会場での戦闘
アンデッドロードが現れた会場は騒然としていた。
アデルの瞬殺を皮切りに客席のいたるところで悲鳴が上がり、我先にと外へ走り出す。
出口は人の流れが滞り、すぐにごった返した人で身動きがとれなくなってしまう。
騎士やランクの高い冒険者がアンデッドロードを止めようと包囲するも、強大な魔王の力の前に次々と倒れ伏していく。
「勇者様方とギルド、騎士本部、Sランクのマキナ殿に連絡を急げ!」
「「「「はっ!!」」」」
護衛隊長のラルフが近くの騎士に指示を飛ばし、命令された足の速い騎士がバラバラな方向へ走り出す。
入れ替わるように、放送席を離れたアレクシアがやってくる。
「父上!私も戦場に出ます。」
「待てアレクシア。自分が王族だということを忘れてないか?」
「王族だからこそ、民を守らねばなりません。」
アレクシアの毅然とした態度に国王はため息をついて、やれやれといった表情で返答する。
「行ってこい。ただし、ラルフを連れていけ。」
「いって参ります。」
「よろしいのですか?」
「仕方無いだろう。あれも頑固者だからな。ここには護衛がまだ多くいる。アレクシアに付いて行ってくれ。くれぐれも死なせるなよ。」
「はっ!」
ラルフもアレクシアを追いかけて走り出す。
ステージでは、パトリックとリリィがアンデッドロードを足止めしていた。
「クソッ!」
「おやおや、Sランク冒険者とは、この程度ですか?」
息を切らすパトリックとリリィに対し、アンデッドロードは骸骨なので表情こそ読めないが、声は余裕そうであった。
パトリックは完全に後衛型の魔術師で、近接戦闘はほぼ出来ない。前衛をリリィに任せっきりになってしまっている。
リリィも隼人との試合のダメージが残り、100%を出し切れていなかった。
リリィがアンデッドロードの攻撃をなんとかいなし、隙を作ったところでパトリックが魔術で攻撃をする。
そんなギリギリの攻防が続いているが、パトリックの攻撃は相性が悪く、アンデッドロードに致命的なダメージは与えられない。
アンデッドロードは骨なので、凍らせてもダメージは無く、氷をぶつけても頑丈な骨格を大きく傷つける事は出来なかった。
「大した攻撃は飛んでこないとはいえ、こちらの攻撃も当たらないのはいささかイラつきますね。仕方ありません。こうしましょうか。」
アンデッドロードはそう呟いてリリィから距離を取り、力むように両手の拳を握った。すると、肩甲骨のあたりからさらに2本の腕が生える。
「さて、どこまで持ちこたえられますか?」
「くっ!」
アンデッドロードの腕が4本になり、単純に手数が倍になる。
リリィはすぐに付いていけなくなり、隼人との試合で見せた風の鎧で何とか防ぐ。しかし、すでに満身創痍、魔力も残り少なく短期で勝負を付けないと状況が悪化していく一方であった。
「リリィ殿、パトリック殿。助太刀する。」
アンデッドロードとの戦いにアレクシアと護衛のラルフが参加する。
「良いところだったのですが・・・おや、やっと時間になったようですね。」
2人が戦いに参戦しようとした瞬間。会場のあちらこちらから悲鳴が上がる。振り返ると、辺りには黒いモヤがいくつか発生していた。
「貴様何をした!?」
アレクシアがアンデッドロードに食って掛かる。
「おやおや、あなた方はこの現象を見ているはずですが?」
「何?」
黒いモヤはだんだんと実体を帯びていき、化け物の姿へと形を変えた。
「実はいたるところに魔石をばら撒いていましてね。このタイミングで暴れ出す様に仕込んであったのですよ。正確には決勝に合わせたつもりだったのですがね。」
ハイゼンベルク公爵が侯爵の私兵や奴隷、さらには露店の商品にもひそかに魔石を紛れ込ませて王都中にばら撒いていた。
オートで発動するように細工された魔石は、所有者の魔力を使い所有者自身を飲み込んだ。
「面白くなってきましてね。このムスぺリオス王都中が絶望に染まりますよ。」
会場だけではない、外からも悲鳴が聞こえてくる。この瞬間、王都全体が戦場と化した。
「王女殿下、化け物をお願いしてもよろしいですか?」
「わかった。お二人共お気を付けて。ラルフ、こうなってしまっては仕方ない。我々は化け物を殲滅する。」
「はっ!」
アレクシアとラルフは近くに見える化け物の方へ走り出す。
「結局二人でやらなきゃいけないようだね。」
「そうですね。何とか乗り越えましょう。」
パトリックとリリィはアンデッドロードに向き直る。戦いはまた振り出しに戻ってしまった。
「おおぉぉぉぉおぉぉぉ!」
選手入場口から激しい地鳴りと共に、野太い雄叫びが聞こえてくる。
ただ止血程度の回復しかしていないであろう姿のレックスを筆頭に、筋肉集団が続々と走ってきた。
雄叫びを上げながらのショルダータックル、ラリアット、右ストレートを中心に化け物に突進していく。
「はっはっは!!昨日のやつより数段劣るな。鍛え方が足りていない!」
試合でのケガ、敗北の汚名を返上していくかのように筋肉の狂戦士達は怒涛の進撃を開始した。
レックスパンチによって、近場にいた化け物から順に上半身が消し飛ばされていく。
弟子たちも複数人で囲み、サンドバッグのようにボコボコにした。
続いていた化け物への強制変化も落ち着き、人々は化け物になってしまう恐怖はほとんど無くなった。しかし、かなりの数の化け物が王都中に姿を現したので、逃げ場が見つからず、騎士たちの保護の元で固まってじっと戦いが終わるのを待った。
公爵邸の一角
騎士達によって、公爵一族は拘束され、尋問されていた。
「くっくっく。そろそろ絶望の時間ですよ。」
「そんな事はどうでもいい!あの魔石は一体何かを吐け!」
「ただの魔石ですよ。少し加工しましたがね。」
「それが何だと聞いているんだ!なぜあんな化け物が生まれる!?」
「あぁ、丁度その子が来ましたよ。」
公爵たちのいる一室に、ドアを蹴破った化け物が数体ずかずかと中に入ってくる。
「なぜこんなところに!」
騎士たちは一斉に剣を抜いて構えるが、戦闘音はすぐに終わり、静になる。
「いいですね。さぁ、私を解放しなさい。」
「それはどうしようか?」
遅れてもう一人やってくるが化け物の姿ではなく、シルエットは完全に人の形だった。すべてが真っ黒だったという事を除けばであるが。
「どういう事ですか?」
「こういう事ですよ。」
黒い人型は公爵に近づき、片手で首を絞めながら持ち上げる。
「なっ!?や、やめ----」
公爵は始めもがいていたが、すぐに力が抜けて力なく、手足をぶらんとした。更にだんだんと肌から水分がなくなっていくように、しわしわになり塵になって消えた。
「全て私が引き継ぎましょう」




