アンデッドロード2
アンデッドロードの4本腕が中途半端に復活し、空中を縦横無尽に飛び廻る。浮いた腕は魔術の砲台として機能していて、遠くに飛ばしては後ろから魔術の攻撃をしてきたり、振り回して直接攻撃をしてきたりと遠距離攻撃までして来るようになってしまった。
腕自体はそこまで強くないが、漆黒の剣は当たると厄介なので全力で回避する。
弱点といえば、遠くに離れると力が弱くなることだろうか。簡単に弾き飛ばす事が出来る。
まぁ、すぐに拾われるのでイタチゴッコにしかならないのだが・・・
「パトリック、あの腕まとめて凍らせれないか?」
「やってみる価値はありそうだね。2つをまとめてくれ、地面に縫い付ける。」
「わかった。」
「わかりました。」
俺とリリィさんが同時に動く、宙を舞う腕を掴み取り、パトリックのいる方へ投げる。リリィさんも腕を弾き、同じ場所に落下した。
「凍れ」
パトリックがアンデッドロードの腕を氷の中に閉じ込め、使えなくする。
「作戦通りだな。」
厄介な腕は無くなった。後は本体を仕留めるだけだ。
「そうでもないよ。気を抜いたら割られそうだ。この腕は僕が押さえるから後は頼む。」
パトリックが氷を割られないように必死で強化する。
「・・・リリィさん、2人でなんとかしようか。」
「そうだな」
必死そうなパトリックをいちべつし、アンデッドロードに向き直る。
「こざかしいマネをしてくれますね。こういうのはいかがでしょうか?カースレイン。」
アンデッドロードは腕を挙げて魔術を放つ。
漆黒の雲が闘技場を包み、ポツポツと雨が降り始める。
「・・・ッ」
雨の当たった場所がやけに痛い。先ほどのような腕が弾けるような事は無いが、皮膚が炎症を起こしたように爛れ始める。
会場全体から悲鳴が上がり、戦っている騎士や冒険者たちも、雨の当たらない屋根の下に逃げ始める。
「クックック。腐蝕の雨ですか、これは運がイイですね。」
どうやら呪いの攻撃はランダムらしい。おそらく漆黒の剣もどんな効果が表れるかは判らなかったのだろう。それなら、あまり使いたがらないのも頷ける。
ランダムでも、アンデッドロードが運がいいと言う効果が出ているのはこちらとしては最悪だ。
纏いや身体強化でガードしていても、雨の当たるところから肌がボロボロになっていく。
パトリックが氷の屋根を作ったが、すぐに穴が開き意味をなさなくなる。おそらく闘技場の屋根も壊れるのは時間の問題だろう。
早々に倒すか雨を止めないと不味い。しかし、この状況で片を付けるのは困難だと言えるだろう。
「ライトシールド」
あまり大きい声ではなかったが、光輝の声が会場に響き渡る。
オーロラのような半透明に輝く光の屋根が会場全体を覆い、雨の脅威が一瞬にして無くなった。
属性の相性なのか、光の膜は腐蝕されずに雨を完璧にガードできている。
雨はひとまずなんとかなったものの、おそらく莫大な魔力を使っているであろう光輝の残りの魔力が尽きる前に倒さなければいけない。時間がない状況なのは変わらないな。
「待たせたね。化け物は全部片付いたよ。」
光輝が横に立ち、声をかけてくる。
「シールドは大丈夫なのか?」
「魔力がどんどん減っていっているけど、このタイミングで押しきった方がいいと思ってね。」
「・・・もっと早く来いよ。まぁ、パトリックも戦える状態じゃないし、2人ではしんどかったところだが。一撃で仕留めるぞ。」
「素直じゃないね。それで、出来るのかい?」
「やるんだよ。トドメの浄化は頼んだ。最強の一撃を頼む。リリィさんは伝言を頼む。」
光輝の一撃を当てるための作戦を軽く説明する。正直作戦自体に不安要素が多すぎるが、ダメ元でもやるしかない。
「わかったよ。」
「わかりました。」
俺と光輝が同時に構えて、アンデッドロードを睨みつけ、リリィさんは走り出す。
「作戦会議は終わりましたか?」
アンデッドロードは待っていたと言わんばかりの態度で話しかけてくる。
「別に待ってくれなくてもよかったんだが。」
「寝言は寝てから言ってくださいね!」
どうやら本気でアンデッドロードに嫌われたらしい。口を開けばイライラされる。魔王に嫌われるとか願ったりかなったりなんだけど。
俺とアンデッドロードは同時に動き出す。漆黒の剣を回避し、アンデッドロードとインファイトを繰り広げる。アンデッドロードも近距離戦闘の不利を悟って必死に距離を取り、離れては魔術をぶつけあう。
漆黒の剣を回避すること自体は難しくないのだが、光輝に向かって飛んでいくモノは体を張って止めに行った。
光輝の詠唱を邪魔させるわけにはいかない。漆黒の剣が何発も当たり、体のどこかから血が噴き出し、骨が折れ、外傷もなく激痛が走る。
限界が迫ってきたところで、リリィさんが戻ってきてアンデッドロードに攻撃を入れる。
「ハヤト殿!」
リリィさんはレイピアで連撃しつつ俺にアイコンタクトを飛ばす。
「ドコを見ているのですか?」
リリィさんがよそ見をした隙を突き、アンデッドロードはリリィさんの頭を掴んで、地面に叩きつける。
「お前もだ。」
俺は一気にアンデッドロードに近づき、崩拳を叩きつける。
何度もアンデッドロードに触れてきたので、どのくらいの振動が効くのかはもう解っている。後は全力で放つだけ。軋み悲鳴を上げる身体に鞭を打ち、腕を伸ばす。
アンデッドロード俺の不意打ちに腕を交差させてガードした。
バキッ
アンデッドロードの両腕は肘まで砕け、上腕にもヒビを入れた。
そこまで理解したところで体が動かなくなった。すでに限界を突破した身体は、自分の崩拳に耐えきれなかった。
「痛てぇ」
ポロッと言葉が漏れる。
「オノレェッ!」
アンデッドロードは砕けた肘から黒いモヤを噴き出して後方へ飛び倒れた俺を睨みつける。
俺を仕留めようとアンデッドロードが漆黒の剣を出した瞬間、さらに横やりが入る。
真横からキャノンボールが飛び出し、アンデッドロードにぶつかる。先ほどまでアンデッドロードが居た位置に、右ストレートを放った姿のレックスが立っていた。
「漢を魅せて貰ったぞ。しなやかな筋肉。」
レックスパンチを食らったアンデッドロードは、壁に激突し半分埋まって止まる。そこにゴーレムが何体も突撃して完全に見えなくなった。
「チャントベンショウシナサイヨ」
ゴーレムからカタコトの声が聞こえてくる。リリィさんはどんな交渉をしたのだろうか?
光輝が詠唱を完成させ、待機する。どうやら間に合ったようだ。
ゴーレムたちがはじけ飛び、アンデッドロードが姿を現す。出てきたと同時に光輝が魔術を放つ。
「クレパスキュラーレイズ」
漆黒の雨雲の切れ間からアンデッドロードに向かって光が降り注ぐ。
「がぁぁぁぁあぁぁぁぁ!」
幻想的な光景に感嘆の声が漏れそうになったところで、アンデッドロードの断末魔が響く。
アンデッドロードは降り注ぐ光を浴び、黒いモヤとなって消えていった。




