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裏方の勇者  作者: ゆき
武闘大会編
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四回戦2

『これは、リリィ選手の本気モードなのでしょうか!見たことのない技が飛び出しました!ステージには、リリィ選手を基点に外側へ風が流れ続けています!』

『見た事も聞いた事も無い技だな。どんな効果の魔術なのか気になる所だ。ハヤト選手もうかつには近づけないだろう。』


常に向かい風になる技、ではないだろう。未完成と言えど、その程度の技を今ここで出す訳がない。気を引き締めて拳を構え直す。そして、ゆっくり手甲と足甲に纏いを使う。


『ハヤト選手も新技です!両手足に蒼いが灯りました!』

『先日のアルカディア王国の大進行で、蒼い炎の竜巻が起きたという情報があるのだが、ハヤト選手の魔術だろうか?』

『なんと!そのような技が存在したのですか!しかし、それが本当だった場合、実はハヤト選手は魔術も相当できることになります!器用貧乏になっていなければBランクに収まる実力ではありませんね!』


リリィさんはレイピアを構え直し、俺は両手を地面に付いてロケットスタートの構えをとる。


「いくぞ!」

「・・・あぁ。」


2人同時に動き出す。纏いの恩恵か、強力になった風のスラスターで、リリィさんは更に速度を上げ突進。俺はロケットブースターで爆発的な速度を出す。

一瞬の交錯。

リリィさんの攻撃よりも先に、俺の右ストレートが放たれる。リリィさんは俺の爆発的な加速に驚いていたのだが、拳がリリィさんに到達しようとした辺りで、クッションに当たったかのように拳の速度が落ち、わずかにリリィさんから逸れていく。

リリィさんは逸れる拳を難なく躱しニヤリと笑みを浮かべて渾身の突きを放つ。

完全に当たる軌道で迫るレイピアを回避する為。俺とリリィさんの間にエクスプロージョンを放つ。


ゴッ!


至近距離にいた2人を吹き飛ばす。

俺はゴロゴロと転がり、ステージのは端で止まり立ち上がる。リリィさんは、爆炎の中からほぼ無傷で出てきた。


『大爆発!ハヤト選手。エクスプロージョンでの自爆攻撃です。そこまでの経緯も凄かったのですが、速過ぎて見えませんでした!観客にも解る試合をしてください!』

『2人の速度もそうだが、リリィ殿の魔術は風の鎧だな。おそらく超強力な向かい風で攻撃を止める。もしくはいなす技だろう。ハヤト選手のパンチが遅くなって反らされていた。』

『先ほどの威力をそらせるというのは、かなり強力な防御ではないでしょうか?』

『そうだな。確実に言えるのは、今までのファイヤーボールや先ほどの指弾は完全に無効化されるだろうな。』


「ハヤト殿、また仕切り直しだな。」


リリィさんは、構えを崩さず肩で息をしながら、初級魔術は効かないとハッキリ言い放つ。


「消耗しすぎて、次の試合が悲惨なことになるぞ。」

「流して勝てないのだから仕方無いだろう。それに、この戦いが純粋に楽しい!今日は最高だ!」

「・・・そいつはどうも。」


何度も攻守がひっくり返り、激しい近距離戦が続く。

実戦は練習の何倍もの速度で身に付くとはこの事だろう。この試合でずっと続けてきた身体強化が爆発的な速度で効率化されていく。一瞬しか使えなかった亜音速の攻撃も、亜音速で動き続ける程になってしまった。

逆に言えば、リリィさんも亜音速で動いている事になるのだが・・・


リリィさんの風のスラスターは小回りが利く。対して俺のロケットブースターは、速度こそ出るものの、小回りが利かず、移動の意味合いが強い。近接戦闘ではほとんど出番がないので、身体強化に頼るしかない。。

身体強化のフルパワーで攻撃すれば、風の鎧を抜く事は出来るが、そのぶんこちらも攻撃が大振りになり、隙を突かれるだろう。

リリィさんの魔術の未完成の部分は確かにある。一番わかりやすいのは、リリィさんの魔術が非常に燃費が悪く、長くは持たない事だろう。しかし、スタミナ切れで決着は面白くないので、どうにかして攻略したいところだ。

もう一つは、鎧がボディ中心に展開されている事だ。先端にいけばいくほど薄くなる。手先足先は防御しきれていない。

すぐに突ける弱点はここだな。

リリィさんのレイピアの動きに合わせて手の甲にフックを放つ。1本拳で手の甲を砕こうとするも、それを察知したのか、リリィさんは突きの途中で方向を変え、殴られないように動く。

ここを逃すとチャンスはほとんど失くなってしまうだろう。

1本拳から指を伸ばし、抜き手に変える。リリィさんの手の甲に触れた瞬間、指先から崩拳を放つ。


「「ぐっ!」」


二人から声が漏れる。

慣れないことをぶっつけ本番でやるものではない。どうやら振動が伝わりきらず、俺の指までヒビが入ったかもしれない。

しかし、リリィさんにはそれ以上のダメージが入っているだろう。手の甲は砕け、レイピアが手から離れて宙を舞う。

一瞬呆けたその隙に脇腹へ鎧を抜ける超音速のボディーブロー。


「かはっ!」


クリーンヒットしたリリィさんは、身体をくの字に曲げ、後方へと飛んでいく。

また立ち上がられても困るので、追撃をする。

ロケットブースターで転がるリリィさんに追いつき、馬乗りになるような形で拳を振り下ろす。

もちろん当てはしない。リリィさんの頬をかすめ、ステージの石畳に拳をたたきつける。石畳には、半径1mほどの、放射状のヒビが入った。


「・・・まいった。」


リリィさんは、どこか清々しい様子で敗北を宣言した。


『決着です!まさかまさかの大番狂わせ大金星!ハヤト選手の勝利です!』

『今大会で一番盛り上がった試合かもしれない。多彩な技の応酬は見事の一言に尽きる。』

『後半は速過ぎて目で追えませんでしたが、凄い戦いでした。しかし、ここまで戦えて、ハヤト選手はなぜウッツ選手の時にあんな卑怯な手を使ったのでしょうか?まさか、ウッツ選手はハヤト選手がそうまでしないと倒せない相手だったのでしょうか!?』

『それは無いと思うが・・・』

『なぞは深まるばかりです。』


何だかよくわからない考察をする放送席を横目に、俺はぐったりしたリリィさんを担いでステージを後にした。

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