タイミング
俺達は騎士に案内されて墓地を出て大会会場を目指して走る。
向かう途中で町全体が騒がしくなり始め、辺りに注意を向ける。
聞こえてくるのは建物が崩れる音や悲鳴。
どうやら町にも被害が出始めたらしい。
その一角から化け物が現れ、建物を壊しながらこちらに走ってくる。
「・・・なんか凄いことになってきたな。」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろう。」
「あれって、魔石で変身した化け物じゃない!」
「もしかして~いっぱい出てきた~?」
「それは・・・考えたくない事態ですわね。」
「取り合えず攻撃しとくか。」
「倒すって言って欲しいところだけどね。」
「へいへい。ファイヤーバレット×8」
「ライトランス×2」
俺と光輝が同時に魔術を発動する。
狙いは頭。おそらく堅いであろう外皮を貫けるように同じ場所を狙う。
蒼い炎の弾丸は狙い通り真っ直ぐに脳天めがけて飛んでいく。
どうやら光輝も同じ考えだったようで、2発連射したランスが同じ軌道で飛んでいく。
頭に合計10発の魔術が突き刺ささり、爆発して上半身を吹き飛ばした。
俺と光輝の魔術がぶつかり、爆ぜた事もあるが、完全にオーバーキルである。
「・・・意外と弱いのか?」
「油断は禁物だよ。あの魔石が力を倍増させる物ならベースの強さで化け物の強さが変わるだろう。」
「やっぱりそういうもんか。」
「仮にそれが正解だとすると、強い駒は本命の周りに配置するだろうね。」
「誰を狙ってるのか判らんが、王族を含めて戦い好きの重役が多くいる大会会場が濃厚か。」
「魔王も居るみたいだし、急いだ方が良さそうだね。」
大体の状況が掴めてきたところで、騒ぎを聞きつけたのか化け物がわらわらとやって来る。
確認できる数は5体、全部がバラバラの方向から来たせいで囲まれる形になる。
「すげぇタイミング悪いな。」
「片付けながら行くしかないみたいだね。」
会場には騎士や護衛達だけでなく、パトリックを含めて高ランクの冒険者も多くいるだろう。到着が少しくらい遅れても問題ないはずだ。
せめて出会った化け物だけでも倒していった方が結果的に多くの人を守れるだろう。
「あら、ここは私たちに任せて先に行って良いわよ。」
唐突に雫から声がかかる。
「良いのかい?」
「問題ないですわ。お兄様達だけでも会場に急いだ方が良いですわね。」
「そ~だね~」
「・・・だそうだ。ここは俺達に任せて行って来い光輝。」
さすが主人公、いきなり[先に行け]って展開が来たぞ。激アツの名シーンだ。
「あんたも行きなさいよ!」
「・・・はぁ?」
なんでだよ、相場は主人公1人行かせるか主要メンバーが殿で1人残って命を落とす涙腺崩壊シーンだろ。
死ぬ訳にもいかんから光輝を行かせて皆残るんじゃないのかよ。中途半端に脇役までつれてかせるんじゃねーよ。
「はぁ?じゃないわよ。何光輝1人で行かせようとしてるのよあなたも働きなさい。」
「・・・はい。ただし、ルーを置いていくぞ。ルー、皆を守ってやってくれ。」
「ガゥ!」
何でこんなに怒られるんだろうか。
「くっくっく。君は相変わらずだね。行こうか、右のを頼む。」
「・・・あぁ。」
俺と光輝は大会会場に向かって再び走り出す。
目の前に立ちふさがる化け物は2体。光輝が左、俺が右の化け物の方に近づき、戦闘に入る。化け物の理性のない出鱈目な攻撃をかいくぐり、脳天に鎧通しを放つ。化け物は衝撃でそのまま真後ろに倒れ込み、動かなくなった。
光輝の方を見ると、一撃で首を切り落としていた。
うん。弱いヤツだからこうなるのも当然だな。
光輝は俺にアイコンタクトで行くぞと告げて走り出す。それを追いかけるように俺も止まっていた足を動かした。
出会う敵を倒して進み、会場に到着すると、会場周辺にはゴーレムが立ち並び、一部のゴーレムは化け物と戦っていた。。
「光輝、ゴーレムまでいるぞ。どうなってんだ?」
「分らないけど、様子がおかしいね。騎士とゴーレムは仲間のような動きをしている。聞いてこようか。」
光輝は近くに騎士に状況を聞きに走っていく。後ろに付いて会話の聞き取れる所まで近づく。
どうやらゴーレムは味方らしい。Sランク冒険者のマキナという人の魔術で出来たゴーレムで、この緊急事態に、こうして王都中にゴーレムを配置したらしい。
マキナの2つ名は”ゴーレムの女王”ゴーレムクリエイトに秀でていて、セミオートで数百体のゴーレムを同時に操れるらしい。
本人は安全なシェルターの中から出ず、ゴーレムに埋め込まれた魔石を通して状況を把握し戦うらしい。非常にうらやましい戦い方である。
外は冒険者もチラホラといるようだし、騎士とゴーレムに任せても大丈夫だろう。
騎士の話で中が最悪な状況という事がわかったので、人混みをかき分けて乗り込んでいく。
会場内は混乱こそしていたものの、意外と一般人のケガ人は少なかった。
化け物自体がターゲットもしくは強い人を狙うからなのか、一般人には目もくれず騎士や冒険者と戦っている。
辺りにはゴーレムと思われる残骸やケガをした騎士や冒険者が転がっていた。重傷程度で済んでいるので放置されているのだろう。症状の重い人から治癒師が応急処置をしていっているようだ。
「僕はアッチに行くから君はソッチを頼むよ」
光輝が指をさしたのは自分が王女の方、俺はパトリック達が戦っている骸骨の方だった。
・・・確かに光輝の性格上女性から助けるんだろうけどさ。普通は魔王っぽい奴の所に行かないか?
光輝は一気に走り出し、王女と化け物の間に滑り込む。うむ、絶体絶命を救った感じの良いタイミングだ。ヒーローはこのタイミング好きだよな。
きっと王女も光輝に惚れただろう。ここからでは見えないが、王女は熱っぽい視線を光輝に送っているに違いない。
さすが主人公。やっぱり世界は光輝を中心に回っている。
俺は仕方なくパトリック達の方に視線を戻す。途中、筋肉が化け物をボコっていたのは見ない事にする。
「俺も行きますか・・・。」
リリィさんが苦しい顔をしながら骸骨と戦っている。何か狙いがあるのか、リリィさんは骸骨を上に引き付けていて、パトリックは両手を前に上下にしながら突きだした構えで詠唱している。その構えは、ドラゴンが口を開いているように見えなくもない・・・いや、見えないか・・・
骸骨がリリィさんを弾き飛ばし、パトリックに肉薄する。
ロケットブースターを全力で展開し、横槍を入れる。
高速で飛びながら、パトリックに攻撃しようとする骸骨の側頭部を殴りつける。
予想外の攻撃に骸骨は弾き飛ばされ、土煙を巻き上げながらゴロゴロと転がっていった。
どうやら俺も良いタイミングで現れてしまったようだ。対象が男なのが主人公との決定的な違いである。
パトリックは驚いた表情で詠唱を止めてしまった。




