パーティー
5人はアレクシアに王都を案内される。
もちろん護衛が付いての視察になるのだが。
アレクシアとアリアに国の違いを説明されながら見て回る。
今日の夜に勇者の歓迎パーティーが開かれるので、実際にムスペリオスの町並みを体感して、話のネタを探そうといった作戦だ。表向きには。
アレクシアは王女としてあまり騎士の演習以外で外に出る事は少く。
アリアも他国をフラフラと歩き回る事は出来ないので、それも兼ねての案内となった。
アリアとアレクシアの積もる話もあったが、メインはすぐに光輝の強さの話へと変わっていった。
「では、勇者殿がゴブリンキングを討ち取ったと言うことか。」
「たまたまだよ。皆のフォローがなければ討てなかった。」
「謙虚だな。」
「事実だからね。ただ、次があれば1人で出来る位に強くなるよ。」
「ほぅ、すごい自信だな。」
「勇者だからね。人々を安心させるためにもそのくらい出来るようにならないと。それに、やりたいことがあるんだ。」
光輝はアレクシアに優しく微笑んだ後、真面目な顔をする。
「ーーーーッ。そ、そうか。私も王女とは言え、騎士の端くれだ。勇者殿とは是非とも手合わせ願いたいものだな。」
「ア、アレクシア!」
少し焦った様子でアリアがストップをかける。
「純粋な興味だ。異世界の勇者がどれだけ強いのか気になるだろう。」
「機会があればね。勇者とはいえ、色々なところで暴れまわるのは良くないだろう。」
「それもそうだな。私も大会に出るべきだったか。今から父上に打診してみるか?」
歩き回り、お腹が空いてきたころ、王室御用達のレストランで昼食をとり、午後からも少し見て回った。
「貴族区画なんてあるんだね。」
「基本的にはそんなことしないのだが、多少治安が悪くなるからな。変な輩が出ないように、貴族しか利用しなさそうな場所は区画を分けたんだ。」
「冒険者が多いというのも大変だね。」
「しかし、冒険者で成り立っている国だ。ないがしろにはなできない。」
「そうだね。」
視察の時間も終わり、王族主催の歓迎パーティーが開かれる
「今日は我が国に勇者殿が来てくれた。話がしたい者も多いだろう。迷惑にならない程度に会話に花を咲かせてくれ。」
国王の音頭によってパーティーがスタートする。
パーティーは、立食スタイルで、端に料理とテーブル。中央はダンス場として使えるように、ホールは大きく空けられていた。
オーケストラが、優雅な曲を奏でてパーティーが始まる。
4人には、代わる代わるムスペリオスの貴族が挨拶をしにやって来る。
やはり光輝が一番人気で、貴族の子女がここぞとばかりに自分のアピールやダンスの誘いをかけている。
光輝は馴れた様子で子女の質問を笑顔で捌いていく。
アリアも、他国の貴族当主と挨拶をしながら、不安そうに光輝をチラチラと見やるが、見るたびに険しい顔をしては会話に戻っていた。
残りの女性陣3人には、貴族の子息達が集まる。
ここは3分割されるので、人だかりは少なくなっているが、結局は全員に回っていくので時間の問題であった。
挨拶を終わらせたアリアが、女性陣のフォローに走り、なんとか質問攻めを捌ききる。
食事をしながらの話も一段落し、ダンスもこなしていく。
光輝は、ムスぺリオスの王女であるアレクシア、クラリスをかわきりに公爵令嬢、侯爵令嬢と可能な限り多くの人と踊った。
アレクシアは自身が騎士でもあるため、身体を動かすのが得意で、光輝とアレクシアの優雅に舞うようなダンスは注目を集めた。
一方、第二王女のクラリスは魔術系であり、身長差もあった為、光輝にフォローされながらも無事踊り切った。
地位の高い人たちから順に踊っていく中に、なぜかアルカディア王国の令嬢システィーナの姿もあった。
女性陣も王子や貴族の子息達に誘われてダンスを踊り始める。
アリアはもちろんの事、杏華と雫は問題なく誘いを受けて踊りだす。
案の定、結依が伯爵の嫡男の足を踏む。
足を踏まれて、ビビッと何かに目覚めてしまった嫡男に追いかけられるのは、また別の話しである。
さすがの光輝も踊り続ける事は出来ず、休憩を取って涼むためにバルコニーに出る。
「さすがの勇者クンも休憩かな?」
どこかの貴族の子息だろうか?と光輝は声をかけてきた方へ振り返と、シャンパン2杯を手に持った優しそうな男が立っていた。
「さすがに踊りっぱなしはつらいからね。君は?」
「失礼。ボクはロレイ。Sランクの冒険者さ。」
ロレイは、グラスをテーブルに置いて光輝に握手を求める。光輝もそれに応じる。
「Sランクか。この国に2人いるという冒険者の1人かい?」
「残念ハズレ。ボクはSランクで唯一どこの国にも属していないフリーの冒険者さ。」
光輝はフリーという言葉に驚く。冒険者ランクが上がれば、必然的に上級貴族や王族と提携を組む事がステータスだったはずだ。”孤高”のSランク冒険者は後ろ盾無しで、トップに上り詰めた1人である。
「そんな人がどうしてここにいるんだい?」
「もっともな疑問だね。公爵家の護衛でこの国に来ててね。勇者が来るとかで、面白そうだったから連れて来てもらったのさ。だから、キミたちを見てビア挨拶しようかと思ってね。」
「そうか。冒険者であれば共闘することもあるだろう。宜しく頼むよ、ロレイ。」
「願ってもいない事だね。そのためにも仲良くしようじゃないか、勇者コウキ。」
ロレイは、シャンパンを手に取り、片方を光輝に渡す。2人はグラスを軽く合わせて、飲み干した。
「共闘の前に実力を見る機会があるんだ。」
ロレイが唐突に語りだす。
「そうなのかい?」
「そうだね。噂でキミが拳闘大会に出場するときいたんだ。実は僕も既にエントリーしていてね。」
「なるほど。確かに上手くいけばぶつかるかもしれないな。」
「当たる事があったら、その時は全力で楽しもうよ。」
「望むところだ。」
2人は、戦えることを願いながらパーティー会場へと戻って行った。




