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裏方の勇者  作者: ゆき
武闘大会編
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運だけの男2

だんだん身体の痺れがとれてきたので、ゆっくりと立ち上がる。

不死の魔王が消えた闘技場は雨が上がり、雲も散って光が覗き始める。

人々を絶望の淵に追いやっていた魔王が倒された現実と光指す幻想的な光景に、理解が追い付かず、若干の静寂が訪れていた。そして、いち早く現実に戻った人の歓声によって全員が現実に戻ってくる。

一変して会場は割れんばかりの歓声と拍手に包まれる。光輝をたたえる声があちらこちらから聞こえ、光輝もそれに手を振って応える。


「片付いたみたいだね。」


いつの間にか光輝の隣にロレイが現れて光輝に話しかける。


「今まで何をしていたんだい?」

「ボクにも色々あってね。ハイゼンベルク公爵の裏切りについて調べてたんだ。依頼主はほぼ確信してたから、タイミングを合わせてサクッとヤってきたよ。その後、騎士に連行されたけど。」

「それは助かったよ。実は、騎士を向かわせたのは僕でね。上手くいったか心配していたんだ。」

「余計なことしてくれたね。」

「最終的には騎士に引き渡す予定だったんだろう?手間が省けたと思って納得してくれ。」

「・・・仕方ない。そういうことにしておくよ。帰りにキミ以外の勇者パーティーの皆と外の化け物も全部片付けたから、そろそろ皆戻ってくるんじゃないのかな?」


ロレイがそう言いつつ会場の入り口を指さすと、結衣・雫・杏華・ループスが息を切らしながら入ってきた。


・・・ループスのサイズが一回り大きくなったような気がしないでもない。化け物との戦いで何かあったのだろうか?

ロレイは再会に気を使ったのか、話し終わってそそくさと退散していった。

俺と光輝は皆と合流し、起きた事を報告し合う。

どうやらループスは化け物との戦いでも相手を食いちぎり、さらにパワーアップしてしまったようだ。雫が食べるのを止めたようだが、聞いてくれなかったらしい。

サイズ的には体高2m程度だろうか、母親と同じくらいの大きさまで成長してしまった気がする。

そろそろ乗れないだろうか?移動が非常に楽になると思うのだが・・・



報告と雑談に花を咲かせていると、大会のスタッフ達が慌ただしく動き出し、ステージに落ちている瓦礫をどけてヒビを修復していく。


『ここでお知らせがございます。たかだか魔王が攻めてきた程度で大会を中止にはしません。』


突然、会場内に放送が入る。

マジで?まだやるの?


『その魔王程度に放送席を離れたのは誰だったか?』


ケガをしていた第一王女も戻ってきて解説のポジションにつく。


『さすがに魔王の戦闘を実況できませんよ。アレクシア王女殿下こそお怪我は大丈夫ですか?』

『先ほど治して貰ったから大丈夫だ。』

『逞しいですね。ロレイ選手も到着しましたし、アデル選手の治療が終わり次第、大会を再開しますので、少々お待ちください。』

『実は魔王が襲撃してきた事によって審判の失格のコールがまだされていなくてな。せっかくならやってしまおうとお達しが出た。』

『名解説ですね。うやむやなのは消化不良ですし、もう少しなのでやってしまいましょう。』


客にケガ人も出ているし、中止した方が良い気がするのだが、どうやらこの国はそんな常識が通用しないらしい。

国を挙げて脳筋なんじゃないだろうか?



会場内にいると邪魔そうなので、皆で一緒にVIP席に戻る。と思ったら、VIPを通り越してロイヤル席まで連れて来られてしまった。

王族たちの前で申し訳ない限りだが、結衣に頼んで治療してもらう。呪いと自滅でズタズタの身体は歩くだけでも相当きつかった。


「隼人~こんなケガでよく歩いてるね~」

「まぁ、立ってるだけでも痛かったな。」

「足折れてるよ~」

「マジか。あと、外傷の無い場所に激痛が走ってんだけどなんとかして。」

「無理かも~呪いの解呪は難しいから~」

「・・・結衣なら出来る。」

「しょ~がないな~」


結衣は何度も俺に解呪の魔術をかけて、なんとか痛みを抑える事に成功した。

そんな2人にとってはいつも通りのやりとりを、杏華自身ではこっそりと見ていたつもりだったのだが、周りからは何かしたのかと首をかしげたくなるほどの勢いでガン見していた。




そんなロイヤルルームをよそに、五回戦第二試合が始まる。


『さて、両選手揃ったところで、五回戦第二試合を開始します。』

『第一試合が両者失格になってしまったので、これが実質の決勝になってしまうのが惜しいな。』

『そうですね。順位は繰り上げになるのでしょうか?』

『であろうな。ここで優勝と準優勝が決定する。三位四位は不在になるのが妥当だろう。』


放送を聞いて、状況を全くつかめていないロレイが、首をかしげながらアデルに問いかける。


「・・・ボクは会場にいなかったんだけど、第一試合は両者失格だったの?」

「はい。何故かお二人とも会場に現れず、時間がたってしまったので、失格になってしまいました。」

「・・・・・・」

「ロレイさんには胸を借りるつもりで挑みたいと思います。」

「・・・そうだね」

「よろしくお願いします。」


話も終わり、審判が手を振り上げる。


「それでは、始め!」


アデルがすぐさま先制で動き出す。


「はぁぁぁあぁぁぁ!」


一気に距離を詰め、気合の入った上段からの振り下ろし。

ロレイはそれを後方へ跳んで余裕で躱す。否、躱したというよりも跳び下がった。

大きすぎる跳躍は、ステージの外まで跳んで行ってしまい、ロレイは場外に着地する。


「・・・へ?」


アデルは信じられない状況に変な声が漏れる。


「しまった。あまりの凄まじい気迫に押されて、場外まで飛ばされてしまった。(棒)」


『ロレイ選手、場外です。よって、アデル選手の優勝です!ロレイ選手を飛ばすほどの凄まじい気迫でした。』

『いや、ロレイ殿がわざと飛び降りたように---』

『アレクシア王女殿下ぁ、合わせて下さいよぅ。私だって信じたくないんだすよぅ。』

『う、うむ。素晴らしい気迫だった。あれに押されたら場外もやむおえない気がしないでも無い事も無いかもしれなくないな。』


司会に押されて第一王女もノるが、だんだんと自信を無くして言葉が尻すぼみになっていった。

演技下手かよ。


「先ほどの死闘が無ければ、ここまでではなかったのに。おのれ魔王!(棒)」

「・・・え、えっと。」


なおもひどい演技を続けるロレイ。


『・・・なんと、ロレイ選手は先の戦いで、人知れず死闘を繰り広げていたようです。さすがSランク冒険者です。しかし戦いは非情!どれだけ傷ついていても、考慮されません。』

『ま、満身創痍であれば、この結果も仕方ないだろう。この悔しさをバネに、来年また挑戦して欲しい。』

『優勝はアデル選手、準優勝はロレイ選手に決定しました!』


ムスぺリオス最大の大会は、すごく酷い感じに終わりを迎える事となった。

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