければ婚約は成立しません。」
国王な反論にアリア王女が言葉を詰まらせる。
婚約は嘘ですかい。
「ではそうしようか。アレクシア、勇者コウキを射止めよ。」
「ど、努力します。」
どうやらアリア王女はムスぺリオス国王の手のひらの上で踊らされたらしい。
「何だ覇気が無い。そんなんでは逃げられてしまうぞ。」
「はい。」
こうして、無事に光輝の婚約者候補が2人になった。




