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裏方の勇者  作者: ゆき
武闘大会編
74/186

三回戦2

「治りそうか?」

「大丈夫だけど~やり過ぎだよ~」


結依はそう言いつつもカミルを治していく。折れた腕や傷が、逆再生のようにもとに戻っていく。


「ごめん。カミルが全力でって言うから。ゼクレス侯爵も申し訳ない。」


ゼクレス侯爵は、恰幅の良い優しげなおじさんで、少し心配そうな様子でカミルの治癒を見ていた。


「いえいえ、あなた相手にあそこまで善戦したカミルを誉めてやりたいですな。」

「そう言っていただけると助かります。」


ここに居るのは勇者パーティーとアリア王女、侯爵夫妻、カミル、クラリスだけなので、話を切り出しても問題ないだろう。


「光輝、伝言の話をしても大丈夫か?」


光輝はクラリスに一度アイコンタクトをして、首を縦に振る。


「構わないよ。」

「まず、このムスペリオス王都で何が起きているんだ?」

「まだわからないんだ。何かが起きるかもしれない程度のものだよ。」

「それが淀んでいるって話か。」

「聞いたんだね。結界の張ってある王宮内も淀んでいるらしくてね。おそらく上級貴族が関わっているね。」

「大体わかった。まぁ必要になったら呼んでくれ。」

「珍しくやる気だね。変なものでも食べたのかい?」

「そんなわけないだろ。大会から逃げれるなら喜んでやってやるよ。なんか司会にボロクソ言われるし・・・」

「あれは酷かったね~」

「最初にあんなことしなきゃ嫌われなかったわよ。」

「ですわね。」

「あれは不幸な事故だ。」


ふざけた話に切り替わって来たところで、離脱する算段を考える。

結依の治癒魔術でカミル怪我は完治し、聞きたいことも聞けたので、ここに居る必要もないだろう。カミルの意識は戻らないが、すぐに目を覚ますだろう。

適当に返事をしつつ、皆に責められる前に離脱した。




"竜の息吹"のメンバーの居るところに戻る。

リリィさんも無事に勝ち上がり、三回戦最終試合が開始しようとしていた。


『さて、本日ラストの試合です。変態筋肉こと、レックス選手の入場です。』

『レックス殿の相手は剣士の冒険者か。厳しい戦いになるだろうな。』

『か、勝つ方法はあるのでしょうか?』

『殺しにいけば何とか傷くらいはつけられるかもしれないな。』

『殺す気ではなくてですか?』

『殺す気では足りない、殺しにいかないと。どうせ死なないだろうから。』

『そ、そうですか。しかし、そこまでしても傷だけなんですね。』

『後は地道に削るしかないな。』

『そんなことしてたら一撃貰って負ける気がするのですが・・・』

『だろうな。』


そして試合が始まる。

冒険者はロングソードを構え、対するレックスはフロントリラックスで待ち構える。





王都の屋敷


闘技場の拡声された司会と解説が聞こえてくる。男はワイングラスを片手に窓から闘技場を眺める。


「始まりましたか。彼がどこまで出来るのかが楽しみですね。」

「楽しんでいるようですね。」


男の後ろで黒いモヤが集まり、人の形を形成していく。否、出来上がったのは人間に似たシルエットをした骸骨だった。


「その姿を見られると厄介なのですが?アンデッドロード。」

「そう言いなさるな。ワタシもアナタと同じくらいこの実験に興味があるのですよ。」


骸骨はグラスを取り出し、ワインを注いでから男の横に並ぶ。


「この窓から闘技場の中は見れませんよ。」

「おや、残念ですね。本番は明日です。楽しみにしていますよ。」


そう言ってグラスを男の方に掲げて飲み干した後、再びモヤとなって消えた。


「・・・最後に笑うのは私ですけどね。」


男の呟きは誰に聞かれることもなくかき消えた。




冒険者は意を決してレックスに肉薄する。


「はぁ!」


冒険者の渾身の一撃のはずだった。全力で走り、思い切ってロングソードを振り下ろすも、まったく微動だにしないレックスに一瞬戸惑う。

その迷いで全力を出し切れず----


ガキンッ


金属がぶつかり合うような音が響く。


「なに!?」


冒険者の一撃は、全く動かなかったレックスの額に傷すらつけられずに止められた。


「まだまだ筋トレが足りんな!」


レックスは身体をしならせるように腕を引いて、右ストレートを放つ。


ゴォッ!


冒険者はギリギリで躱すも、おおよそ拳圧の音ではないような拳の風切り音と、生み出される突風で後ろに吹っ飛ぶ。

すぐに立ち上がって剣を構えたのはさすがは魔物と死闘を繰り広げてきたプロいったところだろうか。


『凄い拳圧です。女性の顔面をフルスイングした事は許せませんが、やはり先ほどの戦いは手加減していたのでしょうか!?』

『そのようだな。あきらかに威力が違う。』


「ッチ。使うしかないのか。」


冒険者の呟きに、レックスがピクリと反応する。


「おいおい、温存しながら負けるなよ。出せるモンがあるなら今出しな。」

「・・・ッチ。ならお望み通り殺しにいってやるよ。」


冒険者は懐から黒い魔石を取り出して、魔力を込める。


パキンッ


かん高い音を立てて魔石が割れ、黒いモヤが噴き出す。モヤは冒険者を包み込み、真っ黒な球体へと形を変えていく。

だんだんと球体が小さくなり人の形になっていくが、冒険者の原型はとどめていなかった。


「がああぁぁぁぁああぁぁ!!」


靄に包まれた状態で咆哮し、剣のような物を水平に薙ぐように振るう。一気にモヤが消えて姿が見える。

体長は3mを超えるだろうか、筋肉は肥大し、肌はモヤが付着したように青みがかったダークグレーになっていた。ロングソードもより禍々しく姿を変え、両手剣だったものを、軽々と片手で振るっていた。


『へ、変身技でしょうか!』

『そんなわけないだろう!審判、止めに----』


「ぐぉおおおぉぉぉぉ!!」


再びの咆哮と共に走り出し、レックスを切りつける。水平に振ったロングソードをレックスがガードする。


ガンッ!


先程よりも轟音が響き、レックスは観客席側の壁まで弾き飛ばされて激突し、土煙を上げて見えなくなる。


『場外です!』

『バカ者!規定違反のマジックアイテム使用で反則だ!』

『・・・反則負けで、レックス選手の勝利です。皆さんは危険なので避難の準備をお願いします。レックス選手、生きてますか~?』



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