大会よりも
何とか勝利を収め、リリィさんをシアちゃんに預けて廊下を歩く。手に汗握る熱い戦いだった。目立った事はもう諦めよう。
とにかく光輝達に魔石の話をしておかないと。居るであろうVIP席にたどり着くが、ガードマンに止められる。
「ここから先はVIP席だ。関係のない人は入れない。」
「勇者光輝に用事があるんだ。入れないなら呼んできてもらえる?」
「それもダメだ。」
「じゃあ自分で呼ぶよ。」
お堅いガードマンに呆れつつ、光輝達に向けて魔力を開放する。
「キサマ!」
これで気づいてくれるだろう。今回は強行しないと不味そうなので、無理にでも押し通る。
来てくれないとガードマンに取り押さえられそうであるのだが・・・
逃げる訳にも戦う訳にもいかず、どうしようかと思っていたら、すぐさま組み伏せられる。
おい、そっちの指先はヒビはいってんだそんなに強く握るな。
「どうしたんだい?」
救世主の登場である。今の光輝には後光が射して見えるな。
「用事があって呼びに来た。」
ガードマンに押さえつけられて平然とそんなことを言う俺はきっと変人に見えるだろうな。
「・・・ガードマンさん。その人は知り合いだ。危険は無いから放してくれていいよ。」
「は!」
ガードマンは光輝の言う事を聞き、素早い動きで俺から離れる。
「場所を変えた方が良さそうだね。」
「そうしてくれ。昨日の話だ。」
「人を集めてくるよ。」
そう言って光輝はVIP席に戻っていき、人を集めて戻ってきた。勇者チーム一行とアリア王女、前回もいたカミルの親であるゼクレス侯爵がついて来た。
向かった場所はVIPのさらに上、ムスぺリオス王族がいるボックス席。ロイヤル席とでも言えばいいのだろうか?
VIP席よりも厳重な警備をくぐり抜け、防御の魔術で覆われたボックスに入って行く。中にいたのは国王夫妻とクラリス第二王女、オルコット夫妻、システィーナ嬢、なんか偉そうな人、王族の護衛の近衛騎士、お付きメイドである。
中にいた人達は突然の来訪に驚いていたが、光輝やアリアからの説明を聞いて、一瞬で真面目な表情になる。
まさかここまで大事にされるとは思わなかった。光輝にうながされて昨日の事を話し始める。
「早速本題に入ろうか。見てもらった方が早いんだが、これの話だ。」
「なっ!!」
国王の護衛が剣に手をかける。
「待て!」
国王が護衛を制し、説明しろといった目で睨みつけてくる。
さすが、こんな大会を開く国の国王だ。ドスがききすぎている。正直恐い。
「隼人。それをどこで見つけたんだい?」
「色々あって墓地で見つけた。かなりヤバい状態だったから早めに対処した方がいいな。クラリス王女殿下、これが淀みの一部だと思うか?」
「は、はい。その魔石からは淀んだ魔力を感じます。」
クラリス第二王女は、いきなり話を振られて一瞬呆けるも、ハッキリと答えを返してくれる。
「それで、隼人はなんで墓地を放置してきたんだい?」
「あんなもん俺の手に余る。ちゃんと装備と人員を整えないとマズいレベルだぞ。」
「隼人は~オバケ苦手だからね~」
「・・・おい」
「そうなのかい?」
「意外な弱点ね。」
「かわいいですわね。」
変なところで要らない情報をカミングアウトされてしまった。別に男がホラー苦手でも良いじゃないか。
「物理で殴れないものは苦手なんだよ。」
「考えが脳筋ね。」
「そうですわね。」
「そんな事はどうでもいい。ほら、とりあえずやる。」
痛いところをつつかれて、若干ぶっきらぼうになりながら光輝に向かって魔石を投げ渡す。
「おいおい、そんな雑に扱う----」
魔石を受け取った光輝が止まる。キャッチした手はそのままに、空いた方の手で額を押さえる。かなり深刻な表情をして固まっている。
「光輝、どうした?・・・光輝?」
「・・・国王陛下、今すぐ墓地とハイゼンベルク公爵の所に行かなければいけない。兵の準備をお願いします。」
動き出したかと思ったら、少し焦った様子で国王に出撃の許可をとりつけ始める。
「構わないが、何か見えたのか?」
「はい。こんな未来予知じみたモノは初めてなのですが、この魔石を使って墓地で死霊系の魔物があふれ出します。そして、ハイゼンベルク公爵がこの件に関与しているでしょう。時間がありません。すぐにでも出たいので、急ぎでお願いします。」
「わかった。勇者の勘に賭けてみるか。王宮に待機している兵を出せ。墓地での戦闘組とハイゼンベルク公爵邸での事情聴取組に分けて出動だ。」
「は!」
国王の一声に護衛の騎士が動き出す。
「戦力は多いにこした事は無いだろう。すまないが、騎士が出揃うまで待ってくれ。」
「出来る限り急ぎたいので、僕達が先行して、騎士は後から合流でも構いませんか?」
「わかった。」
光輝と国王の会話でどんどんと物事が決まっていく。
「光輝、試合はどうするんだ?」
「残念だけど、今回はお預けだね。・・・どうしてそんなに笑顔なんだい?」
「ん?笑ってるか?」
「あぁ、気持ち悪いくらいに笑顔だね。」
「うるせぇ。・・・結依、ケガを治してもらっていいか?」
「いいよ~」
ヒビの入っている左手を差し出し、治癒魔術をかけてもらう。ついでにあちこち治してもらい、万全な状態になった。
「行く場所が二つあるならどうやって分けるんだ?」
「そうだね、騎士を出してくれるなら、ハイゼンベルク公爵の方は騎士に任せてしまっても良いだろう。国王陛下、構いませんか?」
「問題ない。ハイゼンベルク公爵はこちらでどうにかしよう。墓地を頼んだぞ。」
「はい。ご期待に沿えるよう全力を尽くします。」
俺達はムスぺリオス国王に一礼して動き出す。
アリア王女は留守番で、俺とループスを含めた勇者パーティーは装備を万全に整えて墓地を目指す。
「雫、そんなもん持ってたっけ?」
人攫いの一件から雫だけ装備が変わっている。装飾のほとんどない質素な弓が増えていた。立場上、初心者用の装備ではないだろうな。貴族受けしそうな豪華絢爛でもないので、可能性は一つ。機能を追求して、無駄をそぎ落としたシンプルな一品だろう。シンプルイズベストな雫が好みそうな弓である。
「アルカディア王国に弓が充実してなかったのよ。ムスぺリオス王国で新調したわ。ダンジョン産の伝説級の武器よ。」
なんだか非常にうれしそうである。すごいニヤついてるし・・・
しかも伝説級ってどんなすごい弓だよ。
当たり前だけど勇者パーティーって優遇され過ぎじゃね?伝説級の武器がポンポン舞い込んでくるとかおかしいだろ。俺、一生懸命素材集めたんですけど・・・
他愛もない会話をしながら墓地に到着し、全員が気を引き締める。
「じゃあ、入ろうか。」
光輝がゆっくりと墓地に足を踏み入れ、全員が後に続く。またもねっとりと絡み付くような不快感が押し寄せ、幻聴のようなモノも聞こえてくる。
「うわ~」
「何、これ」
「吐き気がしますわ。」
「クゥゥゥン」
みんな解ってくれたようで何よりだ。
「昨日、夜にここでルーと二人だったんだ。さすがに帰るだろ。」
「これは、仕方ないわね。」
雫の同意を得られた。これで、昨日やっておけば良かったとか怒られる心配はないだろう。やったね!
「隼人、これはどうするのが正解なのかい?」
「どうもこうも、墓地を覆う結界ごと魔石を全部壊すしかないだろ。」
「やっぱり、そうだろうね。一撃で大半を浄化させるよ。大魔術を使うから少し離れてて。」
光輝はそう言って魔術の詠唱を始める。足元に陣が浮かび上がり、光輝を光が覆う。
「ライトフォール」
光輝の一声と共に天から墓地に向かって一条の光が落ちる。
カッ!
視界が白一色に染められる。手で目を覆い、視界を守る。
光の魔術がが止み、視力が回復し始めたので、辺りを見渡すと何ら変わりない墓地の風景が広がっていた。
「魔石は半分くらい壊せたかな?ここからが正念場だよ。」
魔石で描かれた陣が壊れ、浄化しきれなかった魔石から黒いモヤがあふれ出す。
「鬼が出るか蛇が出るか・・・まぁ、出るのは死霊だろうけど・・・」
「バカな事言ってないで、シャキッとしなさいよ。」
雫から激が飛ぶ。
・・・仕事しますか。




