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裏方の勇者  作者: ゆき
武闘大会編
80/186

墓地での戦闘

『それでは、準決勝第一試合を開始します。選手入場です!今まで圧倒的な強さで勝利してきたました。[光のイケメン勇者]コウキ選手と、先程は非常に熱い戦いを見せてくれた。[蒼炎]ハヤト選手です!』


会場を盛り上げようと、盛大に過飾した二人の紹介をするも、二人は入場して来ず、非常に微妙な空気が流れる。


『・・・来ないな』

『来ませんね。トイレでしょうか?・・・え~、大会ルールに則り、15分間選手登場を待ちます。15分後まだ登場しなければ失格となります。』


スタッフが放送席に来て、2人に耳打ちする。


『ただいま最新の情報が入りました。どうやら御二方とも会場のどこにもいないそうです。』

『何かあったのだろうか?』

『お願いなので来てください・・・』


司会のニーナが願望を口にするも、むなしく散っていった。




墓地に置かれていた魔石が一斉に割れ、壊れた魔術陣から鈍い光が放たれる。

光が落ち着き、完全に失われた瞬間


ゴッ!


一瞬地面が揺れ、所々が隆起し始める。


「どうなったの?」

「わかりませんわ。」

「終わりじゃなさそうだね。」

「地震~?」

「クゥゥゥン」

「なんか出てきたぞ」


隆起した地面から手が生えてくる。腐って肉が爛れ落ち、骨の見えている腕や、完全に骨だけのモノが一斉に生え、動き出す。

やがて手だけでなく、本体も這いずり出てきて、辺り一面がゾンビと骨で埋め尽くされる。


「これなら殴れそうだな。触りたくないけど・・・」

「隼人、上見てみなさい。」


雫にうながされて、恐る恐る上を見る。ボロ切れで出来たローブを着た黒いモヤやら、半透明な人型やら錆びた剣、ナイフ、サイズといった武器が宙を舞っていた。


「あれは任せた。」

「魔術使えるでしょ。手伝いなさいよ。」

「幽霊とか生理的に無理。」

「男が生理的にとか言わないで、気持ち悪い。」

「・・・シンプルに口が悪い。」

「・・・何か?」

「いえ、何でもありません。」

「二人とも無駄話をしてる場合じゃないみたいだよ。」


あろうことか、光輝に怒られてしまった。とりあえず実体の在る地上の敵から相手しようか。


「じゃあ、やろうか。準備はいいかい?」

「あぁ!」「えぇ!」「うん!」「はい!」「ガゥ!」


全員が一斉に動きだし、勇者パーティー対死霊軍団の戦いの火蓋がきって落とされた。

開幕早々、光輝は大魔術の使用で息を切らしていたので、休憩をはさませてポーションで回復させる。

空を雫と京華に任せて地上の殲滅と全員の護衛を俺とルーが担当する。

ルーが墓地を駆け抜け、すれ違い様にファイヤーボール、引っ掻き、噛み付きで殲滅していく。

あっ!コラ!ゾンビの腕を食いちぎるのは止めなさい、ばっちい。

スケルトンやゾンビは、最近の食事と戦闘訓練で強くなったループスに次々と屠られていく。

俺は大量のファイヤーボールを操作して、次々とヘッドショットを決めていく。

動く死体とか触りたくないし・・・特に腐った肉。

空中担当の2人を見ると。少し焦った様子の雫と、さらに焦った様子の杏華が何とか凌いでいる状態だった。


「杏華、落ち着いて。」

「わかってますわ。」


雫は、弓を構えた状態から矢を番えずに弓を引く。何も無かった場所に光の矢が現れて、矢を放つ。

光属性の魔術だろうか?最初の時点では使えなかった気がするんだが、雫も大分成長したようで、出来るようになったのだろう。光属性を中心に全属性の矢を適材適所、連射する。

雫は元々弓道部で、弓の使い勝手は違うものの、持ち前の器用さとスキルによって、矢は全く外れる様子はなく、100発100中で次々と魔物を仕留めていく。

対する杏華は焦りの為か、5回に1回ほどしか魔術が発動しない。当たらないのではなく、そもそも発動しないのだ。

魔術自体はエクスプロージョンを選択していて、発動すれば当たるのだが、なにぶん失敗の数が多すぎた。


「待たせたね。」


そうこうしているうちに、光輝が復活する。光輝は剣を構えて周囲を警戒しつつ、中規模魔術で空中の敵を殲滅し始める。

どれくらい戦っただろうか?魔物の数は半分ほどまで減ったような気もするが、先ほどから墓地の奥の方で鈍い光が何度か弾けるのが見える。

まだまだ召喚されているのかもしれない。その辺りをたたきたいのだが、減ったと言っても魔物はかなりの数が残っているので近づく事が出来ない。捨て身で様子でも見に行った方が良いだろうか?

そんな事を考えていた、丁度いいタイミングでぞろぞろと騎士が大勢やってくる。


「お待たせしました。ムスぺリオス騎士団到着しました。これより、勇者様の援護と魔物の殲滅を開始します。」


騎士団が戦線に加わり、一気に優勢に立つ。騎士団が陣を組み、盾でバリケードを作ってくれたおかげで、俺とループスが殲滅に集中できるようになった。さらに魔術士団が地上・空中共に攻撃を始め、殲滅速度は格段に上がっていった。


「光輝、あの辺りで鈍い光が弾けたのを見たか?」

「僕も気になってたんだ。余裕もできたし、ライトフォールをもう一発撃ってみるよ。」


そう言って光輝は詠唱を始める。詠唱が終わり、今度はあまり大きくない光が落ちる。

最初の3分の1ほどだろうか、鈍い光が弾けていた場所を飲み込む程度の規模だったが、その中にいた魔物、魔石は完全に消滅した。


「このくらいでいいかな?すまないけど後は頼むよ。この魔術は魔力消費が激しいから、また休ませてもらうよ。」

「あぁ、任せろ。」


光輝の大魔術や騎士の協力もあって、そこから速やかに事態は収束していった。

殲滅は終わり、見渡しても魔物はおらず、全員が一息ついた。最初から戦っていた勇者パーティーは、その場で腰を下ろす。

隊長らしき人物が近づいて来て、ねぎらいの言葉をくれる。


「勇者様方はご苦労様でした。騎士団!小隊を組み、警戒態勢を維持しながら墓地の安全確認!残党は殲滅し、怪しいモノは報告せよ。」


隊長の言葉に、騎士達はテキパキとした動きで、墓地全体の安全確認をし始める。壊しきれずに欠けた魔石や倒しきれていなかった魔物を複数発見し、順次処理していく。全ての処理が終わり、騎士達が準警戒態勢を取ったまま、勇者パーティーの墓地での仕事は終わった。


「さすがに試合には間に合わないか。」


光輝が呟く。

え?そんなに試合したかったの?いや、光輝の生真面目さが出ているだけだろう。危機が迫っていたとはいえ、大会をすっぽかしたわけだし・・・


「事態が事態だ。さすがにこれを無視出来ないだろ。」

「そうだね。よし、ここで借りを返してもらおうか。隼人、僕と試合をしよう。」

「なんでそうなるんだよ・・・」

「隼人、僕は君が思っている以上に君と戦える事を楽しみにしていたんだ。この間の貸しを返してもらってでも戦いたいくらいにね。」

「お前は今の戦いで相当消耗してるだろ。日を改めた方が良いんじゃないのか?」

「いつもそうだった。君はいくら挑発しても乗ってこないし、挑んでものらりくらりと躱される。今を逃すと、君はいつ受けてくれるんだい?」

「そう言われると・・・返答しようもないな・・・面倒だが仕方ないか。わかったよ、全力でかかってこい!」

「あぁ!」


騎士達と勇者パーティーが見守る中、俺と光輝の場外戦闘が始まった。

お互いに構え、静かに制止する。開始の合図など無く、しばらく睨みあって両者同時に動き出す。走りながらお互いに牽制を撃つ。


「ファイヤーボール」

「ライトボール」


光輝の手元が光ったと思った瞬間、俺は後方に弾き飛ばされた。

身体強化でダメージが軽減されていなければ、今までの光輝の対戦相手のように一撃で終わっていただろう。

・・・普通に考えたらわかった事なのになぜいけると思ったのだろうか?

光の速度で飛んで来る魔術なんだから、見えたと認識した時点で当たっているモノだろう。

そんなモノ避けようがないが、これを攻略しないと勝ちようが無い・・・


「このチート野郎が・・・」


立ち上がりながら、ボソッと呟く。

努力して努力して音速を超えたのに、光速の攻撃を持ってくるなんて・・・

だから天才は嫌いなんだ。

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