表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏方の勇者  作者: ゆき
武闘大会編
85/186

アンデッドロード1

「危ないところだったな。」

「助かったよハヤト君。アレを使わずに済んだのは非常に幸運だった。」


パトリックは不思議な顔を解き、肩で息をしながらこっちを見る。


「何で詠唱やめてんだよ。使えるなら使え。真面目にやってくれ。」

「君にだけは言われたく無いんだけどね。」


・・・何を言うか、むしろ俺だから言うんだ。俺が働かないために俺以外が全力を出せよ。


「そんな事よりも、さっきの骨が魔王でいいのか?」

「あぁ、そうだ。不死の魔王アンデッドロードを名乗っていたよ。」

「不死か。倒すのが面倒臭そうだな。」


死なないとなると、光輝に浄化してもらうのが最善だろうか。しかし、今は向こうで取り込み中だ。ダメージを与えつつ光輝を待とうか。

魔王は死霊系の中でも、ゴーストのように触る事のできない魔物ではなく、骸骨でしっかりとした実体があるタイプなのが救いだろう。


骸骨なので、おそらく崩拳が効くだろうし、むしろダメージが目で見えるのでありがたい。手足を砕いて動けなくした後、光輝に何とかしてもらおう。

魔王はリリィさんとパトリックの死闘によって、既に小さい亀裂や欠けが見てとれる。元々かもしれないが、崩拳で破壊出来る可能性は高い。気取られる前に畳み掛けようか。


「不意打ちとは感心しませんねぇ。」


アンデッドロードは何事もなかったかのようにゆっくりと歩いて戻ってくる。


「説教は間に合ってるから止めてくれ。」

「ドナタか知りませんが、横槍をいれた責任をとってもらいますよ。モチロン命をもって。」

「えぇ~普通に嫌なんだけど。」

「そういう問題ではないんですよ。さぁ、死んでもらいましょうか。」


アンデッドロードが動き出す。骨のくせに?いや、骨だからだろうか、かなりの速度で迫ってくる。

アンデッドロードは、やられたことをやり返すように右ストレートを振りかぶる。

それに合わせてこちらも右ストレートを放つ。


ガンッ


拳がぶつかったとは思えない音が響く。

最初に殴ったときも思ったが、今まで戦ってきた中でも一番堅い。崩拳を使ったのにヒビしか入らなかった。


「ナニをしたのですか?」


アンデッドロードは右手の甲を見せてくる。指の付け根辺りにヒビが入り、ヒビから血が噴き出す様に黒いモヤが溢れ出ていた。


「なんのことだか分からんな。骨のくせに骨粗しょう症なんじゃないのか?」

「・・・まぁイイでしょう。アナタは簡単に死ねるとは思わないでいただきたい。出来るだけむごくコロしてあげましょう。」

「全力で遠慮したい。」


アンデッドロードが先ほどよりも速い速度で動き出す。次は本気だと言わんばかりの右ストレート。2本の右手が同時に襲い掛かる。

・・・腕が4本ある人との戦い方なんて習った事無かったな。迫りくる拳を前についついそんなことを考えてしまう。

アンデッドロードの堅さを知りたいので、身体強化をMAXで使いアンデッドロードの攻撃をガードする。 さすが今のところ最高硬度である。受けた腕の骨がミシミシと悲鳴を上げながら弾き飛ばされる。

ギリギリのところで後ろに跳んで威力を逃がしたものの、手甲の上からでも折れそうな一撃。飛んでなければ確実に折れていただろう。


「まさか、この程度でシんではいませんよね。」

「・・・俺としては、お前の腕の方が心配なんだが、骨粗しょう症君。」

「アナタの大口は非常に不愉快ですね。」


おっと、アンデッドロードを煽って怒らせることには成功したようだ。これで攻撃が単調になってくれるとありがたい限りなんだが・・・

とりあえず腕の数を減らしたい。砕けないのなら関節を外してもぎ取るしかないだろう。背中から生えてる腕はよく解らん。人間にもある方を引っこ抜こうか。



今度はこちらから動き出す。普段やるような連撃、4本の腕に注意しつつ攻めていく。出来る限り作戦を読まれないように顔面中心に攻撃を叩き込む。

アンデッドロードの反撃も飛んで来るが、スレスレでなんとか回避し、連撃を続ける。


「ちょこまかと鬱陶しいですね。」


アンデッドロードは、大してダメージにならない俺の攻撃を無視して、強引に右ストレートを出してくる。

この瞬間を待っていた。イライラした大ぶりの一撃。ギリギリで躱し、上から下に叩きつけるように右ストレートを放つ。

狙いは鎖骨。肩とは、肩甲骨と鎖骨である。壊しやすいのは圧倒的に鎖骨だろう。崩拳を鎖骨に叩きつけ、ヒビを入れる。さらに前に踏み込みながら当てた拳を手前にたたみ、全身でタックルするように拳と同じ軌道で肘を打ち付ける。

ヒビの入った鎖骨が完全に砕け、アンデッドロードは苦悶の声をあげながら後ろに跳び下がる。

左手で逃がさないようにアンデッドロードの手を掴み、たたんだ右手をテニスのバックハンドのような格好で、側頭部に裏拳を放つ。

さらに右手を引き戻し、アンデッドロードの空いている腋、腕の付け根の部分に掌底で崩拳を叩き込む。


ゴキッ


振動と引っ張られる力で関節が抜け、右手を引っこ抜く事に成功する。さて、後3本だ。どうやってもぎ取ろうか・・・


「キサマァ!」


アンデッドロードの頭蓋骨からは表情が読み取れないが、キレている事は確かだろう。

千切れた肩からは黒いモヤが噴出し、そこを左手で押さえている様子を見るに、痛みがあるのだろう。さて、ここからが正念場だ。


「これは使いたくなかったのですが。仕方ないですね。」

「だったら使わずに死ね。」


奥の手があるらしいアンデッドロードは、ぶつぶつと呟きながら、肩から生える方の手を構える。

何をする気かわからないが、止めた方が良い事だけはわかる。さらに、こちらの攻撃手段がばれてしまった以上対策をうたれる前にでるだけ攻撃しておきたい。

そんな思いでアンデッドロードに特攻する。


「カースソード」


俺がアンデッドロードのもとに到達する前に、アンデッドロードの魔術が完成し、8本の漆黒の剣が舞う。


「くらいなさい。」


手を振り下ろすと同時に、漆黒の剣が襲い掛かる。

速度はいたって普通だったので、ギリギリで躱しつつアンデッドロードに差し迫る。

アンデッドロードは剣を操作し、俺の動きに合わせて軌道を変える。7本躱したところで体勢に無理が出て、仕方なく手甲で弾く。


「残念。触ってしまいましたね。」


ブチッ


「え?」


剣を弾いた左腕が弾ける。弾けたように血が噴き出し、指先をつたってボタボタと地面に落ちていく。

手甲にも服にも傷は無い。ただ中の腕は傷を負い出血した。


「・・・何をした?」

「呪いですよ。この魔術の前に防具は意味を成しませんからね。さぁ、ドンドン行きましょうか。」


アンデッドロードの前にまた、2本の剣が現れ、切っ先をこちらに向ける。


ヒュンッ


俺の横を何かが通り過ぎる。


「がぁ!」


急に痛み出すアンデッドロードを見ると、俺が破壊したのと逆側の鎖骨に氷の剣が刺さり、砕けて塵になった。


「これで良かったかい?すまないね。ダメージを与えられる強度にするのに時間がかかってしまった。」


突然、後ろからパトリックが現れてそう聞いてくる。

良かったがタイミングの打合せが欲しかった。今から突撃しても遅いかもしれない。そう愚痴ろうとした瞬間、回復したリリィさんが高速で通り過ぎる。

リリィさんは、レイピアをアンデッドロードの目に突き刺し、そのまま飛び越える。レイピアが引っ掛かり、アンデッドロードは上を向く。

チャンスはここしかない。一気にアンデッドロードに肉薄し、同じ要領で左手ももぎ取って離れる。


「後2本だな。」


引っこ抜いた腕を無造作に捨ててアンデッドロードを見る。

アンデッドロードは両肩からモヤを噴き出しながら苛立った声をあげる。


「よくもやってくれましたね。しかし、腕は破壊するべきでしたね。」


肩から出るモヤが、濃い線を描き、腕の付け根と結びつく。モヤは腕をを引き寄せて、身体の横に浮かせて待機させる。


「・・・まじか。」

「なんで破壊しなかったんだい?」

「わるい。激しく後悔してるところだ。」

「後悔しても仕方ない。とにかく戦いましょう。」


千切れた腕が完全に戻らなかったのは良しとしよう。これが第二形態だったら最悪だが、そうでない事を信じて仕切り直しだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ